第038話 とある日の学園生活①

「今日はここまで次回はこの続きからします。」


 午前中の授業が終わり、クラスメイト達が学食に移動し始める。


「僕達も行こうか。」


 野外活動から数か月後、俺達は平和な学生生活を過ごしていた。

 ここの数か月間は学園の授業、放課後の勉強、サリエの教えの下での魔法訓練、食費を稼ぐためのクエストと忙しいながらも充実した学生生活を楽しんでいた。


 魔法の方は学園の授業とサリエとの訓練のおかげで魔力コントロールが向上した。

 以前エルフの里で会得できなかった掌の上に魔力を集める事ができるようになり、今では正確に放つ事もできるようになった。


 冬也達も今よりも強くなるべく各々動き始め、放課後に全員が揃う機会が減っていったが昼食だけは一緒に取る様にしている。


「あぁ。」


 だが、学食に行く前にやらなければいけないことがある。

 俺は席を立ち同じ列の少し前で座るヴィンスの肩に手を置いて揺らす。


「授業終わったぞ。」


「もう、そんな時間?」


 野外活動以降、ヴィンスとは共に行動している。

 また、高い魔力コントロールとスキルを持つヴィンスに『卒業後も一緒に来ないか?』と誘っているが現在保留中。


 俺達がここまで来た経緯が経緯なだけにすぐには結論が出せないのだろう。

 無理強いをしても仕方がないのでヴィンスの答えを待つのみだ。


「しょっちゅう寝ているけど怒られても俺は知らないぞ。」


「はは、気を付けるよ。」


 ヴィンスの奴、明日も寝るな・・・。

 仲間と共に教室を出ようとすると丁度スタリエ学園長が入ってきた。


 スタリエ学園長が教室に来るなんて珍しいな、何かあったのか?


「午後の魔法の授業、先生に急用が出来たから自習にしようと思ったけれど、サリエが何かやってくれる?」


「ボクなりの魔法の話でも良いかな?」


 突然の無茶振りと思いきやサリエはあっさりと受け入れた。


「えぇ、お願いね。」


 魔法訓練の時もそうだったけど、サリエはスタリエ学園長に似て人に何かを教えることが好きなようだ。

 将来はこの学園で教師として教鞭を振るっているかもしれないな。


 昼食を終えて午後の授業が始まるとサリエが教壇に立った。

 知っている人が教壇に立っているという状況に何だか不思議な気持ちになりながらも俺は耳を傾けた。


 簡単な挨拶を終えたサリエは早速話を始める。


「彩奈、ヴィンス。悪いけど前に出てきて魔法を使ってくれるかな?あ、無属性魔法が得意なヴィンスは変身魔法で。」


 サリエに名指しされた二人は前に出て魔法を発動させる。

 彩奈は炎を出し、ヴィンスは俺の姿に変身した。


「見ての通り魔法は攻撃魔法、防御、回復魔法、召喚魔法などさまざまな種類があり、火、水、風、土、雷、光、闇、無の属性がある。魔法は魔子とよばれる自然界に存在するエネルギーと魔力が結びついて発動する。」


 サリエは基礎を見直すように1つ1つ話していく。


「魔術に目覚める人が多い年代は10代。特に14歳から16歳の頃が一番多いんだ。これは初めてスキルに目覚めた人にも当てはまるんだ。」


 俺や冬也、彩奈にも当てはまっている。

 スキルに関して言えば偶然だけど、確かに俺も冬也も彩奈も個人差はあるけど魔力を扱えるようになっていた。


「理由としては子供から大人へと反抗期など成長に合わせて自我が形成され、魂にオリジナリティが現れるからだと思う。」


 自我が形成され魂にオリジナリティが現れることで精神という土台が出来上がるということなのだろうか?


「中には魔法が使えない人も居るけれど魔力は万物に宿っているから基本的には誰でも使えるはずなんだ。じゃあ、どうして使えないのか?魔法が使えない人を調査した結果分かったこと、それは『どうして火が出るのか?』とか『この水魔法の水はどこから来るのだろうか?』など無意識化で魔法を非現実的なモノだと感じているからなんだ。そのせいで魔法のイメージが安定せずに上手く使えないんだ。」


 ここでサリエは話を区切るようにわざとらしい咳払いをした。


「魔法についての簡単な説明はここでオシマイ!ここからはボク個人から見た魔法の話をするね。ボクから見た魔法は『再現』かな。」


 生徒達の表情が怪訝な顔に変わる。


「根拠は回復魔法。もし回復魔法が傷を治しているのはなく塞いでいたら跡が残る傷もあるはずなんだ。でも、そんな事実は今のところ確認されていない。」


 だから、魔法で傷がなかった体または細胞を『再現』していると言いたいのか。


「だけど、そう考えるとある疑問が残る。召喚魔法だ。霧くん、前に来てくれるかな?」


 指名されたので前に出るとサリエは床に魔法陣を描き始めた。


「今から霧くんには使い魔を召喚してほしいのだけど良いかな?」


「良いけど、どうやって召喚するんだ?」


「そこの魔法陣に魔力を注ぎ込めば大丈夫だよ。」


「わかった。」


 使い魔、術者と主従関係を持つ存在。

 伝言、偵察、戦闘等些細なことから戦闘のサポートまで用途は幅広く、動物、魔物、精霊、ドラゴン、多種多様だ。


 一般的にはカラスやフクロウ、猫、サラマンダーのイメージが強いけど何が出てくるのだろうか。


 手に魔力を集中させ魔法陣に一気に注ぎ込む。

 魔力を注ぎ込まれた魔法陣の中心は光を放ち、中から一匹の白馬が飛び出してきた。


 飛び出した白馬が俺に近づき顔を寄せてきたので撫でてやると喜んだ。

 その様子を見ていたサリエは俺に向かって質問をする。


「霧くんはこの馬をどこかで見たことある?」


「いや、初めて見た馬だ。」


 なんだったら馬に触ったのも今が始めてだ。


「さっきボクが言った疑問とは、召喚魔法が召喚ゲートだけを『再現』しているとしたら召喚されたこの使い魔は何を基準に召喚されているのかということだよ。召喚される過程が観測出来ないから一般的にはランダムなんて言われているけど、本当は召喚ゲートだけではなく何らかのパスも『再現』されていて固定で呼び出されているんじゃないかな。」


 つまり、偶然ではなく必然であり必ずその使い魔が召喚されるということ。

 それじゃあ、お前も俺と何かで繋がっているのか?


 俺は目の前の使い魔に顔を向けるが白馬は「どうした?」と首をかしげる。

 サリエ個人がどう思っているのか聞いてみたくなった俺は授業を終えたサリエに訊ねることにした。


「なぁ、サリエ。さっきの召喚魔法の話だけどサリエ自身は召喚ゲートの他に何が『再現』されていると思っているんだ?」


 俺の質問に対してサリエにしては珍しく自信なさそうにこう答えた。


「う~ん、こことは違う異なる時間や世界で結ばれた魔力パスかな?」


 ◇


 調査を終えたローラが資料を手に学園長室にやって来ていた。


「こちらが調査報告書です。」


「ご苦労様、急ぎで頼んで悪かったわね。ゆっくりと休養を取ってちょうだい。」


「いえ、サリエのためですからお気にならず。」


『サリエのために頑張ってくれるのは嬉しいけどローラが倒れてしまっては意味が無いのよね。』とスタリエの内心では思っているがそれをローラに伝えても『倒れる前には休養を取りますので』と返されてしまうため、これ以上何も言わない。


 サリエとローラは血が繋がっていないが仲は非常に良い。

 普段学園内に居る時はお互い必要な時以外で話しかけることはないがそれは嫌っているからではない。


 サリエもローラもお互いに公私を分けているため話しかけようとしないだけで一歩学園から外へ出れば休日一緒に買い物に出かけるほど仲が良い二人である。

 今回はローラがサリエのために頑張りすぎたという訳だ。


「報告してもよろしいですか?」


「えぇ、お願い。」


 ローラは資料を一枚捲り報告を始める。


「サリエからの調査依頼を受けてヌブユ大森林全体の生態調査をした結果、ハウリング・ディアの生息は確認できませんでした。念のために似たような魔獣・魔物の有無を過去の資料から徹底的に調べましたがこれも出てきませんでした。また、霧の魔法を使用したという事も聞いていますがハウリング・ディアがそのような魔法を使用する事例はありませんでした。つまり、サリエ達がハウリング・ディアに襲われたのは人為的な可能性が高く、襲わせた者も近くに居たと思われます。」


「そう。」


 スタリエは資料に目を通し終えるとため息をついた。


「目星は付いているのかしら?」


「入学式から野外活動終了までの期間内、国内に居た人物の中で一定の実力があり尚且つ経済的問題を抱えていたビーストテイマーが複数名いました。その内一名が野外活動終了の翌日に出国しています。」


「あちらの世界(日本)に逃げ込んでしまっている可能性が高いということかしら?」


「はい、その可能性が高いでしょう。捜索中でありますが発見は非常に困難かと思われます。」


 捜索には人手が居る。

 日本に住む者で魔法が使える者や魔物に対抗できる人物は多くなく現地で協力を得ることは非常に難しい。


 それにエクレシームから派遣するにしても不慣れな土地のため潜伏先の特定に時間がかかってしまうのだ。


(今後の事も考えて本格的に異世界探索専門チームを育成すべきですかね・・・。)


 ローラが心の内で新たなチームの結成を思案しているとスタリエから指示が飛ぶ。


「卒業するまでに捕まえられれば良いわ。網は・・・、そうね、関東だけに張ってちょうだい。」


「関東だけですか?」


「そうよ。聖都は潜伏するには不向きな国だし、東北の先はいかなる人物も入国を認めていないから行けないでしょうしね。・・・それに寒いから。」


 いやらしく笑うスタリエ。


「消されませんかね?」


「その可能性は低いでしょうね。国家の思惑が絡んでいるならいざ知らず、今回は大方学生同士の揉め事が発端でしょう。本人は脅しのつもりだったのかもしれないけど今回は流石にやりすぎね。」


 スタリエ達の耳には継とオウエンが揉めていた事はすでに入っていたので犯人の予想は大体ついていた。


「何よりもサリエちゃんを巻き込んだのが許せないわね。」


 余裕な振る舞いをしていても怒っていることには変わりはないスタリエ。


「オウエンはどうしますか?」


「後々外交問題に発展しても面倒だから様子を見ましょう。可能性は低いでしょうけど私達の早とちりという可能性も0ではない訳だし、それに今の段階だと本人が勝手にやったと言い逃れするでしょうしね。」


「焦らず勝手にボロを出すのを待つということですね?」


「これ以上何も起こらなければそれで良し、今回は目を瞑りましょう。」


「超法規的措置ですか。」


 ローラから不満が混じった声が漏れる。


「でも、一度タガが外れた人間は何もしなくても勝手に騒ぎ出すと思うわ。」


 ローラの声にスタリエは微笑みながら語る。

 その微笑みにローラは近い将来を心配した。


(スタリエ学園長がこうやって笑うときは碌なことが起こらないのよね・・・。今回の当事者である霧島継という少年、あっちの世界に居る時から色々と巻き込まれているようですがこちらでも問題を起こしてくれますね・・・。国内の警備体制と国民の安全性をしっかり見直しておいた方が良いかもしれませんね。)


 休養を考えていたローラの中で厄介ごとを持ってきた継の好感度が人知れず下がった。


 ◇


 放課後の追加授業を終えた俺は一人で学園の敷地内にある大図書館に来ていた。

 学園の正面から見ると隠れて見えないが大きさはざっと学園の3分の1ぐらいある巨大な図書館だ。


「ここも凄いな。」


 大図書館に入った俺は机やテーブルが並ぶ吹き抜け作りされた中央通路を歩きながら左右の木製本棚に敷き詰められた大量の本を見て語彙力のない言葉を漏らす。


 フィエールさんの故郷の書庫にも圧倒されたけど、ここは別格だな。

 ファンタジー図書館そのものだ。


 魔法を学ぶ学校と図書館は切っても切り離せない関係だけど、ここまでイメージ通りの光景だとある意味感動する。


 だが、すぐに我に返る。


 いつまでも見とれている場合じゃなかった、ここに来たのは調べ物をするためだった。

 タイトルを確認しながら本棚からお目当ての本を探し始める。


『デュプテルス神話』に、この世界の『鉱石』について・・。

 それから・・・、あった。


 壁際の本棚から『魔獣』について書かれた本と『聖都』について書かれた本を数冊手に取って中央通路に並べてあるテーブルへと向かうとフィエールさんが居た。


「フィエールさんも来ていたんですね。」


「えぇ、継さんも何か調べに来たのですか?」


「魔獣について調べようかと、ついでに聖都についても。」


「フィエールさんは何を?」


 フィエールさんは読んでいた本を持ち上げて俺に見せた。


「私は地理についてですね。エルフは人間よりも長寿で有りながらこの世界の地理について詳しくないのです。里に長くいるといつの間にか街の名前まで変わっている場所もありますから。」


 平均寿命が数百年ならそういうエルフが居ても仕方ないよな。


 ただでさえエルフは人間と関わって碌なことがなかったから閉鎖的になっている。

 狩りや戦以外で里の外に出たことがないエルフも存在しているだろう。


 そういったエルフ達にとっては自分達にさえ害がなければ外の世界には興味がないだろうな・・・。

 フィエールさんは例外中の例外だろうけど。


 俺はフィエールさんの前に座るとしばらく本を読み進めた。


 魔獣とは魔子から生み出される獣である。

 魔獣は大きく3つに分けられる。


 何かしらの能力を持っている魔獣、能力は無いが身体的特徴を持っている魔獣、そして原形と思われる魔獣である。


 能力や身体的な特徴を持つ魔獣はその地域の特性に合わせて生まれてくる。

 火山近くなら火を操る魔獣、縄張り争いが激しい地域では体の一部が発達した魔獣が生まれる。

 例、ファイヤーバード、ブリザードサーペント、アイアンホーンなど


 能力や身体的特徴を持った魔獣が生まれる原因は誕生する地域の自然エネルギーまたは生命エネルギーを魔子と一緒に取り込んでいるためと言われている。

 ただし中には例外の魔獣も存在するが進化または変化の経緯は不明。


 分かっているのは他の魔獣よりも異質な力を持ち個体数も少ないという事。

 さらに読み進め紫の魔獣について書かれていないか確認する。


 ファイヤーバード、グリフォン、コカトリス、サンダーバード、ガルーダ、ヒポグリフ。

 紫の魔獣について何か手掛かりがないか1ページずつ丁寧に鳥型の魔獣について読み進めるが紫の魔獣についての情報は書かれていなかった。


「書かれてないか・・・。」


 正直言って収穫ゼロだ。


「紫の魔獣のことですか?」


 読む手を止めたフィエールさんがこちらに向く。


「はい、俺達がエクレシームに訪れてから随分と経ちましたけど未だにこっちの世界では紫の魔獣に出会っていません。冒険者ギルドにも確認したんですけど似たような外見をした魔獣が現れたという報告は今のところ受けていないそうです。」


 フィエールさんの考え込むように口を開く。


「学園内でも紫の魔獣の話は聞きませんからこの世界ではまだ現れていない可能性が高いですね。」


「俺の世界であの魔獣が初めて現れたのは異界変災後のはずなので、二つの世界が繋がったことが原因なのは間違いないはずなんですけどね・・・。」


 誰かが送り込んでいるのか。

 仮に送り込んでいる人物がいるとすれば、俺の中で心当たりがあるのは時間を止めることができる銀色の髪をしたあの女の人だけだけど。


 だけど、俺を捕まえる理由がないんだよな・・・。

 捕まえるなら初対面の時に捕まえればいいだけの話だし。


「ローラさんから連絡まだ来ていないのですか?」


「待っているんですけど、それもまだですね。」


 紫の魔獣から採取した魔石を調べてもらうにも師匠が言っていた詳しい人物が現在エクレシームに不在のため待機している状態だ。

 他の研究者も居るには居るが魔石の出所が分からない以上教えてもらった人物に見てもらう方が安全性・信用性上の問題でも良いだろう。


 ローラさん経由で連絡が来る予定になっているがいつになるか・・・。


 持ってきた数冊の魔獣に関する本をフィエールさんと一緒に確かめるがやはり情報らしい情は得られなかったので『聖都』について書かれた本を読むことにした。


『聖都ネストレア』

 教皇を頂点として幾人もの枢機卿がそれを支える体制からなる国家。


 人口の7割が信仰者であり国を建国してから現代に至るまで女神信仰を守り続けてきた国家である。

 この世界では世界最大の信仰で世界各地に教会が置かれているようだ。


 聖都ネストレアの始まりはネストレアという一人の男だったそうだ。

 人一倍女神を深く信仰していたネストレアは女神信仰なるモノを作りあげ、信仰を広めていったのが始まりだと言われている。


 また聖都ネストレアは歴史の中で何度か戦争を体験しているが一度も戦場では負けたことがないため他の大国もその軍事力には警戒しているようだ。


「そろそろ私たちも帰りましょうか。」


 切りの良いところでフィエールさんから声がかかる。

 周囲に居た多くの生徒達はすでに帰ってしまったようで館内にいる生徒は俺達を含めた数名しか残っていなかった。


 集中しすぎて周りの変化に気づかなかったようだ。


「すみません。本を片付けてきますね。」


 俺は持ってきた本を返しに本棚へと向かい本を戻す。

 すると本を取った時には感じなかった感触がした。


「ここだけ壁の向こうが空洞?」


 なんとなく気になった俺は本を取った列の壁を調べて見ることにした。

 手探りで調べた結果、本を取った列の天井の一部にツルツルとした感触があった。


 カモフラージュしてあるから見た目では気づけないがここだけ明らかに木製じゃない材質が使われている。


 魔石か?


 試しに魔力を流し込んでみるとガコッ!と音が鳴る。

 そして、足元の床がエレベーターの様に下がり始めると隠し部屋に到着した。


「ここは個人的な研究室みたいだな。」


 部屋の中には豪華な装飾を施された本やメモが乗ったテーブルと研究資料らしき束が散らばった汚い空間があった。

 中に入り部屋を見渡すと『魔子の正体について』『時空跳躍魔法の研究について』『転移魔法の個人使用の研究』『娘の召喚魔法についての見解』など興味が惹かれるものが多々あった。


 部屋の中にある資料の中で気になったのは『魂結晶について』という初めて聞いた言葉が書かれた資料だった。


「魂結晶?」


 聞きなれない言葉が書かれた資料を手に取って眺めていると入り口から声が聞こえてきた。


「仕掛けが起動した気配があったから来てみれば継ちゃんか。」


「スタリエ学園長。」


「女性の部屋に勝手に入るなんて良くないわよ。」


「すみません。なんとなく気になってしまって。」


 スタリエ学園長は怒るわけでも無くゆっくりと近づいてくると俺が持っていた資料を覗き込んだ。


「ま、継ちゃんなら良いでしょ。なるほど、継ちゃんはそれが気になるのね。」


「初めて聞いた言葉だったので気になって。」


「魂結晶はねぇ、簡単に言えば死んだ後に残った魂の結晶の事よ。」


 死んだ後に残った魂の結晶?


「通常死亡すると魂は散ってしまうけれど極まれに残る人も居るのよ。」


「魂が残る・・・。」


「そうよ、条件は強い想いと魂の強さかしら。私はその魂結晶に可能性を感じているのよねぇ。」


 スタリエ学園長の目が輝きだす。


「どんな可能性ですか?」


「聞きたい?ねぇ、聞きたい?」


 うわ~、ちょっと面倒くさい。

 ここで「結構です」とか言うとさらに面倒くさい事になりそうな気がしたので「ぜひ。」と答える。


「それは『スキルを取り出せないか』ということよ。」


「え?」


 思わず素の返事をしてしまう。


「魂を根源としているスキルならその魂の結晶である魂結晶からスキルを取り出せるのではないかという事よ。」


「理屈ではわかりますけど実際可能なんですか?」


「さぁ?」


 さぁ?って・・・。


「わからないから研究しているんじゃない。」


 そう言われてしまうと返す言葉がない。


「それよりも良いの?」


「何がですか?」


「突然継ちゃんが消えたから上でフィエールちゃんがアワアワしていたわよ?」


 あっ、忘れていた。

 すぐ戻らないと!


「俺、戻ります。勝手に入ってすみませんでした。」


「何か困ったときは協力してね。」


 不吉なセリフを背中で受け止めながら急いで図書館に戻るとご立腹なフィエールさんから説教を受けるのだった。

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