第033話 入学式

「ん、う~ん。」


 窓から差し込む光に起こされて目を覚ますと窓の外から鳥の鳴き声を聞こえてくる。


「朝か・・・。準備しないとな。」


 部屋の壁に掛けてある制服に腕を通しながらふと思う。

 こんな風に学校の制服を着るのはいつ以来だろうか?


 異界変災以前はたまに結に起こされては登校の準備をしていた。

 それが今じゃ異世界の学園に通おうとしているのだから人生は何が起こるか分からない。


 鏡に映る制服姿の自分に思わず笑ってしまう。

 似合っていない。


 結なら何て言うかな?

 そんなことを考えながら部屋から出ると彩奈が自室から丁度出てきた。


「あ、継くん。おはよう。」


「あ、あぁ、おはよう。」


 制服姿の彩奈に一瞬見とれてしまった。


「制服着てみたけど・・・。どうかな?」


 胸にパルヌス学園のエンブレムが刺繍されたブレザー、紅いリボン、チェック柄のスカートを身に付けた彩奈が髪を弄りながら不安そうに尋ねてきた。


「普通に似合っているな。」


「『普通に』って所が気になるけど、似合っているなら、うん、良いかな?」


 彩奈の中で何かが解決したようだ。

 不安そうな表情が晴れた彩奈は上機嫌に1階の食堂へと下りて行った。


「・・・。」


(え、一緒に食堂には行かないの?)


 俺は一人廊下に取り残された。


 朝食を済ませて宿を出るとパルヌス学園へ登校する学生の姿が目に入る。

 友達同士話しながら歩いて登校する生徒や馬車で登校する生徒、魔法使いの帽子をかぶっている生徒にエルフとは違う異種族の生徒など千差万別。


 分け隔てなく受け入れている様だ。


 パルヌス学園に到着した俺達はステンドグラスが張れた大広間へと集められた。

 正面にある王族らしき人物が描かれたステンドグラスがこの学園の歴史を実感させる。


 集められた新入生の顔にはこれからの学園生活への期待や不安が表情に現れ落ち着きがない。


「懐かしい雰囲気だね。」


「式が始まるまで結構時間が掛かったりするのよね。」


「そういうものなのですか?」


 隣で聞いていたフィエールさんは言っている意味が良くわからないと首を傾げる。


「あるあるですね。」


 学校行事の度に準備不足や生徒の話し声が収まるまで待たされたりと何かしらの理由で開始までの時間がかかるお約束だ。

 この後お約束通りさらに20分ほど待たされてから入学式が始まった。


「静かに。」


 広間に学園長の秘書ローラの声が響く。


「それでは入学式を始めます。初めに学園長であるスタリエから挨拶があります。」


「「「「・・・。」」」」


 しかし、静まり返る広間に学園長が現れることは無かった。

 いつまでも現れない学園長に広間は次第にざわつき始める。


「また居なくなったんですか!?ちょっと目を離すとすぐにあの人は・・・!」


 脇でローラと教職員達が揉めている声が聞こえてきた。

 学園長が逃亡したのだろうか?と考えているとどこから鳴き声が聞こえてくる。


「キュルウルルオ!」


 段々と近づいてくる鳴き声に広間はさらにざわつき新入生達は周囲を見回す。

 そして、次の瞬間。


「パルヌス学園は貴方達を歓迎するわ!」


 正面のステンドグラスをぶち破りながらグリフォンに乗った学園長が登場した。


「きゃあああああああああああ。」


「うわああああああああああ。」


「歴史あるステンドグラスがああああああああああ!」


 突然のグリフォンの乱入で驚愕した生徒の悲鳴の中に副学園長(男性)の絶叫が大広間に響き渡る。

 無残、王族らしき人物が描かれたステンドグラスは学園長の手によって粉々に砕かれてしまった。


「学園長!いつも、いつも!たまには真面目にしてください!」


「そんなに怒らなくても良いじゃない。登場にはインパクトが重要なのよ?」


「普通で良いんです!」


 グリフォンを下りたスタリエ学園長はローラに説教されて「直せば良いのでしょう。直せば。」とブーたれて飛び散ったステンドグラスを直す。


 大丈夫か?この学園・・・。


 学園長のイカレ具合に新入生達はドン引きしていた。

 そんな気持ちを知ってか知らずか学園長は俺達に改めて挨拶をする。


「新入生の皆さん、入学おめでとう。当学園はここに居る皆さんを歓迎します。皆さんの成長のためなら武術や魔術だけではなくあらゆる分野でサポートを惜しみません。使えるモノは教師でも使ってください。ここにいる皆の成長を楽しみにしています。」


 短い挨拶を終えるとスタリエ学園長はローラに連れられて舞台から退場することになった。

 ローラの説教が待っているのだろう。


「ここに来たのは間違いだったかな?」


「彩奈、辞めるなら今のうちですよ?」


「使えるモノは教師でも使えって中々言えないよね。」


 三者三様微妙な顔をして酷い言い様である。

 だが、あんな言動をしていても歴としたこの国のトップだ。


 現在エクレシームでは王制が廃止されており旧王族達は軍隊を持たない領主という立場で学園と協力しながらこの国を支えているらしい。


 学園長が去った後、しばらくすると舞台に戻ってきたローラから以下の説明を受けた。


 ・これから約1年半、学生は魔法・武術をメインに学んでいくことになる事。

 ・城内の訓練場など一部の場所では時の流れが倍である事。

 ・放課後、休日は禁止されている事項(命を削る禁術など)以外ならば自由に訓練、研究することが許されている事。

 ・冒険者ギルドの依頼を優先して授業を休むことが許可されている事


 などなど多くの説明を受けた俺は施設の話にひっかかった。


 一部の場所では時の流れが倍?

 これって師匠が持っていた魔道具の効果と似ているな・・・。


 師匠は持っていた魔道具の事を『特殊な結界を参考にして作ったものらしい』って言っていた。

 だとすると、この学園に張ってあるだろう結界がそれなのだろうか?


 もしも、この学園の結界を参考にしているのなら魔道具を作成した人物はここの関係者かここに訪れたことがある人物であるという事だ。

 もしかすると魔法でステンドグラスを修復していたスタリエ学園長が作成した人物かもしれない。


 分かったことがあるとすれば入学手続きが済んだ際まだ陽が高かったのは学園の仕様が関係していたからということだ。

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