第032話 <魂の共鳴>と適性試験

 冒険者ギルドに着いた俺達を待っていたのは世紀末のような荒くれ者や一流冒険者ではなくギルド内で暴れた不届き者を制圧した受付嬢だった。


「あ、もしかしてパルヌス学園の新入生さんですか?冒険者登録はこちらです。」


((((え、えぇ・・・。))))


 不届き者の襟掴みながら笑顔を向ける受付嬢の姿に入り口で茫然としていた俺達はドン引きした。

 受付嬢の後に付いて行くとヒソヒソ話がギルド内から聞こえて来る。


「馬鹿な奴だよな。このギルドで暴れることは死を意味するのによ。」


「きっと余所のから来た奴だぜ。噂じゃ、ドラゴンをワンパンした奴もいるらしいぜ・・・。」


「マジかよ・・・。」


 エクレシームの受付嬢は学園長推薦の学生や元一流冒険者など優秀な人材から構成されているそうだ。

 採用理由はさまざまだが一流冒険者パーティと同等の戦力があるそうなので下手に喧嘩を売ると即返り討ちである。


 以前師匠との会話でも出ていたが貴重な素材の調達など重要な依頼にはそれなりの実力を持った冒険者が必要となる。

 そんな冒険者達に舐められない様に受付嬢も実力者じゃなければいけないらしい。


 なら最初から男性が受付をすれば良いのでは?と思ったがイメージUPの関係上華がある女性の方が受付には向いている気がしたのでその考えを改めることにした。


「担当させていただきますナタルです。」


「よ、よろしくお願いします。」


 制圧していた姿が脳裏に焼き付いてしまい笑顔で対応してくれるナタルさんに緊張している自分が居た。


「迷惑をかけないお客様には何もしませんよ?」


「す、すみません・・・。」


「いえいえ。」と笑うナタル。


「早速ですが冒険者登録する方はここにいる4名様でよろしいですね?」


「はい。」


「では、隣の部屋にある魔導装置で登録しますので移動をおねがいます。」


 言われ通り隣の部屋に移動するとカードを置く台と直径5m程の魔石らしき球体が設置されていた。


「では、お一人ずつお願いします。台にカードを乗せて、すぐ横の置いてある四角形の魔石に魔力を流してください。」


「なるほど、ここにカードを置けばいいんだな。」


 台にカードを乗せて四角形の魔石に魔力を流すと魔石が光り出した。

 すると目の前にスキル名が浮かびあがる。


 光はチューブを通して四角形の魔石から球体に吸収され、しばらくすると収まった。


「登録完了しました。次の方どうぞ。」


 ナタル促され冬也、彩奈、フィエールさんと後に続いた。

 全員が登録し終わるとナタルさんから説明を受ける。


「パルヌス学園と冒険者ギルドで更新が可能ですので定期的に更新して確認するようお願いします。万が一旅先で冒険者ギルドがなかった場合には最大宗教であるネストレア教会をお探しください。そこでも更新が可能となっております。」


「冒険者ギルドがない地域もあるのか・・・。覚えておかないとな。」


 ギルドがない場所では依頼を受けることができないため資金調達が難しいということだ。

 新しい場所に向かう際には事前に調べておくことが大切だな。


 もし無かった場合は資金を貯めてからの移動となる。

 この情報だけでもここに来た甲斐はあった。


「最後にスキルを知られるという事は手の内を知られるという事、むやみに他人に見せない様、気を付けてください。」


 とナタルから最後の注意を受けて説明が終わった。


 改めて自分のカードでスキルを確認してみることにした。

<渇望の一撃><急加速>と異界変災当初に獲得した名前が浮かび上がる。


 漫画やゲームでよく見るけどこの手の技術って一体誰が開発しているのだろうか?

 オーバーテクノロジーだよな。


 さらに<作成><ウォール・ラン><戦闘気装>と続き今までのスキルが表示される。

 だが、表示されるスキルはそれだけではなかった。


<瘴気耐性>

<魂の共鳴>


 と新たに2つのスキルが浮かび上がったのだ。


<瘴気耐性>はなんとなく分かる。

 東瀬市の戦いで何度か瘴気と接する機会があったからその時に自然と獲得していたのだろう。


 だけど<魂の共鳴>って何だ?

 共鳴・・・。


 一人で考えても分からないので冬也に相談してみることにした。


「なぁ、冬也このスキル何だろう?」


「<魂の共鳴>か・・・。もしかしたらこれに関係しているかも。」


 心当たりがあるのか冬也はカードに書かれた自分のスキルを俺に見せた。


「<魂の共鳴者>?」


「うん、きっと継の行動やスキルが僕にも影響しているのかも。<急加速>と<加速>、剣と盾みたいな感じで。」


「つまり、俺の成長が冬也にも影響して何かしらの形で今後も現れるかもしれないという事か?」


「多分。それが継を補う力なのかそれとも似たような力なのか、あるいは互いの力を引き出すのか分からないけどね。」


 全部が全部という訳ではないと思うけど今後も俺の成長の仕方一つで冬也の戦闘スタイルに影響を及ぼす危険性があるのか。


「変な方向に成長しなければ良いだけだから何とかなるだろ。」


「そうだね。それじゃあ酒場で教えてもらった宿屋に行ってみようか。」


「あぁ。」


「それはそれとして適当な所がルーザァさんに似てきたんじゃない?」


「嫌なこと言うなよ・・・。」


 冒険者ギルドを出た俺達は酒場があった場所まで戻ると付近で営業していた『ソーラー』という宿屋に入った。


「いらっしゃい。」


 宿屋に入ると40歳後半の男性が番台から挨拶した。


 内装は至って普通の2階建ての木造づくり。

 内装を見る限り変わった様子はなかった。


「パルヌス学園に通う間ここを宿泊先にしたいのですが。」


 番台に近づくと番台に置かれたある物に目が行った。


 これってフィギュアとガラス製のスタンドか?

 細部まで造り込まれたパルヌス学園の制服を着たパンを咥えた女の子のフィギュアと同じくパンを咥えた女の子の絵が描かれたスタンドがあった。


「お目が高いな。これに興味があるのか。」


「以前似たようなものを見たことがあるだけですけど。これ良くできていますね。」


「そうだろう、そうだろう。実は密かに流行っているのだ。」


 俺がほめると気分を良くしたのか店主が上機嫌になった。

 あれ?これ褒めればイケる?


「継さん、この人形は何ですか?魔道具ですか?」


 フィエールさんは初めて見るフィギュアに興味示し眺めはじめた。


「これはフィギュアと言って立体的な模型なんです。モデルは人間だけではなく乗り物や動物、植物、建物、食べ物など様々。ここにあるフィギュアは良くできているので手掛けた職人の腕は相当なモノだど思います。」


「なるほど、確かに細かい所まで造り込まれていますね。」


 うんうんと頷き、さらに気分を良くした店主はスタンドの説明を始めた。


「このスタンドの背中には変身魔法を応用した魔術式が書かれていてな。魔力を注ぐと・・・。」


 パンを咥えた絵から私服姿の絵に変わる。

 普通に凄い。


「継、もう良いかな?」


 感心してスタンドを眺めていると苦笑いしている冬也が声を掛けてきた。


「悪い、あまりにも出来が良かったから、つい。」


 目的を忘れるところだった。


「話を戻しますがパルヌス学園を通う間こちらを宿泊先にしたいのですが。」


「あぁ、良いぞ!話も合うからな!学園に通う間、金さえ払えば食事は俺が面倒を看てやる!安心しろ、俺の腕はプロ級だからな!」


 笑う店主を余所に何だかんだ有りながらも宿泊先が決まり安堵する俺達だった。


 ◇


「次、〇〇番。」


「はい。」


 宿泊先が決まり数日が経ち俺はパルヌス学園に来ていた。

 入学式に来ているわけではなく、その前の適性試験に来ていたのだ。


 適性試験と言っても名ばかりで実際は入学する生徒の実力を事前に把握するという事前調査のようだ。

 そういったものは入学手続き時にしておけば良いのにとも思ったが俺達のような異世界(日本)からの入学者の人数が分からないため後日にしたのだろう。


 又、冒険者ギルドに登録している生徒は試験結果から各々の駆け出すランクが決まるそうだ。


「武器はここに置いてある物ならどれを使っても良いと言われたけど、どうするか。」


「継さんは剣じゃないのですか?」


 並べられた武器を前に考え事をしていると横から顔を出したフィエールさんが覗き込むように話しかけてきた。


 冬也と彩奈がこの場に居ないのは隣のスペースで別の試験官相手に順番待ちをしているからだ。

 おそらく冬也も彩奈もいつもの武装で挑むのだろう。


「折角の機会なので剣だけじゃなくて投擲用のナイフも試してみようかと。」


 剣1本で挑むのも良いが少しでも戦闘の幅を広げたいと思った俺はダメ元で投擲用のナイフを試してみようと思ったのだ。


「ここに並べてある物は良いナイフですね。」


 フィエールさんは投擲用のナイフを手に取り短く感想を漏らす。


「投擲用のナイフは刺さることが前提としているため切れ味が然程ありません。ですが、このナイフは鍛冶師の腕と素材が良いのでしょうか。近接武器としても十分使えます。」


 そういうモノなのか。

 素人の俺からすれば違いが分からず、投擲用ナイフはこういうものだと思っていたけどフィエールさんのように見る人が見れば違いが分かるようだ。


「次、〇〇〇番。」


 俺の番号が呼ばれる。


「はい!すみません、ちょっと行ってきます。」


「頑張ってください!継さんなら大丈夫です。」


 ナイフ3本を忍ばせた俺は用意された剣を身に付けて試験官の前に立つ。


「君は・・・、招待状の生徒ですか。」


 値踏みするように全身を上から下へと視線を落とす50代の男性試験官。


「私の名はゲオルグ。本日、試験官を務めさせてもらう。老いているが遠慮なくかかって来なさい。」


 ゲオルグは木剣の剣身に手を当て先程までは使用していなかった強化魔法を剣身に付与して構える。

 剣を立て構えた姿はまるで英国騎士を思わせる気品が溢れていた。


 直感ではあるがある種の凄みを感じる。


(気軽に挑もうと思っていたのにどうしてこうなった・・・?)


 俺は心の中で愚痴を溢しながら剣を抜いて構える。


 相手は試験官だ、命までは取られない。

 なら、何も考えず思いっきりぶつかろう!


「いきます。」


 強く床を踏み正面からぶつかる。

 強化された木剣と剣がぶつかりガン!と低い物理音が会場内に響く。


「迷いが無い良い打ち込みです。老体の身には堪える。」


 片手で受け止めておいてよく言う。


 その場で数度打ち合うがゲオルグは避けることもせず軽々と受け止める。

 一旦距離を取り側面に回り込む。


 その間ゲオルグは場を動かず俺の出方を窺っている。

 側面から距離を縮める中、ゲオルグの懐に一蹴りで届く範囲に入った瞬間<急加速>を発動させる。


「はぁああ!」


「ほぅ・・。」


 急に距離を詰められたゲオルグは少し驚きの顔を見せ、初めて体を動かして剣を避ける。

 隙だらけの俺の背中目掛けてゲオルグの木剣が打ち下ろされるが素早く体の向き変え剣で受け止める。


「これはどうです?」


「くっ・・。」


 3度ほど打ち合うが一撃、一撃打ち込まれるたびに威力上がり体勢を崩される。


「はぁっ!」


「っ!」


 ゲオルグが俺を弾き飛ばすと距離を詰める。


 ここしかない!


 投擲用のナイフを2本腰から取り出し<オーバーレイ>を発動させてゲオルグに投げた。

 さらに即座に<急加速>発動させて俺も距離を詰める。


 ゲオルグは回転しながら飛んで来るナイフを1本は顔を傾けて避け、もう1本は木剣で打ち払い防いだ。


「ここだ!」


 ナイフを打ち払った刹那の隙に目掛けてゲオルグへと剣を放つ。


「ふぅっ!」


 ゲオルグは敢えて継の剣を防がず迎え撃ち、木剣と剣が激突する。

 ぶつかり合った互いの剣は各々後方へと飛びそれぞれ金属音と物理音を響かせながら床に落ちた。


 周囲は知り合い同士「引き分け?」などと耳打ちし合いざわついている。


 しかし、ゲオルグは。


「私の負けですね。」


 腰の投擲用ナイフを握っている俺の姿を見てそうつぶやいた。

 その言葉に緊張の糸が切れた俺は大きく息を吐いて呼吸を整える。


「ありがとうございました。」


「君はその歳で良く戦えている。しかし、初めて扱う武器の実戦投入、使い慣れていない獲物での捨て身のような戦い方など総合的に見て冒険者としてはランク4というところですか。」


 4ランク、下から2番目。

 後先考えず正面からぶつかりに行ったので文句は言えない。


 冒険者ランクは1~5がある。

 1は国家レベルの依頼、2は貴族レベル、3は街レベル、4は村レベル、5は駆け出しという感じだ。


 ランクは依頼達成率や国家への貢献度によって変更される。

 冒険者を始めたばかりの俺には関係のない話だ。


「おつかれさま、継さん。戦って見てどうでしたか?」


「やっぱり付け焼き刃の投擲では真っすぐ飛びませんでしたね。ゲオルグさん自体は師匠みたいに勘と自己流で戦うような人ではなく洗礼された歴戦の騎士という感じでしょうか。」


 フィエールさんの下に戻った俺は自身の感想を漏らす。


 師匠とは別のベクトルの強さを持った人だった。

 強さと言っても人それぞれの強さがあるのだと改めて知る。


「フィエールさんは何か気づきましたか?」


「そうですね。気になる点でいえばあれだけの激しい戦闘をしたというのに木剣に傷一つ付いていない所でしょうか。」


 俺はゲオルグが持つ木剣に目をやる。

 フィエールさんが言うように木剣には傷一つなく、次の生徒の剣を受け止めていた。


「一見普通の付与だと見落としていまう所ですが木剣に込められた魔力量は並み外れた量でしょう。」


 騎士のような立ち姿と魔法の技術、きっと元はどこか有名な騎士団にでも所属していたのだろう。

 老いてもなお一線級、この国の人材は底知れないな。


 最終的な適性試験の結果は継ランク4、冬也ランク4、彩奈ランク3、フィエールさんランク3+だった。

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