02章 学武国家エクレシーム編

第031話 学武国家エクレシームへ

 川越街道を抜け池袋から十数日程経過、茨城県国道349号線に設置された関所に到着した俺達は光の壁を前にして足止めされていた。


「長い行列だね。」


 額に手を当て順番待ちしている人々の先を確認する冬也。

 列には学武国家エクレシームの学生から行商人、聖都の信仰者、冒険者、地球に飛ばされて来たのか荷馬車に乗って移動する異世界人、そして俺達のような地球人が並んでいた。


 又、並ぶ人達を守る様に武器を構えた自衛隊、装甲車、エクレシームの騎士や魔術師が周囲を警戒している。


「お互いの世界のためにも不審者を要れない方が良いからな。仕方ないだろ。」


「不審者って例えば?」


「そうだな・・・。周囲の警戒心が高いとか緊張してすぐに言葉が出てこない。視線を逸らすことが多いとか?」


「それってただの人見知りじゃないかな・・・?」


 確かに。


 彩奈から的確なツッコミが入る。


 不審者を言葉で例える事って意外と難しいな・・・。


「じゃあ全身真っ黒な人とか?」


「それは不審者通り過ぎて犯人ですね。」


 フィエールさんエルフなのに分かるの?


 しばらく四人で他愛のない雑談をしていると順番が回ってきた。


「紹介状を頂いたので確認をお願いします。」


「お預かりします。」


 関所のいるエクレシームの役人であろう人に4人分の招待状を渡して中身を確認してもらう。

 関所といっても立派な門構えがあるわけでもなく出入口をフェンスで塞ぎ、その横に大型簡易テント立てて机を並べただけの簡素な関所だ。


 エクレシームの役人で有ろう人物は招待状に手をかざして魔法を発動させた。

 こちらからは見えなかったが何か特殊な細工が施しをしているのだろう。


「確認しました。こちらの世界の方々は隣のテントの指示に従ってください。」


 隣のテントにはノートと鉛筆が置かれた机と自衛隊が居た。


「今後の安否確認のためにここに住所と名前。それに行き先を書いてもらえるかな。」


 自衛隊が指したノートを捲ると今まで異世界へと渡った日本人や海外の人の名前が書かれていた。

 俺と冬也と彩奈がササッと住所と名前、行き先を書き終わると注意事項を受ける。


 注意事項は学武国家エクレシームに自衛隊の支部を設けたので到着したら同じように住所と氏名を書くこと。

 学武国家エクレシームを出入りする時も住所と氏名、行き先を必ず書いてから出る事など注意を受けた。


 必要な事を全て終えて光の壁の前に立つ。


「これが光の壁か。」


「いよいよだね。」


「この先には知っている世界が広がっているはずなのになんだか私まで緊張してきました。」


 自身の事を笑うフィエールさん。


 知っている世界が広がっているとはいえ光の壁を超えること事態は初めてのはずなのでそれで緊張しているのだろう。


「それはそうと彩奈も緊張しているのか?」


 さっきから黙りこくっていた彩奈に話しかけると彩奈はビクッと反応する。


「そ、そんな訳ないじゃない!こんな壁、1つや2つ簡単に超えて見せるわ!問題ないから行きましょう!」


 胸を張る彩奈の手に一同の視線が集まる。

 視線が集まった先にはガッチリとフィエールさんの服をつかんでいた彩奈の手があった。


「あ、あれ?いつの間に?大丈夫だから行きましょう!」


「じゃあ、気を取り直して。行こうか。」


 俺は光の壁へと一歩踏み出す。

 一面、白い景色が一瞬広がる。


 それが晴れると異世界の景色が現れた。


「見て!」


「あれが学武国家エクレシーム。」


 平原の崖の上からアルプスを彷彿させる美しい山脈と森を背に城壁に囲まれた城と川が見えた。

 澄んだ空と自然豊かな土地のうえに羽を伸ばしたくなるような暖かさ。


 異世界でなければピクニックをしたい気分だ。


 崖を下りエクレシームまで道なりに歩いていると農作業をしているゴーレムらしき姿が目に入る。


「面白い事を考えるよね。」


 興味が引かれたのか冬也は農作業をしているゴーレムに釘付けになっている。

 そういえばフィエールさんの故郷でも見学していたな。


「あれも一種のオートメーション化。ゴーレム達をよく観察してみると大きさや手のつくりが違うんだ。ほら、あの肩が赤いゴーレムとか。」


 冬也に言われるがまま地面を耕している肩の赤い大型のゴーレムを見てみると手が桑のようになっていた。

 別の畑では人間のような繊細なつくりをした手を持つ肩が黄色い人型のゴーレムが種まきをしている。


 ゴーレム1体に複数の役割を持たせるのではなく流れ作業を重視しているようだ。

 それにゴーレム達は農作業のためだけに置かれている訳でもないだろう。


 例えば、有事の際にはこのゴーレム達が迎撃してくれるとかそういった役割も持っていそうだ。


「この光景を見るのは初めてかい?」


「えぇ。」


 通りすがりのエクレシーム出身の異世界人に話しかけられる。


「あのゴーレム達は学園長の秘書であるローラさんが君たちのような異世界人の受け入れを始めた時に設置したゴーレムなんだ。不眠不休で働いてくれるゴーレム達のおかげで食料問題が解決しただけじゃなく前よりも豊かになったんだ。」


 さらに話を聞くとローラという人物は単独で日本に渡ると衣食住や文化を調べ学園の制服や学食を一新したらしい。

 話を聞く限りローラという人物はやり手の秘書の様だ。


 政に口を出せる発言力に行動力、そして結果。

 エクレシーム内での影響力はかなりのモノかもしれない。


「次。」


「招待状です。」


 城門前にやってきた俺達は番兵に紹介状を渡す。


「異世界人3人にエルフが1人か。パルヌス学園希望者なのか。場所は分かっているのか?」


「フィエールさんは知っていますか?」


「いえ、ここに来るのは初めてですから場所までは。」


「知らずにここまで来たのか?」


 呆れた顔をした番兵は誇らしげに門の向こうを指す。


「ここからでも見えるエクレシームの中心に建つ建物こそ、お前達が通うパルヌス学園だ。」


 番兵が示すその先には大きな城が建っていた。


 自然豊かな土地に囲まれた学武国家エクレシーム。

 国内はパルヌス学園を中心に住宅地区・産業地区・研究地区と大きく3つに分けられ冒険者ギルドと聖都女神信仰教会(通称ネストレア教会)が置かれている。


 また魔法技術による地下栽培が盛んな国である。


「間近で見るとフランスのシャンボール城に似た雰囲気のある古城だね。」


 パルヌス学園正門前で冬也が感想を漏らす。

 白い城壁と左右対称の美しい造りが異世界であることを実感させ、日本の学校に通っていた俺に敷居の高さを意識させる。


「場違い感が凄いな。」


「私達の他にも制服を着ていない子達が出入りしているみたいだから学内に入って見ましょう。」


 異世界の学校に浮かれているのか彩奈の足取りは軽そうだった。

 流れに沿って学内を歩いているとチラチラとこちらを見ながら学生達が通り過ぎていく。


 地球人の俺達が珍しいのか、それとも地球人とエルフという異色の組み合わせが珍しいのか変に注目を集めた。

 その後、城内の受付会場に着くとざっと周囲を見渡す。


 すると入学手続きの順番待ち中に見たことあるブランドの服を着た子達がちらほらいた。


「俺達みたいな日本からの学生も結構いるんだな。」


「こっちの世界に避難してきた人達は少なくないからね。この国の様子を見る限り襲われた形跡もないから異界変災以降、特に大きな事件が起きていないのかも。」


 しばらく待っていると受付の順番が回ってきた。


「お待たせしました。異世界の方ですね。日本政府が発行している証明書など身分を証明するものはお持ちですか?」


 日本政府が発行している証明書?

 そんな物があるなんて初めて聞いたな。


 この国は日本政府の何かと繋がっているのか?

 いやでも、ここには自衛隊の支部もあるのだから繋がっていても変ではないか。


「どうしました?」


「あ、いえ、お願いします。」


 俺は紹介状を提出した。

 受付係が魔法を発動させ確認する。


 やはり見ただけでは分からない特殊な細工をしているようだ。


「確認しました。では、こちらを一人1枚ずつお持ちください。」


 受付係から4枚のカードを渡される。


「こちらは学生証になります。魔力を通して頂ければ登録完了です。またこちらは冒険者カード兼ご自身のスキル確認としても使用できます。学生の中には学生生活をしながら冒険者として生計を立てる方もいらっしゃいます。冒険者稼業をご希望の方は冒険者ギルドでカードの登録をお願いします。登録の際ご自身のスキルが表示されます。もしかしたら自覚してないスキルが表示されるかもしれませんね。」


 説明はさらに続く。


 学園に通う間、学生寮かこの国の宿屋に住むか選べるということ。

 宿屋を選んだ場合宿代は学園が補償するが食事代までは補償しないため何らかの方法で食いつなぐ必要があること。


 宿泊先が決まり次第制服を送ることなどなど説明をされる。


「最後に異世界の方々は案内に従って魔道具をご利用ください。」


「俺達だけ?」


 俺・冬也・彩奈は顔を見合わせた。

 心配して付いて来たフィエールさんと一緒に案内された部屋に入ると魔方陣が書かれた床の上にプレートの付いた大型魔道具があった。


「では、お一人ずつプレートに手をついてください。」


「それよりこれは何ですか?」


「失礼しました。これは言語習得装置です。異世界の皆様を受け入れる事を決めた学園長が言語に困らない様に考案した魔導具です。学園長考案の魔道具が事故を起こすことは殆どないので安心してください。」


『絶対無い』じゃないのかよ!


 最後の一言要る?

 わざと不安を煽るようなことを言っていませんか?


「頑張って継!」


「継くんなら出来るよ!」


 なんで二人とも他人事のように応援しているんだ?

 二人も俺の後にやるんだからな?


 くそ、自分から罰ゲームを受けに行く気分だ。

 プレートに手をつく。


 魔導具が稼働すると俺の周りでさまざまな文字の輪が何重にも重なり回転を始めた。

 回転している文字の輪が一つ一つ体内に吸収されていく。


「これで終了です。」


 係の者が笑顔で告げるが俺の体に変化が起こったようには思えなかった。

 冬也と彩奈も言語習得を終えたので招待状を頂いた学園長に一言お礼を伝えようと面会をお願いするが不在のため「後日連絡をする」と言われた。


 仕方がないので今後を話し合うためにパルヌス学園から出るとまだ陽が高かった。

 それなりに時間が経過していると思っていたが実際はそうでもなかったようだ。


 酒場を探しながら街を眺めていると到着した時には読めなかった店の看板が読めるようになっていた。


「あれはローブ専門店だったのか。」


「改めて思うけど魔道具には驚かされるばかりね。」


「語学の習得は普通時間が掛かるからね。でも、あの魔道具があれば一瞬。」


 テスト前に欲しいな。


「今、テスト前に欲しいと思ったでしょ?」


 ギクッ。

 彩奈に心を見透かされている。


「どうしてわかったんだ?」


「なんとなく、かな?」


 と彩奈は可笑しそうに笑っていた。

 酒場に着くとフィエールさんが口を開いた。


「さて、今後の事ですがどうしましょうか?継さんは学生寮と宿屋どちらにするんですか?」


「宿泊先は宿屋にしようかと思います。冒険者稼業をしながら新しい情報を手に入れようと思っているので学内に有り門限付きの学生寮だと色々と不便ですから。」


「継がそれでいいのなら僕はそれに合わせるよ。」


「私もそれが良いと思う。」


「では、冒険者ギルドで登録してから宿泊先の宿屋を探しましょう。」


 全員の意思を確認し合った所で酒場のおばさんが料理を運んで来た。


「なんだい、お前さん達は学園の入学生だったのかい?」


「はい、今日ここに着いたのですがどこか良い宿泊先はありませんか?」


「綺麗なお嬢さん達のおかげで客の足止めが出来たから特別に良い所を教えてあげようかね。」


 話に夢中で気づかなかったが男性客の視線がこのテーブルに集まっていた。


「そこ!ジロジロ見てないで何か頼みな!ジョッキが空のまま居座るんじゃないよ!」


 おばさんに注意された客が慌てて追加でもう1杯お代わりを頼む。

 ははは・・・、気持ちは分かる。


「それで何処か良い宿泊先があれば教えてくれませんか?」


「っと、そうだったね。この近くにある『ソーラー』という宿屋が良いよ。変わり者の店主が経営しているが良い宿屋だよ。冒険者ギルドの帰りに寄ってみると良い。」


 変わり者の店主という言葉が気になったがオススメするぐらいだから変な宿ではないはずだ。

 仮に変な宿屋でも新しい宿屋を見つければいいだけの話。

 行く当てが無いよりも良いだろう。


 酒場で食事を済ませた俺達はこのまま冒険者ギルドと宿屋『ソーラー』に向かう事にした。

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