第029話 余談

 ~二道の民本拠地~


「さて日隠、弁明を聞かせてもらおうか?」


「弁明とは?」


 ローブの男の部下だった日隠は大広間で数多くの者に囲まれて尋問されることになった。


「同志を見捨ててノコノコと返ってきた弁明に決まっているだろう!!」


「そうだ!貴様!裏切ったか!」


(あ~、うるさい。)


 ガヤガヤと騒ぎ立てる外野に日隠は耳を塞ごうと思ったがそれはそれでさらに五月蠅くなりそうだったのでジッと耐える。

 静かに深呼吸をした日隠は反論する。


「あの男からは最後の祠を壊すこと以外は命令されていない。助ける理由はない。」


「助ける理由がないだと?同志を助けるのは当たり前だろうが!」


「当たり前?」


 現場に居もしなかったクズどもに好き放題言われた日隠はキレて目を細めた。


「あの男の仕事は猿神の封印を解き放ち戦力としてここへ持ち帰ること。それが何をとち狂ったかしらないけど、余計な事をして猿神まで失った。」


 ガタガタ騒ぐ周囲にため込んでいたものをこれでもかとぶちまける。


「そんな無能をお前達は同志として助けろというのか?」


「しかし!」


「静まれ。」


 日隠達がヒートアップしてきた所で大広間の入り口から通る声が聞こえてきた。

 入ってきたのは継達とルーザァの前に現れ『二道の民』と名乗った術者だった。


「「「ミカミ様。」」」


 周囲の者達は道を開けて頭を下げる。

 日隠も屈み頭を下げた。


 一同の姿にミカミは気分良くしたのか笑みを浮かべた。


「日隠、お前の働きには満足している。」


「ありがとうございます。」


「あの男はこれからの世界には不要だっただけのこと。ですが・・・。」


「っ・・・。」


 ミカミが日隠の頭にそっと手を置くと日隠の体を恐怖で縛り付けた。


「日隠、お前も不要になったその時は分かっていますね?」


「・・・はっ。」


 恐怖に縛られた日隠は金色に光る眼を前に冷汗を流していた。


 ◇


「ほらよ。」


 二道の民との戦いがとりあえず一段落つき休養しているとある日師匠が集合をかけた。


「これは?」


 俺達に封筒を手渡した師匠はテーブルのお菓子を食べ始める。


「学武国家エクレシームにある学園の招待状だ。」


「これ、どうしたんですか?」


「そりゃあ、エクレシームで貰ってきたに決まっているだろう。」


 紫の魔獣の魔石の件もあるのだから一緒に行けばよかったのでは?と思っていると彩奈が質問する。


「あの、私達も一緒にエクレシームまで同行するという形じゃダメだったのでしょうか?」


 恐る恐る彩奈が質問すると師匠ははっきりと「ダメだな。」と断言した。


「そこのエルフならともかくお前達のような見ず知らずのガキを関所は通さないからな。お前達は知らないだろうがここからでも見える光の壁の境には自衛隊とエクレシームが関所を敷いている。」


「初めて聞く話です」


 フィエールさんが興味深そうに耳を傾ける。


「別に大した話じゃない。光の壁の中に入ると互いの世界の特定の場所に必ず出て来るからそこを関所にしているだけの話だ。」


「それはそれで不思議ですね。」


 と、考察するように冬也は相槌する。


「そういう訳で同行は不可能だった。」


 東瀬市が揉めている間に世界は少しずつ進んでいる様だ。


「後は・・・、今更な気もするが一応意思確認するか。学武国家エクレシームへ行く意思はあるか?」


「あります。」


 師匠が俺を見たので即答で返すと冬也達も後に続く。


「僕もあります。あの日から変わっていません。」


「私もエクレシームへ行きます。」


「フィエールさんはどうするんですか?」


 問題はフィエールさんだ。

 フィエールさんはこの避難所の自警団副代表でもある。


 自警団の穴を埋めるにはそれなりの資質が必要となるが・・・。


「継さんは意外と冷たい人なんですね・・・。私達は仲間だと思っていたのに・・・。」


 フィエールさんは悲し気に耳を垂らして目元を拭う。


「え!?いや、仲間ですよ!?いやほら、自警団とか!色々あるじゃないですか!?というかウソ泣きですよね?」


「バレちゃいましたか?」


 可愛く舌を出すフィエールさん。

 女の人って怖い・・・。


 普通に焦るのでやめてもらえませんか?


「私も調べたいことがありますから一緒に行きます。お父様とお母様には連絡を入れておこうと思いますが。」


「それなら大丈夫だ。俺が知らせておいた。」


「いつの間にお母様達から許可を貰ったんですか!?」


 目を丸くしたフィエールがさらっと流そうとする師匠を止める。


「それよりもカロル長老の許可なくどうやってエルフの里に入ったのですか!?結界や守備隊の者達が居たはずです。」


「普通に結界を破って襲ってきた奴らを倒した。」


 ひどい・・・。


 フィエールさんは頭を抱え「きっと大混乱だったでしょう・・・。」と呟いている。


 とんだ災難だな。

 エルフの里の人達の目に魔王でも襲ってきたように見えたんじゃないだろうか?


「母親の方に事情を話したら『なんだか分からないけど、分かったわ。』って即OKしたぞ。」


「お母様・・、少しは疑いましょうよ・・・。」


 後から聞いた話だがイエナさん曰く『嘘をついている人はわかるから即答したの』と言っていたそうだ。


 本当かな?


「父親の方は何か言いたげな顔をしていたが引きずられて帰って行った。」


 完全に尻に敷かれている・・・。


 ま、まぁ。

 そっちの方が上手くいくご家庭も世の中にはあるそうだし何も言うまい。


 フィエールさんに目を向けると身内の恥ずかしい話に顔を真っ赤にしていた。

 そんな様子を気にせず師匠は話を続ける。


「当面の目的は情報収集と各々のパワーUPにするといい。お前達は俺と違って伸び盛りだ。エクレシームでの研鑽次第では急激な成長も見込めるだろう。久しぶりの学校生活を楽しんでこい。」


「出発時期はいつに?」


 準備期間も考えていた冬也が質問をする。


「出発は1か月後だ。」


 残り30日。

 ここで過ごす時間は思っていたよりも少ない様だ。

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