第025話 対峙

 ~10分程前の東瀬神社~

 ローブの男の部下は団員達と対峙していた。


「私をいい様に使ってくれる・・・。」


 目の前の光景にうんざりする。

 今頃あの男はやり合っているだろうか。


 前々から気に食わない男だ。

 傲慢で雑。


 そして、慢心。

 あんなのが同じ陰陽師だと思うと反吐が出る。


「なぜ私がこんな面倒くさいことを。」


 だが、仕事は仕事だ。

 命令には従うしかない。


 心の中で悪態をつき式神を召喚すると式神は跪く。


「貴方に任せます、行きなさい。」。


 武器を構えた式神は団員達へ襲い掛かった


 ◇


 雄たけびを上げ復活した猿神は目に映る全ての物が気に入らず車を掴み投げ飛ばした後ただただ周りの建物を破壊する。

 暴れている猿神の姿を見たローブの男は満足そうに独り言をつぶやく。


「7~8mくらいと思っていたが10mくらいか。それに自我が完全に消失している。好都合だ。」


 男が暴れる猿神に近づく。


「フー、フ―。」


「久しぶりの外の世界はどうだ?お前が知っている世界はもうどこにも存在しない。」


 猿神の眼が赤く光ると咆哮を上げて男に掴みかかると男は腕を搔い潜り懐から球体の魔石を取り出す。


「好きなだけ暴れさせてやるぞ。駒としてな!」


 男が猿神の胸に押し当て魔石を植え付ける。


「ゴオオオオオオオオ。」


 すると猿神は苦しそうに声を上げて暫くの間暴れると急に大人しくなり男の支配下に置かれた。


「結界のやつらを喰らい尽くせ!」


 操られた猿神が継達の避難所がある結界へと東瀬の街を駆け抜けると結界を背に代表が指揮する自警団と衝突した。


 ◇


「怯むな!結界内には動けない者や避難できていない者が多くいる。ここを突破されれば終わりだ!何としても守り抜くぞ!」


「「「おぉ!」」」」


 代表が鬨の声を上げ魔法部隊に指示を出す。


「魔法部隊!構え・・・、放て!」


 放たれた魔法は猿神命中し土煙が舞い上がると代表は剣を掲げて叫ぶ。


「皆、俺に続け!突撃!」


「おぉぉぉぉぉ!」


 代表が猿神へ突撃すると他の団員も剣を抜き後に続く。


「遊んでやれ。」


「回避!」


 土煙の中から不意に飛んでくる自電車や車を素早く全体に指示を出し回避させる。

 各団員が飛んでくる物を回避しつつ接近すると土煙の中から猿神が姿を現す。


「おおおお!」


 切りかかる代表の剣を前に猿神は腕を出す。


(避けずに腕で防ぐ?)


 代表の剣を腕で受け止めた猿神は血を流すが猿神の後方に控える男は笑う。


「そんな攻撃この猿神に通じるか。」


 すると猿神の胸に植え付けられた魔石が光り猿神の傷が塞がっていく。


「自己再生!?」


「やれ!」


「ガアアアアアアアアアアアアアア。」


「くそおおおおお!」


 猿神は尾を振り回し代表達を吹き飛ばすと電柱を引き抜き襲い掛かる。


「化け物め、これならどうだ!」


 1本の太い矢が刺さり猿神の肩が爆発すると腕が地面に落ちた。


「何だ今の攻撃は?」


 男は目を細め飛んで来た方向に目をやると人影を捕らえる。


「どうだ、弩弓の威力はさすがに無傷とはいくまい。」


「あんな玩具を用意していたか。だが無駄な努力だ。」


 再び魔石が光り出すと破壊された片腕が再生される。


「あの玩具を破壊しろ、猿神!」


「くっ。」


 男の命令に猿神は大きく跳躍すると弩弓を設置した建物の窓枠を掴み建物をよじ登る。


「援護しろ!」


「でかい図体の割りに動きが素早い。」


 別の建物に設置した弩弓を躱しながら看板や部屋に置いてあった机を投げ飛ばして猿神はそれを破壊する。

 建物を登り切った猿神を前にした団員達は恐怖に耐え何とか至近距離で弩弓を腕に打ち込んだ。


「ダメだ、逃げろ!」


 腕に打ち込まれた猿神は悲鳴を上げずそのまま弩弓を破壊して地面に落とす。

 そして、防衛ラインを敷いている自警団に狙いを定めて建物からジャンプした。


「グアアアア!」


 猿神は自身の周りに複数の炎を出現させ打ち出す。


「吹き荒れる風の障壁よ!」


「ストーン・シールド!」


 エルフや冒険者達は石の壁や突風の魔法障壁を張り炎に耐える。


「無駄だ!」


「なんて強力な炎なんだ!」


「抑えきれない!きゃああああああ」


 炎の勢いは衰えず魔法障壁を巻き込み爆発する。

 結果、部隊は半壊し負傷を負った団員や冒険者達が次々と倒れていく。


「くそ野郎が。」


 忌々しく代表は男を睨みつけていると倒れた団員が苦しみだした。


「うぅ、うぅうう。」


「どうした、大丈夫か!」


「う、うああああ!」


 苦しみだした団員は突然立ち上がり代表に襲い掛かった。


「く、離せ!正気を失っているのか!?」


 異常を起こした団員は目の前の団員だけではなく、負傷したエルフや団員の中に複数存在し仲間に押さえつけられていた。


「仲間に何をした!!」


「猿神の瘴気に当てられたのさ。魔力を失い瘴気への抵抗が失った者は暴れ出す。」


 男の言葉を聞き暴れ出した仲間の顔を確認すると魔法障壁を張っていた者達の顔がいくつかあった。


「こうなる予兆はお前達の所でも出ていただろう。」


 フィエール達が言っていたここ最近多発していた喧嘩のことか。

 フィエール達が持ち帰った情報から喧嘩していた者達を精査した結果、地球人が多い事がわかった。


 その結果を基に魔力を扱えない者達から避難させていたのは正解だったか。

 でなければ、今頃避難所の中は暴れまわる者達で大混乱になっていただろう。


 それでも頑なに動かない者や動けない者、魔法抵抗力が弱い冒険者達がまだ結界内にいる。

 その者達が瘴気の影響を受けている可能性がある・・・。


「くそ、これ以上は!」


 代表は正気を失った仲間を突き飛ばし猿神に攻撃を仕掛けるが尾に剣を弾かれ捕まってしまう。

 捕まえた代表を顔の前に持ってきた猿神は命令を待つ。


 脱出しようと藻掻く代表に男は残酷な命令を猿神にする。


「喰らえ。」


 猿神の口が大きく開き鋭い牙が光る。

 近づいてくる鋭い牙を生やした口が代表の眼にはスローモーションに映った。


「「「代表!」」」


 自分の名前を呼ぶ仲間の声を背に抗う。

 どんなに抗うも体に巻き付く尾がはがれず、どうすることもできない。


 こんな所で・・・。

 走馬灯のように家族の顔が思い浮かんだその時、蒼い一閃が降り代表を解放した。


「来たか、霧島 継。」

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