第024話 vs式
「4つ目。」
深夜2時、西にある心富寺に現れたローブの男は境内にある祠を目指してジャリジャリと音を鳴らしながら歩く。
ローブの男は静かな境内の中に違和感を感じ取り足を止めた。
「待ち伏せか。」
奇襲を仕掛けようと思っていた俺達は建物の陰から姿を見せることにした。
「やはりお前達か。」
「俺達を知っているということはエルフの里に妖怪を差し向けたのはお前か。」
「あぁ、それがどうかしたか?」
「くだらない質問をするな。」と言わんばかりにさも当たり前のように答えた。
「なぜそのような事を・・・。」
憤激に蝕まれた表情を浮かべながら全身から殺気を放つフィエール。
「いい機会だったからさ。エルフと妖怪という化け物同士が戦ったらどうなるか見たくなったのさ。お前達の中にも気になる奴はいるだろう?地球の化け物と異世界の化け物を戦わしたらどうなるか・・・さ。」
こいつにとっては実験と同レベルの見世物感覚か。
「おかげで良いデータがとれた、夜であれば森の守り手であるお前達エルフと正面から戦える事が分かったからな。」
「こんなやつのために同胞が傷ついたのですか・・・。」
フィエールが剣に手をかけるとローブの男は掌を前に出して制止する・。
「こちらからも一つ聞きたい。なぜ東瀬神社ではなく、この場所に現れるとわかった?」
「お前の動きは読めていた。壊された祠の場所を資料で確信した時、北の東瀬川神社、南の日奉神社、東の穏奉寺の順で書かれていた。この3カ所の方角と位置を見た時に真っ先に五行が思い浮かんだ。そして一つの結論を導き出した。この封印の祠は決められた順番でなければ破壊できないと。」
男の動きが読めていたなんて勿論嘘だ。
五行は思い浮かんだが都合良くここに男が来たのはたまたま予想が当たったに過ぎない。
運が良かっただけだ。
東瀬神社にも予想が外れた場合や複数犯だった時の為に腕が立つ団員を配置している。
ただ、今も続いている結界内の人々の避難と猿神の影響を考えると少数精鋭が望ましいと考え配置している人数は多くない。
「なるほど、参考になった。次からはもっと上手くやるとしよう。」
「次があると思っているのかい?」
冬也が剣を抜き男に向ける。
「猿神は復活させない。本人も望んでいないからな。」
「調子に乗るなよ、ガキどもが。」
吐き捨てる男のセリフを合図に戦いの火蓋が切り落とされる。
「いくぞ。」
俺は先陣を切り男と距離を詰める。
「はあぁぁぁ!」
「当たるか!化け物の餌になるがいい。」
俺の攻撃を避けた男は懐から取り出した2枚の札を地面に投げつけ大太刀を持った鬼と2本の小太刀を持った鬼女を俺の目の前に召喚する。
「・・・。」
「ぐっぅ。」
横払いした鬼の大太刀を剣で受け止めるが力負けして男との間に距離をできてしまう。
「召喚術!?」
「その割には妖怪達から生命力を感じません。」
術者に札、妖怪の姿をした得体のしれない2体の存在・・・。
「式神ですね。そしてそれを使えるあなたは陰陽師だ。違いますか?」
「陰陽師って安倍晴明で有名なあの陰陽師?」
冬也の言葉に耳を疑う彩奈。
でも、妖怪が存在するのだから陰陽師が実在していてもおかしくないか。
「分かったところで意味は無い。お前達など下位の擬人式神で十分だ。行け!斬愧、刀愧。」
男は掌を前に突き出して式神をけしかける。
確かに意思は感じなかったが剣で受けた力強さは本物。
術者である男を狙うには2体の式神を倒さない限り無理そうだな。
だったらやることは一つだ。
「式神を倒してお前を捕らえる!冬也、彩奈そっちは任せた。」
「「まかせて!」」
刀愧と呼ばれる鬼女の小太刀を受け止めた冬也と彩奈が返事を返す。
◇
「せい!」
「やっ!」
刀愧の小太刀を冬也くんと一緒に押し返して切り払うがジャンプで避けられる。
地面に着地した刀愧は走り出し上段攻撃を冬也くんに仕掛けるが冬也くんは盾で受け止めスキルを発動させた。
「リアクション・シールド!」
小太刀を盾で弾き、のけぞる刀愧に冬也くんが切りかかる。
「たぁっ!ぐあっ。」
が、刀愧の蹴りが冬也くんの脇腹に直撃する。
刀愧は人間の造りではありえない仰け反った体勢から脇腹に蹴りを入れ、追撃を阻止したのだ。
「冬也くん!この!」
手から炎を数回放ち刀愧を牽制しつつ冬也くんに駆け寄る。
「冬也くん、大丈夫?」
冬也くんは膝をつき脇腹に手を当てていた。
「強烈なのを貰ったけど大丈夫だよ。」
やせ我慢だろうか?
こんな時でも笑っている冬也くんを強い人だと思った。
そして、刀愧に目を向ける。
あの体勢から的確に蹴りを入れるなんて式神だからこそ出来た事ね。
完全に油断していたわ。
これが別の攻撃なら冬也くんは命を落としていたかもしれない。
継くんに『まかせて!』と言ったとそばからこのざま、自分自身が情けない。
「私が言うのも何だけど油断せずにいきましょう。」
「そうだね。」
小太刀を構えて走ってくる刀愧。
「もう油断はしない!」
正面から迎え撃ち数合打ち合った後、刀愧の蹴りをバックステップで躱す。
「そこ!」
<加速>を発動させた冬也くんが私と入れ替わる様に中段攻撃を仕掛けるが刀愧は片足でバク転し回避した。
回避した刀愧が両手を広げながら空へとジャンプすると小太刀が一瞬光る。
刹那、私の体に悪寒が走った。
「避けて!冬也くん!」
「飛刀雨。」
ぼそりと呟いた刀愧の小太刀が2本から6本に増え、私達目掛けて豪雨のように次々と刀愧の手元から投げられる。
「てぇええええええい!」
瞬時に剣に炎を纏わせ炎の大剣で小太刀ごと薙ぎ払う。
しかし、<加速>をさせながら剣と盾で躱していた冬也くんは完全には避けきれず腕を抑えていた。
地面に刺さった小太刀に目をやると次々と消滅していく。
何かしらの力で一時的に作り出したものだと理解する半面術者の力が続く限り投げ続けられることに気づいた。
早々に決着を付けないとこっちが不利ね。
少し離れた所に着地した刀愧に警戒しながら冬也くんに目配せをすると同じ事を思っていたのか私の前に出て剣と盾を構えた。
私が倒せということね。
いいわ、やってみせる。
「いくよ、彩奈!」
「いつでも!」
走り出した冬也くんの後を追いながら複数の炎を刀愧に向けて放つ。
刀愧はそれを横に回避し冬也くんの盾と小太刀が金属音を響かせながらぶつかり合う。
「はっ!」
さらに繰り出される冬也くんの突きを後ろに躱した刀愧は6本の小太刀を構えた。
「飛刀雨。」
襲い来る無数の小太刀を前に冬也くんは盾を構えて魔力を注ぎ込む。
何をする気なの?
「返すよ!<リリース!><バスター・シールド!>」
前方に傾けた盾を地面で爆発させる。
「これは!?」
爆風は石畳や砂利だけではなく小太刀をも巻き込み土石流のように刀愧を襲う。
迫る爆風に刀愧は膝を曲げ真上に躱そうとする動きを見せた。
今がチャンス!!
「背中を借りるわ!」
それに合わせて冬也くんの背中を踏み台にして刀愧に向かって飛ぶ。
上がり切る前に叩く!
「はあぁぁぁぁぁ!」
「・・・。」
最大出力の炎の大剣を空中で叩き込む。
しかし、刀愧は小太刀を交差させてそれを防ぐ。
「なら、このまま振り切る!」
そのまま振り切り地面に叩きつけた刀愧を炎の大剣で抑え込むと小太刀に小さなひびが入り始めた。
もう少し!
握る手にさらに力を込める。
「えぇぇぇい!」
小太刀を砕き刀愧を飲み込んだ炎の大剣は大爆発を起こす。
「彩奈!」
冬也は腕で爆風を防ぎながら姿が見えなくなった彩奈の名を呼ぶ。
すると爆風の中から。
「大丈夫。ちゃんと倒したから。」
後ろ姿を見せた彩奈の手には札の燃えカスが握られていた。
「・・・。」
「私達も早めに終わらせましょう。」
斬愧の大太刀を躱すフィエールの声には暗い炎の感情が含まれ、視線は刀愧と交戦を始めた彩奈達を後目に男に向けられていた。
ここまで怒りを露わにするのも無理はない。
里を襲い、同胞を手に掛けた犯人なのだから・・・。
式神が立ち塞がらなければ間違いなく切りかかっているだろう。
「えぇ。」
短く返事を返した俺は<急加速>を発動させて攻撃を仕掛ける。
「はっ!」
「・・・。」
反りに手を当て器用に大太刀で攻撃を防ぐ無表情の斬愧。
刀愧と同様に斬愧にも意思がなく表情がない。
表情がないと何を考えているか分からないから戦いづらいな・・・。
「くぅ。」
「・・・。」
剣に力を込め力任せに押し切ろうとするがビクともしない。
無表情な斬愧は押し出すように足に力を入れて俺を突き飛ばす。
「くっ。」
やはり正面から打ち合うのは不利か。
剣を構え直し<オーバーレイ>を発動させる。
すると今まで構えなかった斬愧が大太刀を構え、腰を落とした。
「継さん、気を付けて!来ます!」
「・・・。」
「踏み込みが速い!」
体格に似合わない速さで切りかかる斬愧の大太刀を躱し飛び散る砂利を剣で防ぐ。
「凄い風圧だ!」
「・・・。」
躱されたと分かると否や斬愧は刃を寝かせ俺とフィエールを大太刀で薙ぎ払う。
「きゃあぁ。」
「うぐっ。」
俺もフィエールも剣でなんとか防ぐが弾き飛ばされてしまう。
斬愧が踏み込んだ足跡に目を向けると大きな踏み込み跡が残っていた。
力も速さもある上に一切の迷いが無く正確に対処してくる。
まるでロボットと戦っている様だ。
突破口を考えているとフィエールが何か覚悟を決めたような顔で話しかけてきた。
「私に考えがあります。一瞬だけで良いです。あの式神の動きを止めることは出来ますか?」
「一瞬だけなら出来ると思います。けど、いったい何を?」
「足を止めます。」
剣から弓に持ち替えるフィエール。
ここで剣を鞘に納めるということは次で確実に倒すというフィエールの覚悟と俺への全面的な信頼の表れ。
つまり、絶対に俺が式神の動きを止めてくれると確信して命を預けるということ。
フィエールから見たらまだまだ未熟な俺を信用してくれる。
その思いに全力で答えたい、やり切って見せる。
「わかりました。」
精一杯の返事を返して斬愧と対峙する。
斬愧は刃を寝かせて中段で構えると腰を落とした。
一気に俺を薙ぎ払ってフィエールに止めを刺す気か。
俺もまた中段で構え、剣に気を集中させながらその時を待つ。
「・・・。」
「・・・。」
斬愧の体がわずかに動く。
来る!
地面を踏み込む打撃音と共に斬愧が真っすぐ突撃してくる。
「・・・。」
何が何でも一瞬だけ止めて見せる!!
声を上げながら強く光り出した剣を振り上げ斬愧に突っ込む。
「おぉぉぉぉ!」
「・・・。」
斬愧の大太刀と強く光る剣がぶつかり合い静寂と風圧が周辺に吹き荒れ空に舞う。
「今!」
荒々しい風を付与した1本の矢をフィエールが俺の後ろから放つとそれに気づいた斬愧は大太刀で俺を突き飛ばして矢を切り払った。
「かかった!」
切り払った矢から新たに3本の付与された矢が現れ、斬愧の両足と大太刀を握る手首を撃ち抜いた。
あれは師匠に使った技!?
両足を撃ち抜かれた斬愧は膝を着くともう片方の手で大太刀を握り身体を支える。
「今です!継さん!」
剣を抜きフィエールは駆け出す。
<急加速>発動!
「てえぇぇぇ!」
「・・・。」
振り回す大太刀を回避した俺は斬愧の胴体を切断。
お前の止めは俺じゃない。
すれ違う無表情な斬愧のその眼は何も語らない。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
フィエールの一閃がオーロラの光によって縦に走ると斬愧が両断された。
左右に倒れる斬愧の間隙からフィエールは男を捕らえる。
「残りはあなた一人。あなたには聞きたいことが山ほどあります。」
2体の式神を倒された男は焦る様子もなく静かに口を開く。
「ただの人間達にしては意外と、いや、化け物達を退けたのだからこれぐらいは当たり前か。」
フィエールを無視した男は静かに感想を口にした。
式神も倒され打つ手は残ってないはずなのにこの落ち着き払った様子はなんだ?
切り札が残されているのか?
それとも仲間が潜んでいるのか?
不安に駆られ辺りを見回すが人の気配はない。
「周辺を見回してどうした?安心しろ、ここには私しかいない。」
男の反応に俺は眉を顰める。
どういうつもりだ?
「そこのエルフ、術を手っ取り早く強くする方法とはなんだ?」
「本人の魔力を上げる事と何かしらの制限を掛ける事です。なぜそのような事を聞くのです。」
男の一挙手一投足に注意を払いながらフィエールは会話をする。
「お前達は猿神を封印した術にどんな制限が掛けられているか知っているか?」
「決められた順番に破壊する事じゃないのか?」
「そう、封印されている祠は決められた順にしか破壊することは出来ない。だが、よく考えてみろ?なぜ、1つ目を破壊したその日のうちに5つ壊さなかったのか?」
突然爆発と火の手が後方の寺から上がる。
「今の爆発はまさか!?」
「そう壊さなかったんじゃない、1日1カ所しか壊せなかったのさ。だから、この街に着いたその日に細工しておいた。こうなる事を予測してな!」
「だが、まだもう1カ所残っているはず!」
「3、2,1.」
邪悪な笑みを浮かべた男は懐から時計を取り出してカウントダウンを始める。
そして、待ち望んでいた時を告げた。
「3時。時間だ。」
男が時間を口にした直後、心富寺の裏手から光の柱が天に上る。
「これは!?」
心富寺だけじゃない!!
他の四カ所の方角からも次々と光の柱が天に上り、目覚めた猿神の雄たけびが静まり返った東瀬市を震わせた。
「そんな!」
「4つ目を破壊したばかりなのにどうして!?」
空を見上げて動揺する冬也と彩奈。
「開諸門鼓。朝廷に使える貴族様に合わせて1日の始まりを3時として術を設定していたのさ。」
だから、このタイミングだったのか。
5つ目が壊されたという事は東瀬神社に配置した団員達はこの男の仲間に全員やられたということ・・・。
俺達はまんまと男の掌で踊らされていたという訳か。
「最後の祠を壊した今!猿神が数百年ぶりに目覚めた!ふふふ、はっはっはっは!」
「はっ!」
「フィエール!」
呼び止める彩奈の声よりも早くフィエールが男に向けて剣を投げ飛ばすと剣は男の胸を貫いた。
「やはり避けませんでしたね。」
「どういうこと?」
あまりの手ごたえの無さにフィエールは不快感をあらわにした。
貫かれた男の姿は消え、中から出てきた人型の紙が地面に落ちる。
「ここにいた男も式神だったということです。」
地面に落ちた紙を拾ったフィエールはそれを投げ、真っ二つに斬り裂いた。
封印が解けた今となってはあの式神も不要になった。
きっと、そういうことだろう。
式神だったことに彩奈が驚いていると男の声がどこからとなく聞こえて来る。
「追ってくるがいい。ここまで邪魔をしてくれたんだ、お前達と結界内のやつらには糧になってもらう。」
これは男からの挑戦状だ。
倒せるものなら倒してみろという挑発。
『止めて欲しい。猿神様は自我を失っているけど外に出ることを望んでいない。もしも、封印が解けたその時は止めて欲しい。』
郷土博物館で出会った子供の言葉を思い出す。
あぁ、分かっているよ。
約束は守る。
俺は男に言い放つ。
「待っていろ。お前は必ず俺達が止める。」
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