第019話 決着と今後

「「「グギャヤアアアアア。」」」


 ストーン・ウォール内に打ち込まれた火矢と魔法によってガソリンに濡れた妖怪の体に火が付くと妖怪達は火に包まれながら転がりまわった。

 妖怪が藻掻けば藻掻くほど火は妖怪から妖怪へと燃え広がり木々を焼く。


 そして、一面火の海になった。


「「「うっ。」」」


 妖怪が焼ける匂いにエルフ達が顔を顰めていると燃える木を上って壁の外へと脱出する妖怪が現れ出しイエナさんがフィルさんに指示を出す。


「ほら、あなた。ボサっとしてないで!」


「あ、あぁ。全部隊に次ぐうち漏らした妖怪を一匹残らず狩り尽くせ!」


 イエナさんと家庭内での力関係が透けて見える様なやり取りをしていたフィルさんの号令により抜け出そうとしている妖怪達に追撃を与えて火の海の中へと追い返すが予想よりも抜け出してくる妖怪の数が多い。


 やっぱり即興で考えた案だと穴があるな。

 あと一撃、何か大きな一撃を当たられればこの戦いは終わるのに・・・。


「イエナさん、妖怪達にもう一撃与えることはできますか?」


 何も思いつかなかった俺はイエナさんに頼ることにした。


「・・・。えぇ、あるわよ。皆、久しぶりにあれをやるから手伝って!」


 イエナさんは少し考える素振りをするとママ友達に声をかけて上空へと舞い上がる。

 妖怪達を囲んだイエナさん達が詠唱を始めると一人一人の目の前に魔方陣が浮かび上がる。


 浮かび上がった魔方陣は全て同じ模様が描かれている。

 そこから吹き出している風が妖怪達の頭上で集まると丸い暴風の球ができ上がった。


「あれは系統合体魔法ですね。」


 フィエールがイエナさん達の魔法を説明してくれた。

 系統合体魔法とは一つの属性の同じ魔法をまとめることで元の魔法とは似て非なる効果を生み出す魔法。


 例えば、ある二人が同魔力のエア・トルネードを発動させたとする。

 魔法は術者のイメージの違いで舞い上がり方が違うため同じ高さまで到達するのに時間的な違いが出る。


 余程息が合った者同士でないと合体させてもイメージの違いで舞い上がる速度が落ちたり反発し合って魔法自体が消失したりしてしまう。


 系統合体魔法はそんなイメージや魔力の波長を術者同士が上手く合わせることにより元の魔法とは似て非なる効果を発揮させる魔法である。


 普段から仲の良いイエナのママ友達だからこそ短時間で発動が可能な魔法だ。


「後悔しなさい!系統合体魔法セレスティアル・ストーム!!」


 イエナさん達が魔法を発動させる。

 暴風が妖怪達目掛けて着弾すると巨大な炎の渦に変化して妖怪達の体をズタズタに切り裂きながら空へと立ち昇る。


「「「ば・・び・・・ろ・・・じぇ。」」」


 妖怪達の声が聞こえるが逆巻く炎の渦の音で上手く聞き取ることはできなかった。

 イエナさんって殺ると決めたら徹底して殺る人なんだな。


 怒らせないように気を付けよう・・・。


 1体また1体と妖怪達を切り裂き最後の1体を倒し終えた頃、空が明るくなり朝日が昇ろうとしていた。


 ◇


「勝ったのは異世界の化け物だったか。」


「今回の場合には妖怪達の戦闘データを得ることが目的の一つでしたので概ね成功と言えます。」


 継達が戦っていた場所から離れた街の中でローブの男とその部下が水晶の映像を通して戦いの顛末を見届けていた。


 妖怪達を術で操らずエルフにぶつけた場合のどういった結果になるのかデータを取るためだった。

 結果は上々、奇襲により押されていたが妖怪の特徴である夜目や身体能力を活かして魔法を得意とするエルフ達と正面から戦える事がわかった。


「イレギュラーだったのは彼らでしょうか。」


 水晶の映像に継たちが映し出される。

 そう、この二人の介入から流れが変わった。


「今回の戦いでエルフ達があのような策を使い妖怪達に勝つ事が出来たのはこの者達の影響が大きかったと思われます。」


「ふむ・・・。」


 ローブの男は目を細め映像を見る。

 部下の言う通りこの人間達が現れなければエルフ達は敗走し甚大な被害が出ていただろう。


 エルフ達は己の手で森を焼くというエルフの価値観からしたら常識外れな行動を起こした。

 誰かの入れ知恵無しにエルフがこの策を実行することは普通ありえない。


「この者達は何者だ?」


「同志の情報によるとこの者達は東瀬付近の避難所で自警団をしている者達だそうです。」


 自警団の人間がなぜこんな所に、我々の動きがバレていた?

 避難所と呼んでいる所にはエルフ達も出入りをしていたな。


 エルフ達が自警団に助けを求めて送られてきた腕の立つ者達だとすれば奇襲されたことや森を焼くという策も頷ける。

 だが、握り殺したエルフの様子ではそのような雰囲気はなかった・・・。


 どちらにせよ、この者達を放置しておくのは危険だ。

 本人達の知らない所でたまたま偶然が重なった結果、彼らに注視される存在になってしまった継達。


「東瀬・・・。丁度いい、我々の邪魔をしたこの者達には消えてもらおう。」


 ◇


 今回起きたことを詳しく知るために妖怪達がやってきた方角を隈なく調査した結果、札が貼られた祠が幾つも存在していたことが分かった。

 発見された祠はすべて人為的に破壊され瘴気が溢れ出していたがエルフ達が結界を張り時間をかけて封印するそうだ。


 また、途中握りつぶされたエルフの男性と祠の前で死亡しているエルフの女性が見つかった。

 彩奈が男性の顔を確認すると目撃した酷く怯えていたエルフの男性に間違いなく、女性の遺体は男性の奥さんだったようだ。


 おそらく人質に取られてしまったのだろう。


 陰でこそこそと動いている者が居ることが分かった俺達は、自警団の副代表であるフィエールさんを通してエルフの里と避難所との間で定期的な情報交換をしながら人間とエルフの交流を深めることになった。

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