第014話 新しい修行仲間と事情聴取

 久しぶりに避難所へ帰ってきた師匠との修行は格闘術だった。


「良いか?貫手は指を反らさず、こうやるんだ。」


 またもや何処から調達して来たか分からない丸太に師匠が貫手を放つと丸太に綺麗な穴が開いた。

 貫手ってこういう技だったか?


「な、簡単だろ?」


「なんですか、そのイカレている指は?」


「お前、俺に対して当たりが少し強くないか?」


 俺だって人間離れした師匠の基準で言われても困る。


「僕達だと突き指してしますよ。」


 よかった、冬也が「試しにやってみる。」とか言い出したらどうしようかと思った。


 師匠は「情けねぇなぁ。」とか言っているが出来るわけがない。

 師匠の指には鉄でも入っているのか?


「それはそうと師匠に1つ聞きたいことがあるんですけど、どうしてここに彩奈とフィエールさんが居るんですか?」


 いつもは居ない彩奈とフィエールさんがなぜか修行場所に居た。


「私がお願いしたの。」


 彩奈が一歩前に出て答える。


「この前の戦闘で実力不足を実感してフィエールに相談したら、ここで修行しているって聞いたの。」


「私は付き添いです。」


 彩奈の中で大きな心境の変化あったようだ


 紫の魔獣と戦った経験は俺達に大きく影響を与え、今より強い力、強い自分を求めるようになっていた。

 命を狙われた彩奈からしたら強くなりたいと思う気持ちは切実なはずだ。


「というわけで継、そこの二人と交代だ。」


「私もですか?」


 意表をつかれたのかフィエールさんが自分に指を指しながら驚いている。


「無理にとは言わんが、お前の目も強さを求めているように見える。」


「・・・。」


 師匠の言葉に心当たりがあったのか、それともフィエールさんもまた心境の変化があったのか分からないが。


「そうですね、ルーザァさんとは一度手合わせしてみたいと思っていました。」


 と返した。

 師匠は校庭の真ん中に立ち、少し距離をおいた場所で彩奈とフィエールさんが横並びに構えている。


「来な。」


 師匠が彩奈とフィエールさんを威圧している。

 いつかの自分達みたいだ。


 違いがあるとするば武器は竹刀ではなく真剣で矢は矢じりをつぶしてある事、また魔法やスキルも使用可なのでほぼ実戦だということだ。


「いきます。」


 彩奈とフィエールさんが二手に分かれる。

 彩奈は剣を抜き正面から突きを放つが師匠に受け止められる。


 すると、すかさず裏拳のように体を回転させて左側面への攻撃に切り替えそれに合わせてフィエールさんが右側面から矢を放つ。


「甘い。」


 師匠が彩奈の攻撃を受け止めつつ、矢を右手で掴むと彩奈とフィエールさんの動きが止まる。


「躱すと思ったのか?」


「これ程とは正直予想外ですね。ルーザァさん、あなたは本当に何者なんですか?」


 フィエールさんが冷汗を流す。


「俺から1本取れたら教えてやるよ。」


「彩奈、本気でやりますのでそのつもりで。」


「わかったわ。」


「む?」


 彩奈の剣に炎が纏うと師匠が顔を顰める。


「はあぁあぁぁぁぁぁ!」


 炎の大剣を地面に叩きつけ爆発を起こし師匠の視界を奪う。

 爆風の周りを走りながらフィエールさんが矢筒に手を伸ばす。


 よく見ると口元が動いている、詠唱しているのか?


「くらいなさい!」


 爆風から出てきた師匠目掛けて1本の矢を放った後、剣を片手に接近する。

 師匠が矢を切り払うと矢の姿は消え3本の矢が姿を現した。


 矢は正面、左右の3方向から師匠を襲う。


「幻術と風魔法による遠隔操作か!」


「威力は落ちますがこれなら確実に狙い撃てます!」


「叩き落とす。」


 素早く3本の矢を叩き落した師匠はフィエールさんの剣を正面から受け止める。


「その歳で中々やるな。」


「全て叩き落されるとは思いませんでした。彩奈!」


「いやあああぁぁぁ!」


 爆風の中から駆け抜けてきた彩奈が最大出力の炎の大剣を師匠にぶつけると大爆発が起こり3人の姿が見えなくなった。

 しばらくすると爆風の中から3人が姿を現れた。


「あ~、痛かった。」


 右手をブラブラと振りながら師匠は気の抜けた感想を口にしている。


「嘘・・・。」


「・・・。」


 その様子を見た彩奈は一言つぶやき、フィエールさんは我が目を疑うような表情をしながら目を見開いていた。


 ◇


 修行が終わるとフィエールさんから自警団の天幕で事情聴取があると言われたので俺と彩奈、フィエールさんの3人で向かうことになった。

 自警団の天幕へ向かうと中で代表が一人で待っていた。

 余計な憶測が広がらないよう配慮しているのだろうか。


 それとも誰かに聞かれると不都合なのか。

 どちらにせよ何か意図がある人数だ。


「なるほど、狙われていたのは彩奈君であり継君もまた何らかの理由で捕獲対象になっていた可能性があるということか。」


「はい、あくまでも実際に戦った感想ですが。」


 今回の出来事を一部始終説明する。


「戦いの中で感じたことは大切な情報だ。二人ともその紫の魔獣に心当たりはあるのか?」


「ないです。」


「私もないです。」


 俺も彩奈も心当たりがないのでどうして狙われているのかが全く見当がつかない。

 あの魔獣と何か繋がりでもあるのだろうか?


「あの魔獣の出現を目撃した者の話によると空に亀裂が走りその中から出現したそうだ。」


「空に亀裂が!?」


「あぁ。」


 代表が頷く。

 空に亀裂、そしてその中から出現したという事は。


「代表と私は2つの可能性を考えています。1つ目はあの魔獣は地球もしく私達の世界で何らかの方法によって誕生または召喚された。2つ目はこことは違う別の次元もしくはさらに別の異世界で誕生または召喚され送り込まれた。という2つの可能性です。」


「ちょっと待ってフィエール!その可能性が仮に事実だとして、どうして私や継君が狙われるの!?」


「私にもわかりません。」


 フィエールさんからの突拍子も無い話に彩奈は狼狽している。


 代表が一人で待っていた理由はこれか。


 地球と異世界が繋がっただけでも非常事態なのにこれ以上の事が待っている可能性があるなんて他の人には聞かせられないよな。


「自警団や他の避難所からも情報を集めているがはっきりしたことは分からない。しかし、君達が何らかの理由で狙われたのも事実。今後活動の際には用心する事だ。」


 彩奈とフィエールを連れて自分の天幕に戻り師匠に紫色の魔石の欠片を見てもらう。


「見た事ねぇな。」


 師匠は魔石の欠片を摘んで軽く覗き込むとポイッと投げ返した。


「私も見たことがありません。」


 魔石に詳しいフィエールさんでも知らないとなると完全な新種の魔石である可能性が高いということか。

 少なくともフィエールさんが誕生した異世界では100年以上は存在しなかった物又は表に出ていない物だ。


「学武国家にこういうのに詳しい知り合いがいるからそいつに頼むと良い。少し時間がかかるが招待状は俺が用意してやるから継に運ばせると良い。」


「自警団の副代表として感謝します。」


 フィエールさんが師匠に頭を下げる。


「で、お前彩奈とか言ったか。継と彩奈は次に同じような奴が出現したらどうする気なんだ?今回と同じように討伐してここに残るのか?それとも・・・。」


「その時はここから出ていきます。」


「私も継君と同じです。出ていきます。」


 俺は迷いなく答える。

 この事は紫の魔獣を討伐したときから考えていた。


 師匠は次と言っているが今すぐ出て行った方が良いのかもしれない。

 その方がここに居る人たちにも迷惑が掛からない。


 意外だったのは彩奈が即断即決した事だ。

 彩奈は俺と違って家族が無事なので家族と話し合う時間が必要だと思っていたからだ。


「そんな!二人ともどうしてですか!?」


「・・・。」


 驚愕の声を上げたフィエールさんとは対照的に冬也はただ静かに黙っている。

 冬也は以前ついて行くと宣言しているので成り行きを見守っているようだ。


「ここの人達を危険な目に会わせたくないの。」


「継、お前はどうなんだ?」


「俺も彩奈と同じです。」


「なるほどな。」


 俺と彩奈の返答を聞いた師匠は腕を組んで目を閉じた。

 師匠の頭の中では今の俺達がこのまま外の世界に出て行ったらどうなるか想像しているのだろう。


 しばらくして目を開けた師匠が一つの提案を出してきた。


「なら、初めに向かう所は学武国家にすると良い。」


「どうしてですか?」


「あそこはお前達のような学生が学ぶ場所でもあると同時に魔法研究の場所でもあるからだ。研究材料には貴重な物も多いからな腕が立つ冒険者が多い。お前達でも倒せた魔獣ならそいつらでも十分狩れるだろう。」


 それって現れても人任せにしとけば良いってことですよね。

 師匠の考え方はアレとして、魔石の欠片の調査もあるし魔法を学ぶため学武国家に向かうのは良いかもしれないな。


 魔法を学びながら冒険者として日々のお金を稼ぐ、命がけだけど如何にも異世界生活と言った感じだ。

 一通り話が終わると師匠は出かける準備を始めた。


「どこか行くんですか?」


「予定が早まったからな、色々と準備する必要がある。しばらく帰らないが死ぬなよ。」


 そう言い残して師匠は出て行った。

 俺はフィエールさんに有耶無耶になっていたあの件について返事をする。


「フィエールさん、エルフの里に行く件ですがお願いしても良いですか?」


 エルフの里で確認したいことがあった。

 それに正体不明の魔物についても気になる。


 エルフの人達が知らないという事は異世界には居なかった魔物だという事だ。

 俺達の知らない所で何かが動き出している気がする。


 まず、それを少しずつ知ろう。

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