第012話 作成スキルのあれこれ
「♪~。」
「何をしているんだい?」
天幕の内で一人鼻歌を歌いながらナイフで削っていると訪れた冬也が話しかけて来た。
「これだよ。」
ナイフで削っていたそれを冬也に見せる。
「これって手作りスプーン?」
「空き時間を見つけて毎日少しずつ角材を削っていたんだけどようやく完成しそうなんだ。」
本当に長かった。何度かすくう所の根元が折れてしまって心が折れそうになった。
折れないように太くすることも出来たが個人的に細い方が好きだ。
「わざわざ作らなくてもここの避難所は食器に困ってないと思うよ?それに魔獣や魔物の素材や魔石を売れば商人から買えると思うけど。」
「冬也君、何でもお金で解決するのは人間の良くない所だよ。それに自分の手作りっていうのが良いんじゃないか。」
「言いたいことは分かるけど、僕はやっぱり手軽に買っちゃうかな。」
冬也は理解できるがそこまでするのはちょっとと言いたげな何とも言えない表情をしていた。
まぁ良いさ、俺が個人的に使うだけだから。
すくう所をしばらく慎重に削り遂についに完成する。
「あれ?」
スプーンは完成したが同時に新たなスキルを覚えたことを実感する。
「どうしたの?よくできていると思うけど。」。
「スプーンの事じゃないんだ。作成という新しいスキルを覚えたみたいなんだ。」
異界変災前から色々作っていた時間がスキル発現の経験値になっていたのか作成という生産系スキルを覚えた。
「作成スキルなら欲しいものが簡単に作れるんじゃない?」
「それもそうだな。試しにスプーンをスキルで作ってみるか。とりあえず、材料があれば作れるのか?」
余っていた30㎝程度角材をテーブルに置きスプーンをイメージしながら右手をかざしてスキル<作成>を発動させてみる。
淡く光った角材の原型は粘土をこねる様な動きをしながらスプーンの形になった。
長さは一般的なプラスチックスプーンと同じ16㎝程度で手触りも不快感がない。
質感もヤスリで丁寧に磨かれたような上質な仕上がりでさっき完成した手作りスプーンと比べるまでもない完成度だ。
完敗である。
「毎日少しずつ削った時間は何だったんだ。」
「自分の手作りが良かったんじゃなかったの?」
打ちひしがれている俺に的確なツッコミを入れる冬也。
「それはそうとそのスキル考えて使わないとね。」
「どういうことだ。」
「見てよ、このスプーン。角材の半分くらいしか長さしかない、残りの角材部分は消滅しているみたいだよ。」
本当だ。
2本ぐらい作れる角材がスプーン1本残して消滅している。
あまりの完成度の差にショックを受けて気づかなかった。
ここ数日を一瞬で否定されたのだから精神的ダメージが大きい。
「継はどういう風にスキルを発動させたの?」
俺は冬也にスキルを発動させた時特に何も考えず1本のスプーンをイメージした事を説明する。
冬也はスキルで作成したスプーンと隅に置いてある角材を交互に見ながらしばらく考え込み1つの提案をする。
「今度は同じ長さの角材を使って複数個作成するイメージをしてみてくれないかな?」
「わかった。スプーン10本でやってみる。」
テーブルに新しい角材を用意し10本のスプーンを作成するイメージを膨らませ発動させる。角材がさっきと同じように淡く光り、粘土をこねる様な動きをしながらスプーンの形になった。
「面白い実験結果だね。」
テーブルに現れたのは5本のスプーンとすくう所がないスプーンの棒1本。
「これって無駄なく角材を使い切ったということで良いんだよな?」
「多分ね。初めは継がイメージした1本のスプーンが作成されて残りの半分の角材が消滅していたのに対して、今回はイメージした10本より少ない5本半作成できているからね。」
つまり、①材料の質量以上のイメージで作成すると質量限界まで作成してくれる。
②質量より小さい物を作成すると余った質量は消滅するということだ。
「確かにこれは考えて使わないと資源の無駄だな。」
「でしょ?」
竹の切り端を手に取りスキルで竹とんぼを作成する。
便利なのは間違い無いけど簡単に出来すぎて何だか味気ないな。
「冬也何か欲しい物はないか。このスキルで何でも作れるぞ。」
「なら、盾が欲しいな。」
「盾?」
「継も彩奈も攻撃役でしょ?だから、一人ぐらいは守り役が必要じゃないかと思ってさ。スキル<頑丈>とも相性がいいと思うんだよね。」
俺自身も守るよりも攻める方が向いていると思う。
彩奈も炎の大剣を使う超攻撃型だから冬也が守り役をしてくれるとパーティバランスも良くて大いに助かる。
冬也が希望している事だし盾を作ってみるか。
「そうだな、盾を作ってみるか。でも材料はどうするんだ?」
「なんとかなると思うよ。」
冬也はニコニコしながら「ついてきて」と向かった場所は避難所の自警団本部だった。
冬也の奴、ここで何をする気なんだ?
中に入ると代表や女冒険者が居る中で報告書を書いているフィエールさんがいた。
「忙しい所すみません。フィエールさんにどうしてもお願いしたいことがあって。」
「?」
フィエールさんは状況が呑み込めないまま冬也に耳打ちで何かお願いされている。
二人の話が一通り終わるとフィエールさんは「少し待っていてください。」と言い出かけてしまった。
「フィエールさんに何を頼んだんだ?」
「まぁまぁ、後で話すから。」
しばらくするとフィエールさんが戻ってきた。
「冬也さんが探していた材料が見つかりましたよ。皆さんとても協力的で早く見つけることが出来ました。」
「継、行こう。」
「あ、あぁ。」
フィエールさんについて行くと避難所を出た道路の脇に焼け落ちた車のボディが3台分用意されていた。
「まさか、これを使うのか?」
「そうだよ、所有者の生死不明尚且つ通行の邪魔になっていたものを探して運んでもらったんだ。本来こういった物は本人の許可が必要だけど今の世界だと生きているのかも分からないからね。」
「それにしても随分と早く見つけられたな。」
「それには理由があってね、フィエールさんから冒険者や自警団の人達に協力をお願いしてもらったんだ。男の人限定で。」
なるほど、フィエールさん美人だから下心ある男なら張り切るよな。
デレデレになっている協力者の顔が想像できる。
俺もお願いされたら絶対に断らないと思うし。
頼んだフィエールさんは「どうしてこっちを見ているのだろう。」と頭に?を浮かべている。
無自覚って恐ろしい。
それにしても平然とそんなことを思いついた冬也も中々いい性格している。
今まで知らなかった冬也の一面を見た気がしたけど気持ちを切り替える。
「とりあえず、作成スキルで盾を作ってみるか。」
攻撃を受け止めるだけなら大きさは腕ぐらいまでのショートシールドにするか。
重すぎず軽すぎず、それでいて丈夫な盾をイメージしてスキルを発動させる。
しかし、車のボディが淡く光るだけで盾は作成されなかった。
再度発動させるが結果は同じ、失敗に終わる。
「どうして作成されないんだ?」
「自分で作ったことがないからじゃないのかしら。」
「うわっ!」
いつの間にかその場にいた彩奈が指摘をする。
「脅かすなよ、いつから居たんだ。」
「『とりあえず、作成スキルで盾を作ってみるか。』からかしら。話を戻すけどスキルといっても本人が作り方や構造を理解していないとちゃんとしたイメージが出来ないと私は思うの。継君、竹とんぼは作成できるの?」
「それは試した。ちゃんと作成できた。」
これまでの経緯を彩奈に話すと彩奈は一つの仮説を出した。
「竹とんぼやスプーンが作成できたことから、やっぱりそのスキルは一度本人の手で作成した物でないと発動しないかも。個数などはイメージに左右されて作成されたものは本人の技量よりも良い物が出来るという感じかしら。」
検証するため全員で俺の天幕に戻りスキル<作成>で矢や柵などの作成を試した結果、ほぼ仮説通りで違いがあるとすれば装飾や柄を入れたい場合は追加の材料やイメージを用意しなくてはならないという点だった。
便利なスキルではあるが万能では無い様だ。
<作成>について理解することが出来たが結局冬也の盾は作成できず、話し合った結果4人でお金を出し合いショートシールドを1つ買うことになった。
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