第08話 ルーザァの昔話
「俺の生まれ故郷は商業諸国統一国家周辺に位置する農業が盛んなとある村でな、ガキ頃は体が弱くてまともに外で遊ぶ事すら出来なかった。」
「え?」
「へ~、意外ですね。」
フィエールさんと俺は師匠の話に驚く。
「そのせいで村のガキどもに虐められたこともあったが後で100倍にして仕返ししてやったけどな。」
「嬉々として仕返ししている師匠の顔が容易に想像できますね。」
冬也は気の毒そうな顔をしながら感想を口にした。
「まぁ、色々あって丁度お前達ぐらいの時にとある国の軍に入隊したんだが、そこで一人の男と出会ったんだ。」
~過去回想~
入隊試験が終わり数日後、兵舎で一人寛ぐルーザァに話しかける男が居た。
「なぁ、お前だろ?試験官を倒したって奴は?」
「あぁ?誰だ、お前?」
(師匠、昔からガラ悪!)
(うるせぇ、黙って聞け。)
「ゴメン、ゴメン。俺の名前はユライト。で、どうなんだ?」
「あれは試験官が弱すぎるだけだ。」
外見は俺とは真逆でさわやかっていうのか。
小綺麗な奴だった。
今考えても俺の何がそんなに気に入ったのか分からんが、この日以来剣の訓練や模擬戦など何かにつけて俺と組みたがってな。
あまりのしつこさに半分鬱になりかけた。
そんなある日、国境沿いの森で魔物が異常発生する事件が起きた。
森に一番近かった村は壊滅、兵士である俺達が食い止めることになった。
魔物の強さも数も想定外で一人また一人と負傷者が増え、砦の中の士気も下がっていった。
「このままだと僕らも全滅かもしれないな。」
「俺は死なんがな。それに明日になれば援軍が来る。」
「お前のその自信はどこから来るんだ?」
「それはな・・・。」
「「敵襲!!!」」
俺は一目散に剣を手に取り、魔物の襲来で混乱や恐怖している兵の中を駆け抜け砦を出る。
「おい!持ち場を離れて何処へ行く!?」
後ろからユライトが追いかけて来る。
「迎え撃つ。ユライト、お前も砦の状況は見ただろ。中の奴らは当てにならん。浮足立っている砦に魔物が雪崩れ込んだら全滅だ。態勢が整うまで時間を稼ぐ。」
「なら俺も行こう。」
ユライトはさも当然の様な顔している。変わったやつだ。
「軍法会議に掛けられても知らないからな。」
「え?やめようかな?」
ユライトはお昼のメニューを選ぶような顔で悩んでいる。
「ここまで来て日和るなよ・・・。」
俺とユライトが時間を稼いだ事によって砦の兵も持ち直し、援軍も来て無事に魔物を討伐。
俺達は案の定軍法会議かけられたが砦に居た奴らが嘆願書を出してくれたお陰でお咎めは無しになった。
だが、この一件以来ユライトのしつこさがさらに酷くなったから俺は直接聞いてみることにした。
「おい、ユライト。いい加減にしろ!なんでそんなに俺を追い回す。」
「追い回すなんて侵害だなぁ。相棒になって欲しいだけだよ。」
「なんで俺なんだよ。」
俺の質問にユライトは真面目な顔つきになり理由を口にする。
「お前は本当の意味で誰かのために命を張れる人間だから相棒になって欲しいんだ。」
~現在~
「この後、なんて返事を返したんですか?」
フィエールさんは食事の手を止め、師匠の話に集中している。
「模擬戦で俺に勝ったらなってやるって言ったんだ。」
説得を諦めて力技で解決しようとする辺りが師匠らしい。
「やっぱり師匠が勝ったんですか?」
冬也は師匠が勝ったと予想したみたいだ。
俺も今までの話を聞く限りユライトさんよりも師匠の方が強いイメージがある。
ユライトさんは師匠を追い回す押しの強い所があるが、どっちかというと暴れる師匠をフォローするような立ち位置で正直試験官を倒せるようなイメージが湧かないからだ。
しかし、師匠から返ってきた答えは予想を超えるものだった。
「いや、ボロ負けだった。」
「「師匠がボロ負け!?」」
「ルーザァさんがボロ負けですか!?」
予想外の結果に驚く一同。
無理もない、俺だって信じられない。
師匠の話では師匠は試験官を倒したと言っていた。
つまり、ユライトさんも試験官を倒せる実力があったけど誰にも気づかれずに実力を隠していたということになる。
師匠が見抜けないほどに。
師匠よりもユライトさんの方が何者なんだ?
「不本意ながらもユライトの相棒になった俺は、しばらくしたら軍がつまらなくなって辞めることにした。」
「普通、面白いと思う方が珍しいと思いますよ?」
フィエールさんの言う通りだ。
師匠も十分変わっている。軍隊に何を求めているのだろうか?
楽しい軍隊なんて戦闘狂や心身を鍛えることが好きな人でもない限り地球と異世界中を探したところで絶対に見つからないと思うんだけど。
「つまらなかったのは事実だから良いんだよ。とにかく退役する時にユライトがこう言ったんだ。」
『つまらないなら一緒に旅をしないか?俺はお前みたいな面白い奴をずっと探していたんだ。』
「ってな。結局二人で退役して旅に出たのは良いが途中竜の縄張りにうっかり入って襲われるわ、仲間が増えて金欠になるわ大変だった。」
「なんだか冒険譚が書けそうな旅ですね。」
本人は大変だったと言っているが実に楽しそうに話している。
師匠がこの避難所に一人で来たという事は旅を終えた後それぞれの道に進んだのだろう。
俺は師匠よりも強いユライトさんが現在何をしているのか非常に気になった。
「ユライトさんは今どうしているんですか?」
俺の言葉に師匠は少し寂しそうに「あいつは、随分前に死んだ。」と呟いた。
「すみません。」
俺は何て答えればいいか分からず、ただ謝ることしかできなかった。
「ったく。ガキが何大人に気を使ってんだ。さっきも言ったろ、随分前に死んだって。お前が気にすることじゃない。こうなるから昔話は好きじゃねんだよ。」
さっきまでの表情が嘘のようにいつもの師匠に戻っていた。
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