第03話 エルフとの再会

 継が眠る隣のベッドでルーザァは天幕の天井を見つめる。


『俺達に剣を、生き残るための戦い方を教えてください!』 


 継と冬也の姿を思い出す。


 ガキどもは見た目通りのただの子供だ。

 普通に鍛えたところで高が知れる。


 それを一から短期間で強くするとなると多少の無理が必要となる。

 身体的負荷は後々命取りになる可能性があるから避けたいところだが・・・。


「さて、どうするか。」


 最悪、近い将来アイツの力を借りることになるが・・・。

 全く面倒な事を頼みやがって、これは貸しだからな。


 ルーザァは少し不機嫌になりながら眠りにつくのだった。


 ◇


 翌朝、俺は結に話しかける。


「おはよう、結。先の話になるけど旅に出ることにしたよ。冬也も付いてくるってさ。」


「・・・。」


「・・・。今日から俺なりに少しずつ前に進んでみるよ。」


 突然の理不尽にまだ怒りや悲しみはある。

 でも、心の整理が本当にほんの少しだけど自分なりに出来たような気がした。


 結に挨拶を済ませた後、結界内の街を散歩しているといろんな人が出入りしていることに気づく。

 人間というものはその時の心境によって見えてくるものが違うみたいだ。


 昨日まで結の事ばかり考えていた俺は一日中出ている光の壁とオーロラを除けば、避難所の人流一つ見えていなかった。

 新しく避難してくる者には、地球人の他に戦えない子供や集団からはぐれた異世界人も居た。


 いくら準備をしても例外は必ず現れるということなのだろう。


 また、冒険者に紛れて商人の姿もあった。

 異世界の人々特に商人からすれば地球の物は珍しい宝の山に見えるに違いない。


 地球と異世界二つの世界が大変な時にまで商売のチャンスと思うのは、商売根性が凄いというか何というか人間というのは逞しい生き物だ・・・。


 そういえば、隣のベッドで寝ていたはずの師匠が居なくなっていたが何処に行ったのだろうか?メモぐらい残しておけばいいのに。

 まぁ、見るからにいい加減そうだしなぁ、仕方ないか・・・。


 そんなことを考えていると見覚えがある姿が視界に入った。

 助けてくれたエルフの女の人だ。


 見回りをしているのか武器を携え周りを観察している。


 まだ助けてもらったお礼を言えてなかったな。


 申し訳ない気持ちで一杯になり声をかけることにした。


「あの・・・。」


「はい、あ、あの時の。」


 どうやら覚えていてくれたらしい。


「あの時は自分の事しか考えられなくて、お礼もロクに言えずで、その・・・。」


 まずい、まずい、まずい。

 考え無しに声を掛けたから言葉が出てこない!


「もう大丈夫なのですか?心配していました。」


 申し訳ない気持ちをどう伝えたらいいのか分からず、しどろもどろになっている俺にエルフは微笑みながら聞き返してくれる。優しい人だ。


「はい、おかげさまで何とかやっていけています。俺の名前は霧島 継と言います。助けていただきありがとうございました。」


「いえ、私にできることをしたまでのことです。私の名前はフィエール。継さんが無事でよかったです。」


 フィエールさんへお礼を終えると二人で話をすることになった。


「何か困ったことはありませんか?不足していたり、不便なことはありませんか?」


 少し考えてみる。

 トイレや洗濯は自衛隊や役所など地球の人々が頑張っている。


 食料のことに関しても異世界からの支援によって何とか食いつなげている。

 そう考えてみると水も魔法で出せるらしいからお風呂も困らない。


 娯楽以外は特に大丈夫な気がするな。

 欲を言えば切が無いだろう。


「大丈夫だと思います。」


「なら、良かったです。継さんの世界は雷ではなく電気?というもので生活をしていると聞きましたから不便をしているのではないかと。」


「どうしてフィエールさんの世界の人達はこちらの世界の人に親切なんですか?」


 そう、いくら世界が大変だからと言ってここまで支援するのは正直違和感がある。

 何か裏があるのではないかと・・・。


 しかし、フィエールさんは考える間もなく答える。


「女神様が降臨したことが一番の影響ではないでしょうか。」


「『異世界と交わることが起こるでしょう。』と伝えたという話ですよね?」


「えぇ、もしかしたら女神様は継さん達の世界を知っていて、尚且つ敵意が無い事も知っていたのだと思います。それに女神様が私達の目の前に降臨すること自体が異常事態なのです。」


 なるほど、異世界の人達もそういった解釈や異常事態を感じたから好戦的ではなく協力的だったということか。


「もちろん、私たちの全ての人々が協力的とは言いません。魔族という敵対する種族も存在しています。ですが、少なくともここにいる多くの人は協力的な方達だと思っています。」


 フィエールさんのまっすぐな目には裏があるようには見えない。

 本当にそう思っているのだろう。


 彼女自身は良い人なのだと納得し、俺はエルフについても気になったので聞いてみた。


「フィエールさんの世界でエルフという種族はどういった種族なんですか?」


「そうですねぇ。」


 ゲームやアニメで見るようにやはり見た目が美人。

 少し考えるしぐさも外見がとても美人なので絵になっている。


 本人達は自覚をしていないと思うけど、避難所で協力してくれているエルフは美男美女ばかりだ。


「継さんの世界にもエルフがいるのですか?」


「いえ、俺達の世界ではエルフは空想上の生き物になっていますね。」


 俺はゲームや漫画の話を混ぜながら地球のエルフについて説明をする。

 その間フィエールさんは興味津々な顔をしながら俺の話を聞いていた。


「面白い話ですね。世界が違うのに私達と似ているところが沢山あります。私達エルフの多くは森や泉の近くに住み、中には地下などに住むエルフもいます。私の故郷はこの世界と同化してしまいました。この世界では東京?と呼ばれるところの西部に位置する森の中に隠れ住んでいます。」


 他にも歌・踊り・魔法・狩りが得意で精霊と仲が良く、エルフの中でも好奇心が強い者は旅に出るので肉も普通に食べるそうだ。

 寿命は数百年でフィエールさんは118歳、人間だと18歳ぐらいにあたる。


 又、ハイエルフという少数の上位種族が以前は存在していたが姿を消したらしい。


 魔法に関してはさすがエルフというべきか魔力は人間より高く魔法に秀でている者が多い。

 フィエールさんも風魔法を使えるので一度見てみたい。


 魔法の基礎も教えてくれた。

 魔法は魔子と呼ばれる自然界に存在するエネルギーと魔力が結びついて発動しているらしい。


 じゃあそのエネルギーはなんだってことになるのだが、星の命や万物の魔力など色々と説があるそうだが正確な事はまだ分かっていないようだった。


 それにしてもフィエールさんの故郷が同化した?

 ここからでも見える光の壁の向こうには国があるらしいがこの違いは何なのだろうか・・・。


 フィエールさんの話を聞き少し考えていると突然「何をしている!」と男の声が聞こえた。


「どうしましたか!?」


 急いでフィエールさんと駆けつけると、男の目の前に大きな袋を抱えて玄関から出ようとしている者がいた。

 これはどう見ても盗みに入った所を鉢合わせしたんだな。


 現行犯だ。


「どけ!」


 泥棒は男を突き飛ばしこちらに走って来る。


「継さん、離れていてください。」


 フィエールさんは俺にそう伝えると突進してくる泥棒を軽く横に避け、足を引っかけて転倒させた。


「さてと、どうして泥棒なんてしたのですか?正直に答えた方が身のためですよ。」


 泥棒に尋問するが口を割らない。

 ヤレヤレという顔をしながらフィエールさんは泥棒に人差し指を向ける。


「仕方ないですね。こういう事はあまりしたくないのですが・・・。」


 何をする気なんだ?


「<罪びとの汝にエルフの夢を>」


 と言葉を紡ぐ。

 言葉が紡がれた途端に泥棒は意識を失った。


 魔法なのだろうか?一瞬の出来事で何が起こったのか理解できなかった。


「えっと・・・、殺したんですか?」


「いいえ、スキルで気を失っているだけですよ。後でしっかりと尋問しますからそんなことはしません。1週間ほど夜に悪夢を見続けるだけです。」


 泥棒に同情する気はないが1週間も悪夢を見続けるのは精神的にきついだろうな。

 そんな気持ちが表情に出ていたのかフィエールさんは俺に向かって。


「エルフを怒らせると怖いんですよ?」


 と、人差し指を口元に近づけながら、いたずらっぽい笑顔で答えた。

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