ラティナ・トゥワイス
墜落する寸前、意識を取り戻したリーンが再びドラゴンへと変化して着地した。ラティナとラーサが、風を軸としてダガーを手に悪魔へ特攻した。
ラティナのダガーが悪魔の頬を薄く切り裂いていく。ラティナの姿は風に乗り高速へと達していた。
風と暗闇が渦巻く空間で悪魔が魔法を詠唱する。そうはさせじとラーサが詠唱を邪魔するように喉を狙った。
「がっあぁぁぁ!」
悪魔の腕の一振りでラーサが打ち落とされた。そのままラーサは動かない。
「……果てより来たれ、嘆きの魂」
悪魔から暗黒の玉がリーンへと放たれる。それはリーンが受けた暗き玉よりも濃く、リーンの動きに合わせて軌道を変えてくる。
「私だってっ!」
リーンの、ドラゴンの口からの超音波が暗闇の玉を粉砕した。しかし、分裂した玉の破片が集まって再び暗黒の玉を形成しリーンへと向かったのだった。
「ラティ、ナ」
暗黒に包まれたリーンの意識が途絶える。
「リーン!」
ラティナが悪魔の頬を切り裂きながら至近距離で衝撃波を生み出す。悪魔の頭の一部を皮ごとごっそりと削っていく。
「妖精ごときがっ!」
軌道を読まれたラティナが悪魔の腕に捉えられた。ラティナは素手で打たれ壁へと激突する。
額から流れる血を捧げラティナが歌う。アートナが顕現する。
「アートナ。もうあたしには、力が残って、ない。どうしたら、いい? どうしたら、あいつを倒せる?」
魔力の大半を失い、気を失いかけているラティナにはもうどうすることも出来なかった。ラーサも倒れ、リーンも気を失っている。
「我は生ける者。アートナだ。生きる為にお前達に欠かせない物とはなんだ」
「欠かせない物。食料。水、それから……」
「そう食料だ。我との契約の時、お前には血を貰った。これ以上の力を望むのなら、お前自身を頂きたい」
当然のように言うアートナだが、確かに生きる為に必要なことなのだろう。
「あたし?」
「そうお前だ。ラティナ・トゥワイスと言う存在その物をもって我が力、行使してやる」
考えることなくラティナは笑った。
優しい、柔らかな笑顔を。
リーン、ラーサ、二人を救えるなら、この世界を守れるなら。そう考えると自分のことなどなら安いのかもしれない。
「わかった。アートナ、後はお願い」
風が咆哮をあげていた。
「むっ」
悪魔がラティナの方を向いた。風が一点に集まっていく。周囲の雰囲気が変わる。ラティナの羽が消えていく。
「リーン、ごめんね」
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