悪魔対妖精
皇子の部屋が瓦解していた。いや城の天井が吹き飛んでいた、と言った方が正確かもしれない。一体の悪魔がベッドの上に鎮座している。
部屋の入り口でドラゴンが歩みを止めた。
「やあ。やってくれたね」
ラティナ達に向けられた憎悪が言葉をより重く響かせる。無言でいるラティナ達に語るように悪魔が顎を手に乗せた。
「この帝国の民と悪魔を入れ替える策はもう使えない。レッサーどもを操作していた契約者も死んだ。まさか最弱の妖精ごときに計画を邪魔されるとは思わなかったよ」
ふふっと顔に刻んだ笑みがラティナには狂気に見えた。
「あなたが、あなた達が戦争を」
意外にもラティナのこの言葉に悪魔は反応した。
「戦争を始めたのは皇帝だ。不思議か? 我らではないことが。人間の業には我とて遠く及ばない。だが、それに乗じて我らは上手く悪意を拡散してきた。帝国そのものを悪魔の国にして、もっともっと多く悪意をばら撒く段になってお前達がきた。さぞ死んだ男も口惜しかっただろうに」
ラティナ達がごくりとつばを飲み込む。
「さて、落とし前だけはつけて貰おうか」
ふらりと悪魔が立ち上がった。人間の姿とさほど変わらない。背中に蝙蝠の羽が生えていることくらいが人間との違いだった。
「ラティナ! リーン! 固まるなっ!」
ラーサが飛び出す。リーンが変化を解いて、ラティナを目で追いながら上空へ。ラティナはゆっくりその場で羽ばたきながら悪魔へ風を送った。
瞬時に微風が強風に変わり風の槍になる。
ラーサが躊躇わず、ラティナの風の反対側から真空を放った。
「甘い」
腕の一振りで風の槍が砕かれた。見もしないで真空を躱す。
悪魔の口から息が吐きだされる。様々な毒虫がその息から生み出された。
「リーンっ!」
ラティナの声でリーンが変化する。空中を飛ぶドラゴンが放つ超音波のブレスは、毒虫をことごとく引き裂いた。
「こっちだ」
ラーサが部屋の中で竜巻を起こした。悪魔の動きはそれでも止まらない。
「荒ぶる魔神の力か」
ジンの竜巻の中で悪魔が独り言ちる。
その竜巻すら割いて、ラティナが放った衝撃波が悪魔を横に分断。出来なかった。
「我はアナク。甘く見てもらっては困る」
衝撃波を腕で防がれ、闇で周囲を覆われる。
「アナク。四人の悪である悪魔の一人。サタンと肩を並べる者」
ドラゴンに変化しているリーンの呟きに悪魔が頷く。と同時にドラゴンへ暗き玉を投げつけられた。
「ああ」
ドラゴンの体が闇に染まる。
「リーンっ!」
ラティナがふらつきながらリーンへと目線を向けた。ドラゴンから変化を解いてリーンが落ちていく。
「ラティナっ! 手を緩めるなっ」
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