悪魔

 ラティナ視点。


 ラティナとリーンが桶を浴槽にして汗を流す。暖かいお湯が二人の体から疲れを流してくれた。それでも時折ラティナがふらつく。契約の為の衰弱が酷かったせいだった。リーンがラティナの体を支えてくれる。


「汗を流したらあがろう。まだ今のラティナには長湯は無理そうだから」


「うん」


 柔らかいタオルで体を拭く。服の代わりにもう一枚のタオルを体に巻いて、汗に濡れた服を洗いにラーサへ差し出した。小さな服が二着。リーンとラティナが着ていた服をすぐさまラーサが洗いに持って出て行った。


 お湯からあがるとラティナは布団へと戻った。侍女から姫に手渡された食事を、姫が布団に持ってきてくれる。


「ラティナ。少しでも食べておいて下さいね。体力を付けないと」


「うん、ありがとう」


 姫が籠に入ったパンとミルクを布団の傍らに置いて椅子に腰を下ろした。


 パンをミルクで胃に流し込む。


 その時、ドーンっ! と胸を揺するような大きな音と共に城に地響きが起こった。


「ごほっ」


 肺に入ったパンを咳で吐き出す。一瞬、息が出来ずラティナは苦しかった。


 リーンが姫の部屋に置いていたリュックへと体を動かした。


「ラティナ、着られる?」


「大丈夫」


 代えの服をリーンが急いで着るとラティナにも服を手渡した。ゆっくりラティナが服に袖を通していく。


「皇子の部屋あたりか!」


 ラーサが引き返して来て、姫の部屋のドアを開け放った。


 リーンが注意をしておいたから、皇子は今部屋にはいないはず。


 ふと金属が擦れあうような音が聞こえてきた。廊下を誰かが駆けてくる。


 鎧を着た兵士の一人が姫の部屋まで伝令として来てくれた音だった。


 宰相の部屋から本物の宰相が助け出された事を伝え、次いで重要な一言を姫と言うよりラティナ達へ伝えるべく来たことを伝えられた。


「悪魔がいる。宰相がそれだけ伝えて意識を失いました」


「あの偽宰相に力を与えていた奴ならあたしが行かないと」


 ラティナがリーンの肩を借りて立ち上がる。


「無理しちゃ駄目だよ」


 心配そうにリーンがラティナを見つめた。


「うん。リーン、ラーサ。力を貸して」


「任せろ」


 リーンも頷いて小さいドラゴンへと変化した。ラティナがその頭に乗る。ラーサがラティナの隣でラティナを支えた。


「マール、行ってくる」


 両手を胸の前で組んで姫が心細そうな顔を下へ向ける。片手を差し出して止めようとしたのを思い留まり、俯いた顔を再びあげた。


「生きて帰ってきてくださいね」


「うん」「ああ」「ええ」


 三人の声を聴いて姫は後ろを向いたのだった。




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