契約解除
リーン視点。
洞窟の最奥にリーンはたどり着いた。地図が正しければ到着点であるはず。
光の幕が目の前にある。泉はその奥だろう。ランタンを置いて、手を触れてみる。何の抵抗もなく手の平はそのまま通り抜けた。
一度引き抜き。ランタンを持って再び歩き始める。
光の奔流が起きた。歩く先にリーンの姿がある。リーンが立ち止まる。
〈己に打ち勝て〉
言葉が頭の中に湧いた。
「戦うの?」
疑問を持ってリーンが立ちすくむ。目の前のリーンは呆然と立ち尽くしている。
手を伸ばしてもう一人の自分に触る。相手もリーンに手を伸ばしていた。攻撃をすれば攻撃で返されていただろう。なら、取る方法は一つだけだった。
「私は私。他の誰でもない」
リーンがもう一人のリーンを抱きしめる。にこりと笑ってもう一人のリーンがとけた。そして光は泉となって目の前に広がったのだった。
壁のくぼみにあった入れ物で泉の水を入れる。容器に入れた水が微かに光っている。
その容器だけで十人分は入れられた。リーンが引き返していく。駆け足で皇子の元へと急いだ。
荷物が無ければ飛べるのにと言う思いが浮かぶ。ランタンと泉の雫を持って走るのはやはり辛かった。ランタンさえなければ、でも、走り戻る道は火がないと見えない。
「あせっちゃ駄目なのに」
気が急いてしまうのはしょうがない。それを抑えてリーンは走り続けた。転ばないようにだけ注意して行く。
光が見える。火を消してランタンを入口にかけると、リーンは変化を解いて飛んでいく。両腕一杯に雫の瓶の一つだけを抱えて、リーンに出せる限界の速さで飛んだ。
家や塀を飛び越えて真っ直ぐに目的地へ目指す。詰所のドアを変化して開けると、皇子達が待っていてくれた。
「リーン」
すぐに用意してくれていた羊皮紙に雫がかけられる。すると書かれていた文字が消えていく。ラーサの分と合わせて二枚の文字がすっかり無くなっていた。
「ラティナっ!」
ピクシーに戻りお礼も後回しにしてリーンは姫の寝室まで一直線に飛んでいった。
ドアの前で変化する。
ノックもせずに押し開いた。
「ラティナっ」
「リーン?」
汗でびしょびしょになりながらラティナが上半身を起こしていた。隣に居た姫とラーサがほっと一息つく。
「ラティナ」
目に涙を浮かべてリーンが飛びつく。やはり汗だくの体だった。
「二人とも、お風呂に入ってこい」
ラーサが呟く。
姫がにっこりとしながら食事を持ってきてくれるように別の侍女を呼んだ。
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