契約の呪い


 ラティナ視点。


 城の奥から地震のような音が広がる。


「マール、行ってくる」


 ラティナが姫の言葉を待たずに音のした方へと飛び出していった。鉢合わせた衛兵を風の力で吹き飛ばし意識を失わせる。彼らをそのままにしておいたら恐らく障害にしかならなかっただろう。


 飛び続けるラティナの行く先々で兵士の人数が多くなっていく。ラティナはアートナの領域を広げ空気自体を無くしていった。真空にちかい状態になって兵士達が気を失っていく。もちろん気絶した兵士の廻りには空気が戻っていくようにした。


 その中をラティナだけが翔ける。


 宰相の部屋まで来てラティナはウイングドラゴン、リーンが宰相に殴られて変化を解除させられたのを見てとった。


 ラティナの前で空気がこごる。帝国全体をアートナの領域が支配した。


 宰相の廻りで風が動く。一瞬で暴風を超えて耐えがたい圧にまで成長させた。


「なにを、した……」


 宰相が動けない。空気の圧が男の体を全方位から圧している。そして、空気の中でも酸素のみが宰相の廻りに吹き荒れた。


「リーンを傷つけたな。ゆるさない」


 ラティナが床に倒れているリーンを抱きしめる。ぐったりしたリーンはまだ目を覚まさなかった。里に居た時よりも攻撃的なのはあの悪意がまだ少し残っているからだろうか。


「ふっ、契約をしておいて正解だった、な。お前は俺を、殺せない」


「あたしが殺すんじゃない。自分で死ね」


 逃げようとする宰相が圧に対抗して動こうとする。その動きが風との摩擦をうんでいく。そして隕石が炎を纏うように宰相の体から火花があがった。


「ごあぁぁあああぁ!」


 爆発。空気の圧力で出来た壁が爆発の威力を内に内にと圧縮していく。火炎と爆発の威力が男を消し炭にした。


 ふっと空気が元に戻って行く。ラティナの領域がラティナの廻りへと縮んでいく。


【どくんっ!】


「ぐっ、けほけほ」


 ラティナの心臓が高鳴る。急速に体が冷えていく。契約の呪いが発動したのかもしれない。


 それでも、


「リーン。リーン」


 と、呼びながらラティナは飛んだ。





 部屋のドアで一旦止まって変化をしてからドアを開いた。


【どくん、どくんっ】


 心臓の痛みはまったくひくことがない。


「マール。マー、ル。リーンを、助けて」


 ラティナが叫ぶ。ベッドに座っていた姫が立ち上がり、リーンの側へと急いだ。


「ラティナさん。リーンはどうされたの?」


「分からない。あたしが駆けつけた時にはもう意識がなくて。けほけほっ。リーン」


 何を思ったか姫が部屋の外へと駆けだした。皇子のいるはずの部屋まで。


 意識が暗闇に飲まれる。そこでラティナの意識も途絶えたのだった。





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