皇子への接触
外を通って城の上空を飛ぶ。皇子の居る場所はリーンが見当をつけていた。
「昨日入れなかった区域があるの。多分そこだと思う」
「あっちか」
リーンの指さす方向へとラーサが旋回する。ラティナはリーンの前を飛びながら、リーンが遅れないように風圧からリーンを庇って飛んだ。
コツコツと窓を叩く。中から皇子が窓を開けてくれるまでラティナ達は待った。
「こんにちは」
窓を開けた皇子が驚いて一歩後ずさる。それでも皇子は怯むことはなかった。ラティナの声に敵意を感じなかったからだろう。
「早く入れって」
ラーサがラティナを押して皇子の室内に入りこむ。
「お邪魔します」
最後にリーンが部屋へ降り立った。
呆然と皇子が三人のピクシーを交互に見回した。
「改めてこんにちは」
「あ、ああ。君達は?」
すらりとした体形に筋の通った鼻。黒い瞳に引き締まった口元。一七歳ほどだろうか? 美男子と言っていい皇子を前にしてラティナ達は自己紹介を始めた。ピクシーの姿に驚きながらも皇子は三人を迎え入れたのだった。
「……で、こっちがリーン」
「僕はジェラルド・ド・ラズバーン。で、要件は?」
「皇子がどう言う人か知りたくて」
素直にラティナが口にした。なんとなく察してくれたのか、皇子は椅子に座ると足を組んでラティナ達を伺った。
「姫のご友人か。なるほど。どう言う人かは応えられないけど、こう言う人だよ。今、帝国は父上が姿をくらませて大変なんだ。式はまだ先でも良かったんだけど、宰相がうるさくてね」
少しだけラティナは安心した。なんだか良い雰囲気の人に見える。
「戦いは何時まで続く?」
ラーサが皇子を真剣な眼差しで見つめた。
「さあ。父がどう言うつもりか知らないけど、町の人々も疲弊してきている。兵だって、何時までも続く戦乱に嫌気がさしているだろう。宰相だけだ。戦争に乗り気なのは」
「そうか」
ラーサが頷く。その一言だけで十分だった。皇子も戦争を忌避していることが分かったからだ。
「マール。マーガレット姫をよろしくね」
三人が部屋を後にしようとした時、皇子は一言だけラティナ達へ言い放った。
「式の後、初夜に。僕から姫を守ってくれ」
ラティナ達が足を止める。
「なぜ?」
苦々しそうに皇子が胸の内を吐き出す。
「最近僕は、自分が何をしているか分からなくなる時がある。自分が制御できない。もしかしたら薬を盛られているかもしれない。だから」
リーンが頷いて、皇子の手に小さな手を重ねた。
「私達がきっと守るから」
それだけ言って部屋を後にしたのだった。
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