帝国との契約
森の中の薄暗い道を馬車が行く。姫が道中もリーン達に現状を話してくれた。
「帝国は四方の内、南、私の国と東の国が属国であって、北と西を相手に戦争をしています」
リーンが頷く。北、リーンとラティナの里はマールの国よりも南。南国に位置している。砂漠があったのも里より東南東、南だ。この辺りに来ると肌寒く、更に北の国と戦争をしている帝国の立地が丁度中心にある様な感じだった。
「マールの国は戦争をしないのか?」
ラーサが訪ねる。恐らくラーサが捕まった町はマールの国の領土内のはずだった。
「十年前位迄はしていたみたい。帝国と」
「そうか」
それだけ言ってラーサが口を閉じる。憎い人間は姫の国の人間だろう。しかし、もう過ぎ去った過去だ。だからラーサは何も言わなかったのかもしれない。
数時間、馬車に揺られ。深い森を縦断する。
姫は城が近づくにつれ無口になっていった。
森を抜けた処で大きな城壁が見えて来る。片側が高い崖に守られた天然の要塞の様。東に山があり、山に沿って出来た崖が町を半分覆っている。
城塞都市。その名に恥じない鉄壁感が漂っている。
近づいてくる城門を見ながら、ラティナとリーン、ラーサは巨大すぎる城に目を丸くする。
「マール。大丈夫?」
「だ、だい丈夫です」
姫の表情が硬い。馬車がゆっくりと停止した。
城門が開けられる。わらわらと役人と思しき人達が馬と馬車を取り囲んだ。
「降りろ」
一言。それだけ言うと役人は宝珠を各人にかざし始めた。
「お前、それとお前。この二人を拘束しろ」
ラティナとラーサは抵抗する間もなく捕らえられた。
「何者だ、お前達」
きょとんとしているラティナとラーサには何のことだか分からない。
「私の従者がどうかしたのですか?」
ようやく事態を飲み込めたらしいマールが役人に訪ねてくれた。
「魔力量がこの二人は高すぎる。城に近づく魔力反応が異常を訴えていた。もう一度問う、何者だ」
姫と一緒でなかったら、決して城門は開かなかったに違いない。ただ何者か? と問われてもラティナとラーサに答える術がなかった。まさかピクシーであることを告げる訳にもいかない。
「この二人は私の従者です。それ以上でも以下でもありません」
じっと二人を凝視したまま役人は二人の拘束を解こうとはしない。姫の必死の訴えも彼は無視していた。
「ジェラール。そこまでにしておけ」
「はっ!」
突然門から出て来た男が役人、ジェラールを窘める。即座に役人達は人の通れるスペースを空けてその人物を招き入れた。そして魔法使い達がわらわらと男の後に続いて門の前まで来ていた。
「お嬢さんがた。ジェラールが失礼したな。だが、このままではお二人を城に入れることは出来ん。そこでだ。お二人には契約を結んでもらう」
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