帝国へ
「では、姫のことよろしく頼む」
初めて会った時とは違い笑顔で彼はラティナ達を姫の部屋へと案内した。リーンが彼の言葉に頷いている。
ラティナがドアを叩く。
「リーン」
弾んだ声でマールが出迎える。
他愛無い世間話をしながらいつ切り出そうか、ラティナは迷った。
「マール」
「なに?」
それを察したリーンが姫の言葉を遮る。
「私達も帝国って国に行ってもいい?」
マールが驚いた顔をして両手を口にあてていた。その目から涙が伝う。
「ほんと……。ほんとうに一緒に来てくださる?」
ずっと心細かったのだろう。三人に一緒に来てほしかったに違いない。
「一緒に行って確かめたいことがある」
ラーサの言葉にラティナが頷く。リーンはマールの顔を見て微笑みながら頷いた。
「ありがとう。ありがとうリーン」
マールがリーンに抱き着く。リーンはマールの頭を撫でながら、抱きしめかえした。
ラーサ視点。
数日後、謁見の間に王座に座った王と跪いたレディウスが話していた。ラティナ達より遅れて姫の元へ行こうとしたラーサが変化を解いて上空へただよう。
「王。彼女達なら姫の心の安寧にきっと役立つと思います」
レディウスの口からラティナ達のことが語られる。
「確かに彼女達が来てからマーガレットに笑顔が戻ったが」
言い淀んだのはラティナ達が身元の分からない人間だったからかもしれない。
柱の陰でラーサがことの成り行きを見守っている。ピクシーの姿で天井近くを飛んでいる彼女に気づく人間はいない。
「私も最初は彼女達を疑っていました。しかし、偶然出会った彼女達に害意がある様には見えません。もう姫を引き渡す期限が迫っています。姫のことを考えるなら彼女達を同行させた方が良いと私は考えます」
「城の者を頼りにすればいいものを。なぜあんな旅の者達に」
独り言ちて王はレディウスを見つめた。
「分かった。同行を認めよう。リーンと言ったか? その者達に伝えるがいい」
レディウスが頷く。
ラーサはにこりと微笑み変化して姫の部屋へと急ぐのだった。
ラティナ視点。
一カ月があっという間に過ぎた。今日は姫の嫁入りの日だった。
「起きてください。皆さん」
朝の早い時間にラティナ達も侍女に起こされた。朝日がカーテン越しにうつる。
運ばれた朝食を軽く済ませ、中庭にラティナ達が行くと既に準備された馬車がそこにはあった。先導するのはレディウスと騎士が十名。それぞれ馬にまたがっている。
「リーン」
マールが馬車から手を振る。ラティナとリーンが馬車へと近づいた。ラーサも慌てて馬車まで駆けてくる。
「では、行くぞ」
レディウスは心なしか沈んでいる様に見えた。姫を送った後のことを考えているのかもしれない。彼は最後まで姫と一緒にいることは叶わないからだろう。
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