信頼

「マール。私達が本当の姿を見せたのは信愛の証。誰にも言わないで」


 リーンの真剣な眼差しに姫が頷く。


「分かりました。そうそう。聞きたいことって何でしょう。今度は私の番ですよね」


 再びラティナ達が人間の姿へと変化する。大きくなって羽が体の中に消える。不思議な光景に姫はきらきらと目を輝かせていた。


「この町は平和そうに見える。戦争とかとは無縁なのか?」


 ラーサがまず考えていたことを口にした。マールの顔が暗くなる。


「私が人質がわりに隣国である帝国へ嫁入りすることになっているの。この国はそれで安泰。平和は続くわ」


 ラーサが思わず目を吊り上げた。捕まった時のことを思い出したのかもしれない。でもそれは彼女自身が犯した罪も思い起こさせる。同族を殺して来たことをラーサは悔いていた。


「人質……」


 ラティナが呟く。リーンがラーサに代わってマールに問いかける。


「私達は人間の世界のことを知りたいの。この世界には悪意が蔓延っている。それと人間がどう関わっているか? それを知りたい」


 姫が首を傾げる。


「それはアザゼル、今はジンだったかしら。そのことと関係しているの? でも、私にも人間が原因だとは分からないわ。この世界には争いが絶えないもの。人間と魔族。人間と魔獣。妖精、果ては神まで。確かに人間の数が一番多いかもしれないけど」


「人質って言ったけど、それは一国が強い状態? それとも争いは起きている?」


 言葉を選んでいられない。それはマールを傷つけるかもしれなかったが、リーンはあえて質問を続けた。


「帝国と戦っている国々と、帝国に逆らえない土地の国があると言うことよ。私の国は後者」


「ありがとう。マール」


 ラティナがリーンに代わってお礼の言葉を口にした。帝国。そこに暮らす人々もまた争いを望んでいるのだろうか? 確かめないと、ラティナはそう思った。


「今日はここまでかしら。また来てね、来月までは私はここに居るから」


 どこか寂しそうに姫がラティナ達を送り出す。用意されている部屋へ三人は無言で戻っていった。ラティナだけではなく、リーンもラーサも考えたいことが出来たのかもしれない。





 部屋の中は温かい。ラティナがベッドで横になる。横を向いてリーンの方を眺める。


「リーン、起きてる?」


 目を瞑っていたリーンがラティナの方を向いた。そして目を開ける。


「起きているわよ」


「帝国へ行こう。マールと一緒に」


 ラティナが呟くと、がばっとラーサもベッドの上で半身を起こした。


「そうだよな。わたしもそう思ってた」


 リーンが微笑む。みんな同じことを考えていたようだった。話がまとまる。


「明日、マールに聞いてみよう」


 夜が更けるのは早い。ラティナ達はゆったりとしたベッドで眠りについた。





 翌朝、朝食をラティナ達が食べる。食事の時間は三人にとって大事な時間だった。生きていることを実感出来るそんなひと時。心が休まる一時だ。


「キノコや木の実もいいけど、人間の食事も、うむ……うん、美味しいね」


 ラティナが口をもぐもぐさせながら語り掛ける。


「残すのがもったいないけど、こればっかりはしょうがないかな」


 リーンがパンをちぎりながら一欠けら口に運ぶ。


「わたしは食えればそれでいい。うん、うむうむ、うん。リーンが言う様に残すのがちょっともったいないな」


 摂取する量は少なくとも体に見合う量しか口には入れられない。それでも美味しくスープを飲み。パンをかじった。


 食後にマールと会話が出来るようレディウスが取り計らっていた。最近姫に笑顔が戻ったのがラティナ達のお陰だと認められてきたらしい。





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