マーガレット姫と妖精

 城の中を歩きながらラティナは青年の様子を見ていた。動きに隙があまりない。戦いなれているのかもしれない。すれ違う衛兵達が頭を下げて通り過ぎて行く。


「ここだ。出来れば、楽しい話をしてやってくれ」


「?」


 一瞬彼が何を言っているのかラティナには分からなかった。それはリーンやラーサも同じだったようで、きょとんとしながら扉を潜る。


 暗い顔をした姫がそこには居た。金色の髪を後ろで束ね、青い瞳に憂いを湛えている。綺麗なドレスに身を包んだ十六歳位の姫だった。


 三人を見てぱーっと顔色が明るく変わる。


「よく来てくれました。ありがとう」


 にこにこしていてさっきまで沈んでいた様には見えなかった。


「レディウス。あたなはもういいわ。この方々と私だけにして」


 レディウスと呼ばれた青年が一礼して扉の外へと退出した。姫はリーンに駆け寄り、その手を握りしめる。


「リーン、会いたかった」


「姫、さんでいいのよね」


 悪戯っ子のように微笑んで彼女が笑う。


「あ、まだ名乗っていなかったわね。私はマーガレット。マールと呼んでくださいな」


「姫? マーガレット?」


 まだ人間の事に関してはラティナとリーンは学んでいない。だから姫が名前だと思っていた。


「姫は生まれ、役職みたいなもので名前ではないぞ。それから国はわたし達で言う里みたいな物だ」


 ラーサがラティナの肩をつついて教えてくれる。二人が思わずラーサとマールを見比べていた。


「姫と言う単語を知らない? やっぱり面白いわね、あなた達」


「じゃあマール。私達の話をするね。私達がどうしてここに辿り着いたか? その代わり教えてほしい事があるの」


 リーンがしっかり聞きたいことを聞けるようにマールと約束を交わした。


「いいですわ。姫に二言はありません」


 楽しそうなマールを前にしてラティナ達は話し始めたのだった。





 生まれ育った里のこと。アートナとの出会い。ダークピクシーとの戦いのこと。ラーサが仲間に加わった時のこと。そしてダークピクシーをピクシーへと戻す話。それは一日では終わらず、一週間に渡った。ずっと一緒に居られた訳ではないが、彼女は真摯に対応してくれた。一日に合える時間は限られていて、それは姫でもどうにも出来ない事柄らしかった。





 全てを聞き終えたマールがリーンとラティナとラーサを順繰りに眺める。


「いいな、私もピクシーに生まれたかったわ」


 その言葉に、苦笑いをしてラティナは口をつぐむ。


 姫は続けて、

「ピクシーって思ったより大きいのですね。まさか人間大だとは思いませんでした」

 思ったことをそのまま口にしていた。


「わたしから行くか」


 ラーサが変化を解く。人の掌程の大きさになる。


「まあ」


 姫が両手で口を押える。ラーサを見て、マールは好奇心を抑えられなくなったのか? ラーサを手の上に乗せてまじまじと見つめた。ラティナも変化を解く。そしてリーンも元の姿へと戻ったのだった。




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