ラーサの過去

「これを飲ませなさい。そのうち目を覚ますはずだ」


「ありがとう」


 リーンの顔が明るくなる。瓶に入った液体をラティナとラーサの口に傾ける。


 魔力が尽きるのも無理もない。かたやアートナの力を振るい続け、かたや荒ぶる魔人と言われたジンの力を行使してきたのだから。


「姫様。この者達の治療も終わりました。行きましょうか」


 姫と青年にフードの男が先を促す。しかし、姫はリーン達三人に興味があったのか、リーンに手招きをしていた。


「ありがとうございます。私はリーン。あの子達はラティナとラーサ」


 姫の側へ行ったリーンが頭を下げる。姫はと言うと、三人の出で立ちに興味深々でじろじろと頭から足先まで見ていたのだった。


「珍しい服装。どこから来られたの? どこへ行くつもり?」


 矢継ぎ早に姫はまくし立てた。困った顔をしてリーンが頭をかく。


「もしよろしかったら私達と来ない? 旅の話を聞きたいわ」


「姫っ! どこの馬の骨とも知れぬ輩を」


 青年が再び姫を制止する。


 姫と呼ばれた少女は顔をぷーっと膨らませた。よほど退屈していたのだろう。


「じゃあもし私の城下町に来たら城に顔を出してね」


「姫!」


 このくらい良いでしょ、と文句を言って姫が馬車へと消えた。再び一行が動き出す。


 リーンはラティナ達を見ながらここで一夜を明かした。






ラーサ視点


「人間の町」


 街路樹が立ち並び、道にそって露店が軒を連ねる。穏やかな時間の中、人々がゆったりと行き交っていた。


 平和そうな町に三人が降り立つ。リーン達が人間へと変化する。見た目はそのままで体の大きさを変える。基礎的な変化だ。


 通りを歩くラーサにラティナが呟く。


「うーん、人間が悪って感じはしないね」


 不承不承ラーサが頷く。


「うう。でも、ここがおかしいだけかもしれない」


「でも助けてくれたのは人間だよ」


 リーンの言葉に一度はその目で見て来たからか、ラーサは信じられない気持ちが大きかった。


「ラーサの見た人間ってどうだったの?」


「あれは……

――〈昔、人間に捕らえられた事がある〉


 人間に捕まった時、ラーサはまだ普通のピクシーだった。薬草を摘んでいる処をいきなり捕まえられ、片羽がむしり取られた。


「痛いっ」


「だまれ」


 苦痛を訴えても無駄だった。握り潰されるかと思った。鳥かごに入れられて、好奇の目に晒された。


「出して、お願い」


 里を出て薬草を取りに行った。それだけだったのに人間に出会ってしまった。何も疑わず人間が近づいて来ても危機感を抱かなかった。その結果、人間に捕まえられた。


〈後悔した。何も知らないままだったこと。薬草を一人で取りに行ったこと。知らない人間を警戒しなかったこと。誰もが善人だと錯覚していたことを〉




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