くちづけ(絆)
リーン視点
飛翔していたラーサが突然空から落ちた。追っていたダークピクシー達も同様に墜落していく。リーンはドラゴンの姿のままラーサの落下先へと飛び上がる。
「すまない。助かった」
竜の背中に落ちたラーサが自身を見下ろしていた。黒い精霊文字が消えている。
「やったのか」
アザゼルの居た塔が崩れ落ちる。リーンが竜の姿からピクシーへと戻っていた。
崩れた塔からジンとラティナの姿が現れた。一瞥しただけで誰が味方で誰が邪魔をする者なのかを見切ったらしい。ジンがリーンとラーサの元へと飛んでくる。
「娘よ。我と契約してあの娘を止めよ」
ラティナが暴れるのをジンすら制止出来なかったのだろう。
ラティナが片手を上げる。風の猛威がラティナの手の方向へと集中していく。
家が消し飛ぶ。瓦礫が舞い上がり、その場にいた者達へ降り掛かった。ラティナの瞳が黒く染まっていた。廻りで悲鳴があがる。
「ジン様、ありがとうございます」
ラーサが歌う。契約の歌を。ジンの体が輝いた。ラーサの体も輝きに覆われる。それがおさまるとジンの姿は見えなくなっていた。ジンとラーサの契約はこうして交わされたのだった。
その間にもラティナの暴走は止まらなかった。形ある物、家や牢屋などが粉微塵に吹き飛び瓦礫が舞う。
「ラティナっ!」「ラティナ」
リーンの叫びが、ラーサの声が届かない。
「リーン。わたしが囮になる。ラティナに呼び掛けろっ!」
ラーサが地面を駆ける。アートナの領域を警戒したため無暗に飛ぶことは出来ない。ラティナの手の方向へと領域は展開されているらしい。多くの元ダークピクシー達が走って逃げ惑う。ピクシーに戻ったせいで、シルフと再契約していない彼女達には飛んで逃げることすら出来ない。
「うん」
そしてリーンもラティナに向かって駆け始めた。
ラーサからジンの力によって衝撃波が瓦礫に注がれる。アートナの領域はラティナが手を動かした方向へ向かう。お陰で領域に邪魔されず振ってくる瓦礫を排除できていた。
ラティナの瞳がラティナへと駆けてくるラーサへと向けられた。ラティナが手をかざす。咄嗟に避けたラーサの脇の地面が風圧で抉れる。冷や汗を流しながらもラーサは動き廻った。
リーンはラティナの背後へ木々に隠れて廻り込む。そこから上空へと、ラティナの元へと飛び上がる。
「がああぁぁあっ!」
「ラティナ。ラティナっ!」
羽交い絞めでラティナの背中に組み付いたリーンが必死に呼び掛ける。
暴れるラティナに振り落とされない様にリーンは前へと廻っていく。リーンが邪魔をして、ラティナは羽を動かせない。ラティナとリーンが落ちていく。地面が近い。シルフの助けだけでは人を抱えてリーンは飛べなかった。
地面へ激突する寸前、ラーサが放った風が一瞬だけ二人を包み込む。領域に消された風は地面へ衝突するのを防いでくれていた。
「ラティナ」
眼前に廻ったリーンがラティナにくちづけをする。黒く染まった瞳を見開いてラティナが暴れるのをやめた。リーンの顔形だけは忘れなかったらしい。掌を向けようとしてがっと自身を抑え込んでいた。
口から瘴気、悪意がリーンにも流れ込む。
「くっ」
嫌な事ばかりが浮かんでくる。物心つく頃には母親がいなかったこと。ラティナの母が死んでしまった時のこと。段々落ち着いて来たラティナの前で、リーンもまた悶え苦しんだ。全てを吸い取ることは出来ず、二人の中で悪意が拡散されていく。
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