アザゼル

 ラティナ視点。


 三日目の朝。ラティナは住居を眺めていた。


「なんだろう? あれ?」


 大木が宙を移動していた。枝や葉が強風に煽られて激しく動いている。宙に浮くほどの風の圧力が大木にかかっていた。どーんと大きな音を立てて一つの家にその大木が激突する。


「もしかして、合図?」


 上空へ高速でダークピクシーの一人が飛びながら逃げ出した。それを追ってダークピクシー達が宙を舞う。大きく円を描くように上空に行っては下降を繰り返す。風の魔法が飛び交い。逃げるラーサが左右へと避けていく。


 拠点の中ではウインドドラゴンが超音波のブレスを吐いて自身に迫ってくるダークピクシーをけん制していた。建物から次々とダークピクシーが姿をあらわす。パニックになったダークピクシー達の中で、ドラゴンを守ろうとするダークピクシーが複数人いるようだった。ダークピクシー同士で切り合いが起きる。竜に切りかかるダークピクシーにダガーを投げつける者達までいる。周囲が混戦状態になっていく。


 ダークピクシーの数が多い。流石に本拠地だった。


 リーンの側が劣勢なのが見て取れる。それでもまだ全員出て来た訳ではないのが幸いだった。


「行かないと」


 音速を超えてラティナが飛ぶ。


 アザゼルの封印されている塔へと一直線にラティナは飛び込んでいった。ラティナの翔けた後をソニックブームが巻き起こる。


 塔の見張りについているダークピクシー二人がラティナに気づいた。すぐさま呪文の詠唱にうつったが、間に合わないと知ってダガーを抜いた。


 ラティナの速度が異常に速い事に驚く。気づいてから数舜で一人がラティナの体当たりを食らって弾き飛ばされていた。ラティナに向けようとしていたダガーが落ちて転がっていく。


「このっ!」


 もう一人がダガーでラティナを切り裂こうとする。しかし、ラティナの手から発せられた風にのみ込まれ吹き飛ばされた。


「う、ぐ」


 二人はそのまま気を失って倒れ伏す。


 以前のままならラティナは苦戦していただろう。今はアートナの力を少しは行使出来るようになっていた。だから、二人相手程度では負けたりなどしなかった。


 塔の入り口にラティナが手をかざす。手から発生した高圧の風が大きなドアを吹き飛ばした。





 塔内に窓から取り込んだ光が差している。恐る恐るラティナは一歩を踏み出した。


「これがアザゼル」


 漆黒の鎖に繋がれて、ドラゴン程ではないが巨体のアザゼルがラティナを凝視していた。


「かわいそう」


 闇に落ちたジン。言葉を発することも出来ない巨体はただ力を引き出すための道具に成り下がっていた。


 縛られているのは正気を失っているからだろう。飛びながら近づいて、アザゼルの胸にラティナが手を触れる。


 唸り声をあげ、鎖を引きちぎろうと力を籠めるアザゼルにラティナがぽつりと、

「今、解放してあげる」

 と呟いた。


 そして、その手をアザゼルへと向けたのだった。


 高圧の風がアザゼルを縛っている鎖に押し寄せる。びくともしない鎖を見てラティナはどうしようか数舜迷った。


 ラティナが歌をうたう。親指にダガーを突き刺し横へと血を滴らせた。


「なにようだ」


 アートナが顕現する。


「アザゼルを正気にさせるにはどうしたらいい?」


 とぐろを巻いた風が少し考える素振りを見せた。


「瘴気を取り除け。お前には悪意と言った方が伝わるか?」


「ありがとう、アートナ」


 ラティナがアザゼルの体を触る。ジンは元々風の精霊だ。なら風で瘴気を自身に吸い込めばいいのだろう。





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