決行前の……。

 リーン視点


 ラティナと別れた後、リーンはラーサを探した。拠点の中央で中をよく観察する。


「ああ、やっぱり」


 ラーサの行動はリーンの思った通りすぐに把握された様だった。ラーサが四人のダークピクシーに連れられていく。


 そっと後を付けて牢屋の位置を把握した。





 その後リーンは一日を使って誰がラーサの噂を話すか見ていた。いきなり噂をばらまくのは危険すぎる。ラーサに先に行って貰った成果は十分すぎるくらいあったと言える。


 噂をしている一人にリーンが近づく。


「ねえ、そこのあなた」


「なに?」


「今の話、詳しく聞かせてくれない?」


 相手の言う噂をリーンが頷きながら聞いていく。


 そして、

「私の聞いた話とは少し違うわね」

 と、ぽつりと呟いた。相手が食いついてくる。


「どこが違うの?」


「私の聞いた話だとドラゴンが皆をピクシーに戻してくれるって話だった。もうすぐ現れるから邪魔をしないようにって」


「そうなんだ」


 興味津々で聞いていたダークピクシーが離れていく。



 噂が独り歩きしないようにリーンがそのつど修正していく。ラーサの事も気がかりだった。今牢屋に近づくことは共倒れになる可能性がある為出来ない。


 決行は一日後。リーンが出来ることは決行前にラーサを救助すること。門番の交代の時間を把握すること。




 それぞれの夜が明ける。




 リーンが交代するはずの門番の後ろに現れた。気づかず歩く門番に、片手で触れて変化の魔法を発動させた。


「強制変化」


 必死に抵抗してくる相手の背を取り続け、変化が完成するまで抑え込む。相手の手足がぶくぶくと膨れ上がる。


「うー」


 相手をボールのような物体に変化させて木の後ろへと隠した。図書館で見つけた変化魔法の奥義の一つ。本来変化は自身の体を変化させる。相手に魔力を流し、思い通りの姿へと強制的に変化させるのが強制変化だった。数時間は元には戻れないだろう。使えるのは不意打ちが出来る状況下だけ。一度見られたら二度目は通用しない魔法だった。


 牢屋へとリーンが歩いていく。


「交代の時間よ」


「あ、ああ、わかった」


 嬉しそうにダークピクシーが酒場の方へと歩きだす。貰った鍵束を誰もいなくなってからドアに使った。





 リーンが牢屋内を歩いていく。牢に囚われているダークピクシー達に目を向ける。突き当たりまで歩いて、ラーサの居場所にたどり着いた。


「ラーサ」


「誰? だ」


 少し衰弱しているのかラーサの口調が重い。


「リーンよ。今出すから」


「ああ、ありがとう。すまなかった」


 ラーサはすぐに捕まったことを恥じているようだった。


「廻りの奴らも出してやってくれ」


「分かった」


 リーンが牢屋を開け放っていく。


「ありがとう。噂を話しただけで勾留なんて冗談じゃないわ」「ほんとう。やってられない」「あー、お腹へったぁ」「見てろよ、あいつら」


 口々にすきな事を言ってダークピクシー達が脱出していく。最後に残ったラーサとリーンが頷きあった。


「あなたが居たから噂をスムーズに広げられたわ。後は決行するだけ」


「そうか。ここを出たらデカいのを一発本部に食らわせてやる。それを合図にしよう」


 牢屋を出る。ふらつくラーサの姿を見て、リーンが心配する。でももう後はやるしかない。もしやらなかったら二度と同じ手は使えないだろう。


 前を向いてリーン達は二手に分かれた。




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