捕まる事を恐れず


 ラティナ達はすぐさま行動に移った。廃墟からそう遠くない位置にダークピクシーの住処があった。だからこそラーサは廃墟へと足を運べたのだと思う。


 森林が続く。森の中を飛んでいる三人は誰にも見つからない様に森より高く飛ぶことはしなかった。


 本拠地がある森で三人は地面へと降りたった。ラーサがラティナ達に隠れている様に言う。


「今から三日くらい時間をくれ。わたしが噂をばらまいてくる」


「任せていいの?」


 心配そうにリーンが顔を曇らせた。ラティナもラーサ一人に全てを背負わせるのが心苦しかった。


「他に出来る人材がいない。わたしがやるしか」


 じっとラーサがラティナを見つめる。


「捕まるだろうが、後で助けに来てくれるか?」


「まかせて」


 リーンが頷いた。


 一旦言葉を切ってラーサがある一点を指さした。


「あの塔がアザゼルの封印されている場所だ。事が起こったらラティナ、あそこまで突っ切れ」


 そう言ってラーサは笑顔をラティナ達に向けたのだった。ラーサがダークピクシーの住処へと入っていく。そして姿が見えなくなった。


「ラティナ」


 ラーサを目で追っていたリーンの体が変化する。肌の表面が黒い文字で覆われたダークピクシーの姿へと変わっていた。


「私も行ってくる」


「あたしは?」


 リーンが微笑む。ラティナの肩に手を置いて諭す様に語った。


「聞いてラティナ。この作戦の要はあなたなの。あなたにはあなたにしか出来ない事をする。その為のサポートが私達。アザゼルを全て任せてしまう事になる。だからね。それまでは耐えて。何があっても。この住処の廻りで待っていて」


 リーンが歩み去る。ラーサに言わなかったのは、知らせない事がいい時もあるからかもしれない。ラティナは二人が無事である事を祈るだけだった。






 ラーサ視点。


 怪しまれない様に堂々とラーサが歩く。ダークピクシー達にピクシーに戻れるかもしれない、と吹聴する。捕まることを考えると簡単な様でいて難しい。


 率先してダークピクシーになった者なら受け付けないだろうが、いやいやダークピクシーになった者達ならその言葉に乗るかもしれない。話を大きくする事こそラーサ達が思い描いたものだった。


 慰問の意味を込めてここには酒場があった。そこへ向かう。見咎められないのはまだラーサが裏切ったと言う噂を知らないからかもしれない。


 酒場の戸を開く。飲んでいるダークピクシー達を後目にラーサはカウンターへと座った。


「果実酒」


 店主に飲み物を頼むとラーサは隣に座って飲んでいたダークピクシーに声をかけた。


「おい、聞いたか?」


「何を?」


 彼女が不審げにラーサを見つめた。


「ピクシーに戻れるかもしれないって話だ。上層部がその話を握りつぶそうとしているらしい」


 彼女はいやいや来た者だったのか、その話を興味深く聞いていた。廻りも聞き耳を立ててたようで数瞬で酒場はその話題でもちきりになった。ラーサがほくそ笑む。ここに居る者だけで十人くらい。後は噂が広まるまで吹聴し続けるだけ。




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