ラーサとダークピクシー
「ラーサ。わたしの名だ」
「ラティナ」
ラーサにラティナが応えた。彼女がゆっくりと話しだす。
「そうだな。まずは我らの目的からかな」
遠い目をして彼女が話す。
「なぜ強大な力を持つジンが闇に落ちたのか? お前には分かるか」
「そんなこと」
分かる訳ないと返そうとしてラティナが口を閉ざす。
「この世界の風に乗る悪意に染まったからだ。人間の争い。騙し、堕とし、利益の為には同族をも殺す。その悪意に」
ラティナが言葉を飲み込む。
「人間が一部の悪魔を生んでいる。この世界の悪の大半は人間が関わっているんだ」
人間、ラティナの中の人間は未知の存在で、ラーサの言う人間像があっているか分からない。
「我らはそんなジン、いや、アザゼルと共に世界の為に人間を滅ぼそうと思っている」
「待って。それじゃあ人間が居ないと子供を作れないあたし達ピクシーは」
「とうぜん滅びる。だから仲間を増やす為に同族を生贄にすることは必要な悪だった」
「そんな」
「ダークピクシーの数はまだ多いとは言えない。だから数を増やさねばならないんだ」
ラティナがある事に気づく。大きな矛盾がそこには横たわっていた。
「それだったらなんで人間と同じように振舞うの? 言ったよね、争い、堕とし、利益の為に同族を殺す。それってラーサの言う人間そのものじゃないの」
ラティナの勢いにラーサがたじろいだ。
「それは……」
不意にラーサに向けて風の刃が迸った。手を前に向けてラーサが応じる。アザゼルの力で展開した風が刃を打ち払っていた。
「ラティナから離れなさい!」
前方にウインドドラゴンがいた。銀の鱗を纏い、翼を生やした二足歩行のドラゴンが図書館の前にこつぜんと出現していたのだった。大きい。
ラーサの両手が腰のダガーにかけられる。ドラゴンのブレスが超音波となってラーサへと向かう。
「風よ、敵を薙ぎ払い、食い破れ」
ラーサはアザゼルの力で起こした竜巻をドラゴンへと放つ。しかし、竜巻は超音波に断裁されていく。
「やめてっ!」
ラティナが両者の中間に飛び出して両腕を広げた。丁度二人を分かつようにアートナの力が展開された。
超音波とラーサの風が掻き消える。
「ラティナ」
ドラゴンの姿が消えていく。その中からリーンが現れていた。
「ラティナの仲間か。とんでもないなお前達」
自嘲したようにラーサがダガーを腰に収めた。リーンもラティナの様子から戦う相手ではないことを理解したのかもしれない。
「ダークピクシーがラティナに何の用?」
リーンがラーサを睨みつける。
そんな時、
「ラーサっ! 敵と何をっ!」
ラーサの後方にもう一人、ダークピクシーが現れていた。ラーサを心配して追って来たのかもしれない。しかし、両手に持つダガーはラティナを見て怒りに震えていた。ラーサが答える間もなく、ダークピクシーの手からダガーが投げつけられる。
ラーサが目を見開いて両手を広げた。口を開きかけたまま、前方へと倒れ伏す。背中にはダガーが深々と突き刺さっていた。
「この! 裏切者っ!」
ラーサを憎々し気に睨みつけダークピクシーは踵を返したのだった。
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