変化魔法 (幕間の3)

 二人が飛ぶ。今迄行ったことの無い故郷より北西へと。風の妖精と呼ばれるだけあって、ピクシーは自然を好む傾向にある。だからか羽を休める時は森や林の傍が多い。食料が気軽に取れる事も大きいかもしれない。


「って言うか、楽だからかな。水に濡れる事もないしね」


 リーンがこちらへウインクしながら横になる。疲れたあと言いたげに。


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リーン視点



 うっそうと茂る木々の中、リーンの声が辺りに響いていた。今日も道すがら今迄遅れていた学力を取り戻そうとラティナにリーンが指導していた。


「良い? 変化の基本は魔力を全身に行きわたらせる事。頭に思い浮かべた姿を魔力で構築していくの。こんなふうに」


 リーンが人間大へと姿を変化させる。羽は大きくなる過程で体の中へと消えていく。リーンの頭に木の枝があたっていた。片手で掻き分け、枝のない空間へと移動する。


「元の体とほぼ同じ姿で大きさだけ変える。姿形を変えなくてもいい。だから初歩の初歩。いい? 羽だけは体に入れてね」


「うん、リーン」


 応えたラティナを爪先でこつんと小突いた。


「今は、せ・ん・せ・い」


 頭を押さえながらラティナが追従する。


「あい、先生」


 念を集中させて魔力を体に巡らせ始める。指先から。手からみるみる毛が生えて柔らかそうな猫の手になっていく。苦笑いを浮かべてラティナがリーンを振り返る。


 アートナを制御しようとした時は力技で魔力をふるっていた。逆に繊細な魔力操作を必要とする変化魔法はラティナには難しいのかもしれない。


 こつんと額を小突いて、

「大きくなるの」

 こうよこうとばかりにリーンが全身を少しずつ縮めていった。そして元の大きさへと戻っていく。


「こ、こうっと……うぐ」


「なんで他の生き物へ変化出来るのに大きくなれないの?」


 見ている先で変な生き物へと化し、のたうつラティナがいた。やれやれと言う顔をしながら両肩を落とし、ため息を吐く。


「元に……戻して」


 泣きそうな顔をしてラティナがうねる。しょうがないな、とばかりにリーンがその肩に手を置くと魔力を自身の魔力で中和していった。


「元にもどりたかったら、体に流す魔力を操作する事」


「あい」


 と体のあちこちを擦りながらラティナは頷くのだった。





 それからが特訓だ。


 魔力を使うと精神に体力も削られる。日にそれほど多くは出来なかったが、九日も過ぎた辺りでようやくラティナの体が少し大きくなった。


「やれば出来るじゃない」


「えへへ」


 思わず笑みがこぼれている。


 大きくなりながら頭と体が膨れ上がる。腕と足がまるでデフォルメされた二頭身の人形の様に形成されていった。


「出来たあっ!」


一瞬期待したリーンががっくりうなだれる。そして、ラティナは今日も頭を小突かれたのだった。


 そんな時、

「あはははははは。あ、あひゃ、あひ」

 茂っている木の枝の上から声が降って来る。それは静かな森の中で響き渡った。


「誰っ!」


 ルルと出会って以来、出会いらしい出会いはしてこなかった。墜落してくるピクシーを助ける事は何度かあるにはあったが。


 ここは故郷でもない。誰がいてもおかしくない場所だ。


「あ、あ、はは、ご、ごめん笑って。あんまり可笑しかったから」


 見ると一人のピクシーが飛んで降りて来ていた。武器になりそうな物もない。いや、武器をもっているピクシーの方が珍しいのだ。


「変化も出来ないのになんで里を出てるの?」


 素朴な疑問だった。


 どの里でもそうなのだろう。変化の基礎を覚えるのは。


 ピクシーはやがて人と交わり子をなして里に戻る。変化なくして子孫を残す術はない。里を出ると言う事はそう言う事なのだ。


 ふと彼女を見つめる二人の様子を見て、まだ名乗っていなかった事に気づいたらしい。


「私はニーナ。よろしくね」


 少しふくれていたリーンがやっと警戒を解いた。後ろ手につるしていたダガーから手を放す。


「私はリーン。こっちはラティナ」




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