一緒に飛べた日
「制御とは何をもってなのか。それを聞かないと答えられぬな」
間髪入れずにラティナが応える。
「同じピクシーを、いえ、飛べる物を飛べる様に。それと、風を動かしたい。好きなように」
黙り込むアートナ。それは難しい事なのだろう。
「我を行使するのは簡単だ。強く思えばいい。だが、認めていない物を我の領域で好きにさせるのは」
そう言うとアートナが無散した。
もう一度ラティナが歌を唄う。そして指先をさっきより深く傷つけた。
焦っているのかもしれない。これだけは訊いて貰わなければならないのだから。
「なんだ」
ぶっきらぼうな言い方は少し怒っている様だった。ラティナが願いの方向性を少しだけ変える。先ほどの発言の中の領域と言う単語を聞いたからかもしれない。
「じゃあ、領域を狭める事は出来るの? 広げる事も?」
ほう、と感嘆の息を吐き、アートナが、風の渦が身じろぎする。
「それならば我を使う時と同じだ。強く頭に思い浮かべよ。領域の範囲を」
「ありがとう」
満面の笑みでラティナが微笑む。アートナは既に用がなくなったと認識して消えていった。
「飛べるよ。リーン」
「指を見せて」
飛ぶ事よりも先にラティナの指に薬を塗り始めた。持ってきていた包帯を短く切るとそれをラティナの指先に巻いていた。
ラティナが瞳を閉ざす。
ラティナの思念に風が共鳴を起こす。
今迄とは違う空気の流れが感じられる。ラティナが頷くのをリーンが確認していた。
そしてリーンはゆっくりと羽ばたいたのだった。体がシルフの助けを借りて浮かび上がる。
「やった……」
アートナの領域は力を抜いた後でも維持されているのか、リーンが墜落する事はなかった。
羽ばたくラティナがリーンの横に並ぶ。前方から気持ちいい感触が肌を撫でる。ようやく二人は共に空を翔けた。
手を繋いで飛ぶラティナとリーンが笑っている。嬉しくて。そう、凄く楽しくて。
上空まで行き急降下。螺旋を描き、宙を舞う。
「ラティナ。ラティナ」
感極まったのかリーンの口からそれ以上の言葉は出てこなかった。
顔を見合わせて笑う。最後はそっと地面の上を滑空して再び森の中に降り立ったのだった。荷物がまだここに残されているから。
ようやくここから二人の、旅と言える旅は始まったのだった。
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本当に楽しかった。この時よね、私とラティナが本当に対等の存在になれたのは。続き? もうちょっと待ってね。思い出しながら書いてるから。
とリーンは日記を閉じてこちらへとウインクするのだった。
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