アートナ (幕間の2)

 これは二人のピクシーの物語。


 風そのものであるアートナの力を得た結果。ラティナの周りでは風に関する力が本人以外働かなくなった。魔力で抑え込もうとしてもその力は強大で、成す術もなかったのだ。


「ここ大事よ。試験に出るかも」


 こちらを向いてリーンがウインクする。そして、にこやかに手を振った。


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リーン視点


「きゃあああっ!」


 突然、空を飛んでいたピクシーが墜落する。今日はなぜか多かった。これで二回目だ。羽ばたく羽のせいで落ちてくる軌道が読めない。それでも高速でラティナが彼女の体を捕まえ、地面へと下ろした。


 どうやら特訓の成果は出なかったらしい。


 ここは深い森の中だ。動物はおろか妖精でさえ、滅多にこの場所には来ない。食い荒らさていない木の実やキノコがその証拠だった。


 動揺していた彼女が一息つく。「ありがとう」と、お辞儀をして歩いて去っていく。心苦しくも二人は見送るしかなかった。





 夕飯を食べている時。


「ねえラティナ」


 ふとリーンが何かを思い付いたのか顔を輝かせた。


「ほえっ」


 食べかけのキノコを飲み込みラティナが振り返る。


「アートナに呼びかけられないの?」


 今迄思いつかなかったのが不思議なくらい、リーンの疑問は的を射ていた。契約をして、常にその力は働いている。ならばアートナは常にラティナの傍にいるはずだった。


「やってみる」


 立ち上がり、ラティナが歌を唄う。契約の歌を。森から風が流入し。渦となり。とぐろとなってわだかまる。


 何かを欲する様に風が手を伸ばす。契約しているラティナだけにはそれが見えているようだった。あの時は体から血が流れていたとリーンは聞いている。それも重要なファクターだったのだろう。


 ダークピクシーが回収し忘れたダガーを、ラティナは腰につった急ごしらえの鞘から引き抜く。そして思うまま指先に滑らせた。


 滴る雫が風の中へと渦巻いた。


「な、に、ようだ」


 普段は言葉を発っしないのか? 片言で声が響く。


「あたしはあなたの力を制御できなかった。どうしたら出来るの?」


「そう、か。考えてもいなかったぞ。前の娘は飛べるだけで幸せだった様だからな」


 ひと時の間は試案する時間だったのかもしれない。続けて話すアートナとラティナをリーンが静かに見守っている。




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