ダークピクシー
ラティナサイド
昨夜は暗くてラティナはダークピクシーを見つける事が出来なかった。夜中の間じゅう飛び回って考えたのは、どこかで夜が明けるのを待っているだろうと言う事だった。すくなくとも昨夜は里へ向かっていないと思うと、安堵と焦りがうまれる。
(早く、見つけないと)
朝の光の中、ラティナが飛ぶ。そして、ようやく探していた者達を見つけたのだった。眼下に広がる森の、木々の下からの悲鳴を聞いて。
彼女達から少し離れた場所に、ゆっくりとラティナは降下する。
「何者だ!」
もう朝だと言うのに森の中は薄暗く静かだった。彼女達の一人があげた声が響く。明らかに墜落したと言う事実に動揺していた。五対の目線がラティナに集中する。
普通のピクシーとほとんど変わらない。だが、決定的に違うのは服から出ている素肌だ。その全てに黒い精霊文字と思えるものがびっしりと浮き出ていた。薄暗い中では、彼女達は見えにくい。
「ふっ、何かと思えば。お前も落ちてきたのか?」
ラティナは答えない。両足が微かに震えている。怖がっている事を見抜いたのか、彼女達にありありと嘲笑が浮かびあがっていた。
「ここから帰って!」
話し合いでなんとかなると思った訳ではないが、口からそんな言葉が出ていた。思いが通じてほしいと願いながら。
リーダーとおぼしきダークピクシーが一歩前に出る。その右手が動いていた。他の四人はそれを視認して、ラティナの周りを少しずつ、ラティナに気取られない様展開していった。
「なぜ我らがピクシーの里を襲うか、分かるか?」
「……」
言葉は、全員が配置につくまでの時間かせぎか。ラティナは気づかない。
相手の事を知る為にも耳を傾けたのだ。
「我々も元はピクシーだ。だが、アザゼルの力を得るには同族の血が必要なのだ。里を襲い。その中で我々についてくる者に同族を殺させる。そうしなければ、我々は仲間を増やせない」
(同族の血!)
ここではっきりとラティナは、彼女達はやはり敵なのだと悟った。優しいリーンが仲間を傷つけられるはずがない。だが、まだ、体の震えは治まらない。未知という恐怖が体を縛っていた。
「我々とて、好きでやっている訳ではないのだ。理想の実現の為にはやむを得ない」
少しずつ、体に力がはいる。決して怯えは拭えていなかったが。意志がそれを可能にした。守るのだと言う強い思いが。
「悪いようにはしない。我々と共にくるか?」
一拍おいて彼女が言う。
「ここで死ぬか」
そして、彼女の手が止まった。ラティナもようやく周りを完全に包囲された事に気がついた。五人のダークピクシーが両手にダガーを引き抜く。
「答えは?」
「リーンを」
「?」
「殺させるものかー!」
不意にダークピクシーの一人が吹っ飛び前方に倒れこんだ。地面に伸びていた木の根に二振りのダガーを根本までめり込ませて。視界から突然消えた様に見えたラティナの体当たりが決まったのだ。ダークピクシーの頭上を、半円を描き飛翔したラティナの特攻で。
武器など持っていない。傷付ける事には抵抗がある。だが、この先へは絶対に行かせられないと言う気迫が相手を圧していく。
「ちっ! 散っ」
四人のダークピクシーが走り出す。アザゼルの圧倒的な力が使えない事と、空中とは勝手が違うせいで、多少とまどっている様にも伺える。
彼女達のはばたく音が周囲に満ちる。高速の戦い。
再びラティナが空中に上がり距離をとった。その体をダークピクシーの持つダガーがあぶなくかすめていく。
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