変転(ラティナ)

ラティナサイド


 硬質な物に軽い物があたる音を立てながら、ラティナの蹴った小石が屋根を転がり落ちていく。


 何気ない日々はあっという間に過ぎていった。この一ヶ月と言う時間はラティナに本当の孤独というものを教えるには十分な時間だった。


 リーンと二人でいた時は、砂漠でさえあれ程楽しかったのに。里の北、人の町に来たのに心にぽっかり穴が開いた様に、ただつまらなさだけが記憶に残る。


 視界の隅で人間達が行き来している。人々のたてる音がうるさく感じた。


「リーン」


 夕焼けが綺麗に空を染めていく。結界の中とは違って、秋と言う季節を感じられる外の世界は夜ともなるとかなり寒かった。


 里を出たあと砂漠に取りに戻ったリュックを体から外し、屋根に下ろした。ひんやりとしている屋根に背中をあずけ、ぼんやりと空を眺める。とその時、視界の端で悲鳴と共に落ちてくるピクシーの姿を見つけたのだった。体がとっさに反応する。


 必死にはばたかせる羽のせいで、彼女は螺旋を描く様に落下していた。一瞬の判断で落ちてくる軌道に回り込み、彼女を受け止める。少しの間もがく様に暴れる彼女がラティナの存在を認識してようやく落ち着いた。あと少し遅かったなら、地上に激突していただろう。


「あ、ありがとう」


 それが自分のせいだと知っているラティナには応える事が出来なかった。


「そうだ、急がないと」


 必死になってはばたく彼女が飛ぼうとしている。それをじっと見ていたラティナに、何かを思いついた様にふと目線を向けてきた。


「ねえ、あなた。お願い、飛べるんでしょ。この先には里があるのだけど。その里へ知らせてほしいの」


 その言葉にびくんと反応した。この先にあるのは故郷だから。どれだけ彷徨っても遠く離れた地へは行けなかった。


「何を、ですか」


 いやな予感がラティナの心をよぎる。


「ダークピクシーが里の方向に向かっているの。私は里の仕事で、このあたりを警戒していたんだけど」


「どの方角からっ?」


「えっ? あ、あっちだけど。今は」


 最後まで聞かずにラティナが飛び出す。一言だけ彼女に「あたしが離れれば飛べるから」とだけ伝えて。



                   ◆



 そしてそれぞれの夜が明け、新たなる一日が始まる。




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