リーンの思い

リーンサイド


(私、私は)


 幼い頃のあの子と私は、いつもあの子の母親にあまえていた。


(そう、あの頃はあの子の事なんてどうでもよかった。彼女にあまえたかっただけ。私には母がいなかったから)




 

 少し大きくなったあの子と私が、亡くなった母親の墓の前で泣いていた。何時間も、何時間も。


(この頃からだ。あの子の事を一人のピクシーとして見る様になったのは。もう私にはあの子しかいなかったから)





 あの子と私がいつもの様に遊んでいた。


(この長い二人だけの時間が私達の絆。楽しかった、とても)





 大きくなったあの子が家の中で一人、すすり泣いていた。 


(なにもしてあげられないのが嫌だった。だから、私は図書館の禁書が収められている所にも入った。あの子を泣かせたままなのは苦しかった)





 話も聞かず、あの子が授業中に初めて歌う。


(ああ、あの頃だったな。やっと私が、一人のピクシー・ストーリーを探しあてたのは。ルィーア・トゥワイス。トゥワイスはあの子と同じファミリィ・ネーム)





 あの子がいじめられていた。遅れて教室に戻った私が、彼女達を追い払った。


(そう、あの授業があったから、私は実行に移す事が出来たんだ。だけど、あの子にはナイショにした。私の身を案じて付いて来てくれないかもしれなかったから。





 様々な思い出が浮かんでは消えた。そして、今、まぶたに力がはいる。


「うん? こ、こは? エスナ様?」


「良かった。あなたは半月も寝ていたのよ、リーン」


「そっか。ラティナ、飛べたんだ」


 自分はここにいる。それがラティナの飛べた証だった。笑みがリーンの顔から溢れ出す。やっと、そう、やっと二人が同じくする願いが叶ったのだ。笑みが出てこないほうがどうかしている。


「まだ休んでなさい。いま、スープを温めるから」


「エスナ様」


「?」


「ラティナは?」


 エスナの表情が硬くなる。


「浮かれて外ではしゃいでいるのかな。ふふっ」


 沈黙しているエスナの前で、夢心地で話す速度は衰弱しているせいで遅かった。


「すみません。ラティナを呼んで来てもらえますか。私はもう大丈夫だって」


「リーン。よく聞いて」 


「はい?」






「それで、ラティナを追い出したんですか」


 予想も出来なかった。アートナの力にそんな影響があるとは。あの本には力を得て飛べる様になったくだりまでしか書かれてなかったのだ。


「ふざけないでよ」


 でてきた言葉は小さかった。くやしさだけがこみ上げてくる。


(やっと飛べたら、追放だなんて。そんなのある)


「一人にしてください」


「リー」


「出て行ってよ!」


 肩の痛みから、放った枕は上方にぶつかって壁の方へ転がっていった。


 悲しみに瞳を細めてリーンが放心する。これから何をすればいいのか見当もつかなかった。




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