第9話 身勝手さ
鳥飼は、自分の興味のあることだけを中心に話をするので、自分と趣味の合う人とはすぐに仲良くなれるが、相手の話を訊かなかったりするので、相手が歩み寄ってくれているとしてもそのことに気づかぬまま、相手を不快な思いにさせて。嫌われるということが多い。
「あいつは二重人格だ」
と言われることもあるが、正直そんなことはない。
逆に分かりやすいと言ってくれる人が多くて、
「味方が多いが、敵も多い」
と言われるだろう。
中間はあまりおらず、敵か味方に別れるという不思議なタイプであった。
さすがにどんなに味方がいたとしても、三割いればいい方だろう。そうなると敵が多いことになるが、鳥飼はそれでいいと思っている。
清水刑事と辰巳刑事が捜査した段階でも、、敵か味方にハッキリと別れる知り合いの話を訊いていると、辰巳刑事などは、
「俺に似たところがあるのかも知れないな」
と思うのだった。
勧善懲悪であるということは、誰よりも辰巳刑事が自分で分かっていた。何よりの勧善懲悪というのが、自分にしか分からない感覚で、分かりやすいとまわりが思っているとすれば間違いだと思っている。それでも、辰巳刑事は鳥飼という男を、
「分かりやすい男」
だと思っている。
勧善懲悪以外にも自分に似たところがあるのではないかと思うのだった。
鳥飼という男について聞かれた評判で共通しているのは。
「あいつは身勝手だからな」
ということであった。
自分が嫌だと思ったことは絶対にしようとはしない。完全に拒否している。
「でも、彼がわがままだっていうことではないんだよな」
と、皆が頭を傾げていたが、それは彼に何か一定の評価らしきものを持っているからなのかも知れない。
「でも、これって彼のことを知っている人間でないと及びもつかない思いなんじゃないかって思うのよ。女性だからこんな風に思うのかしら?」
と、一人の女性が言っていた。
彼女は、一時期、鳥飼と付き合ったことがあると言っていた。
「話もよく合って、一緒にいてこれほど気が合う人はいないと思っていたし、一番安心できる人だったんです」
と言っていた。
彼女になろうと思うのであれば、それくらいの感覚を持っていて当然であり、逆にそれくらいの感覚を持っていなければ、彼女になろうなどと思いもしないだろう。
「でもね、すぐにそれが勘違いだって思ったんです。それは分かったという感覚ではなく、思ったと言った方がいいんだと思うんですが、その理由は、きっとすべてを分かっていて付き合っていたんだと思うからなんです」
「というのは、別れるかも知れないという思いを最初から抱いていたということですか?」
「それに近い感覚だとは思うんですが、やはり違いますね。鳥飼さんが見ていたのは私だけではなかったんですよ。かといって、他に好きな人がいたというわけでもないようなんだけど、何とも言えない感覚ね」
と彼女は言った。
さらに彼女は続けた。きっと彼のことを思い出したのが、一瞬なので、思い出した間にいってしまわないと、自分でも、二度とこんな感覚を味わうことができないのを寂しがっているからのようにも見えた。
「彼が誰かと付き合っても、また同じ感覚に相手の女性は陥ると思うの。そして、きっとまた次の人もって感じるんでしょうね」
と、言った。
「そこまで分かっているというのもすごいっですよね」
「でもね。こうやって感じるでしょう? すぐに忘れてしまうのよ。下手をすれば。こうやって喋っているうちに、たった今何を考えていたのかということすら忘れてしまっているような感覚ね」
という。
「それは少し大げさな感覚に思えるけど、、話を訊いているか限りでは、ウソではないとは思えるんだよな」
と、辰巳刑事は言った。
「ただね、彼はいつも何かに悩んでいたの。ジレンマに陥っていたと思うんだけど、彼は悩んでいないと、彼ではないような気がしてくるんだけど、おかしな感覚よね」
「彼は何に悩んでいたんだろうね?」
「その時々で違っているとは思うんだけど、その悩みがどこから来るものなのか、私には分かりそうな気がするのよ。きっと、彼が悩んでいる姿を見ていると、私の中でそれが意識として残っているの。そしてきっとその日の夢に彼が出てきて、その結論を出してくれるように思うんだけど、目が覚めると覚えていないのよね。夢を見たという感覚はあるんだけど、それを思い出そうとすると、他のことを忘れてしまいそうで、怖いの。だから、夢から覚める時は、いつも気を落ち着かせるようにしながら、ゆっくりと目を覚ますことにすると、その時一瞬だけ幻を見るのよ」
「その幻というのは?」
「私が断崖絶壁の谷にかかっている吊り橋の上にいるのよ。どっちが前でどっちが後ろなのか分からない。どこから来てどこに行こうとしているのかが分からない。最初に見た前を見ると、鳥飼さんが、こちらを向いて手招きをしている。身体を捻らせるのが怖くて、そのまま首だけで反対側を見ると、そこにも彼が手招きをしているのよね。でも、明らかに違う彼なの。その時に、これが夢だって気付くんだけど、気付いた瞬間に、夢から覚めてしまうの。でも、そんな時に見た最後の場面だけは、目が覚めるにしたがって忘れていくということはないの。それが夢の続きだったのか分からないんだけど、私にこんな夢を見させる彼というのが、次第に怖くなっていって。最後に別れた原因はそんなところにあったんじゃないかって思うの」
と彼女が言った。
彼女の話は支離滅裂な感じを覚えたが、オカルト小説を読んでいるような感覚で聴いていると、実に斬新で、どうしてもウソには聞こえないのだ。
もちろん、そんなオカルトめいた話があるわけでもなく、この感覚は、彼女の強い意志もかなりの部分で働いているのだろう。それを生かすかのように感じさせるのが、鳥飼という男の存在なのかも知れない。
彼女に、
「鳥飼さんが殺されました」
というと、
「あ、そう」
というそっけない返事が返ってきた。
「こんなにそっけない返事、刑事さんも初めてなんじゃなくって?」
と言われたが、初めてではなかったが、本当に稀であった。
付き合っていた女性が、彼に裏切られたか何かで、
「いい気味だわ」
と思っている場合などは、なるべく本心を隠すくらいの気持ちで表情には出さないようにするだろう。
なぜなら、自分が殺したと考えられてしまうからだった。だが、刑事の勘というのはなかなか鋭いもので、それくらいの感情はすぐにお見通し、それを分かっているからか。相手も右往左往、右を見ても左を見ても、敵だらけにしか見えないだろう。
それも一種のジレンマだが、鳥飼が感じていたジレンマというのは何なのだろう。いまだ松本先生とコンタクトが取れていないことで、面会はかなわない状態だが、会えた時、鳥飼が殺されたと聞けば。どんなリアクションを取るだろう?
イメージとしては、あまり騒ぐことはなく、顔にも驚きは見せない気がする。鳥飼と松本先生の間には、何か人は分からない何かがありそうに思うのだが。それは、人間同士の感覚ではなく、本能の力の強い、
「人間以外の同種の極み」
というような感情が二人の間にあるような気がしていた。
「二人のことはまったく知らないはずなのに」
と感じる。
「鳥飼という男はもうこの世にいないのだから、二度と話すことはできない。そして同じような思いを松本先生にも感じた気がする」
この思いは。
「まさか、松本先生もこの世の人ではない?」
と思えてならなかったからだ。
これも勝手な思いであった。
彼女が急に何かを思い出したかのように、
「ところで、皆さんは彼の部屋をごらんになったことがありますか?」
というので、
「ええ、被害者の自宅を捜査するのも警察の仕事ですからね」
「じゃあ、あの殺風景なお部屋もご覧になったんでしょう?」
「ええ、まるで断捨離でもしたのではないかと思うような部屋だったですね」
と辰巳刑事がいうと、
「断捨離? ああ、そういえばそんな感じだわ」
と、彼女はその言葉を聞いて、不機嫌な気分になったようだ。
そして、さらに続ける。
「あの部屋は彼の考えを象徴しているかのような部屋なのよ。余計なものは置いてないでしょう? 彼にとって余計なものって何? 何度も何度も彼女を取り換えて、私のことだって好きだったのかどうか分からない。彼はきっと、私たちが彼をフッたと思っているんでしょうけど、実はそうじゃない。彼の本心が見えたから。だから、彼の部屋を見た女性は必ず彼と別れることになる。それが分かっているのに、彼は必ず付き合っている女性をあの部屋に招くんですよ・そしてあの部屋で感じるんです。この人は自分の興味のあること以外は決して好きにはならない。だから、そのために余計なものは置いておらず、部屋に余裕もある。だから、彼に彼女ができるたびに、その趣味も微妙に変わっている。つまり彼が飽きっぽいということも、女性の勘で感じるんですよ。初めて入った部屋なのに、おかしいですよね」
と彼女はいう。
「じゃあ、彼の部屋は、結構模様替えがされているということなんですか? 断捨離に見えるのはそれだけ彼が興味を持ったことに対してだけ、一生懸命になるという性格を裏付けていると思っていいということでしょうか?」
と清水刑事が聞いた。
「ええ、少しニュアンス的に違っているような気がしますが、概ねそれでいいと思いますよ」
と彼女は言った。
「断捨離という言葉で言い切るから、彼の性格が分からないのかも知れませんね」
と辰巳刑事がいうと、
「ええ、ぁれは結構、押し付けがましいところがあるんです。好きになった相手は、自分のそういう考えを認めてくれるというような思いがあるんですよ。だから、女性はそんな彼の性格が見え隠れしているのに、疑惑の目を持って感じる。その思いが間違っていなかったことを、彼の部屋に行って感じるんです。自分たちも彼の趣味の中の一つでしかないということにですね」
と彼女がいうと、
「でも、こういってしまうと失礼に当たるかも知れませんが、恋愛というのは、そういうところも多分にあるんじゃないかと思うんですが、違いますかね?」
と辰巳刑事が訊ねるように聞いた。
「ええ、それは私たちにも分かっています。でも、彼の部屋の雰囲気は、お互いが平等ではないということを教えてくれるんです。男尊女卑のような精神が彼の中にあって、それが自分中心主義の彼の気持ちを掻き立てているということをね。だから、彼のような男性が女性と付き合ってはいけないんですよ。お互いに不幸になる。もし、彼が最後に何かのジレンマを感じていたのだとすれば、このことを感じていたのだと私は思いたい。いろいろ言いましたけど、私だって、彼のことを好きになった一人だし、正直まだ彼に気持ちがまったくなくなってしまったと言い切る自信がないくらいなんです」
と言って、彼女は下を向いて、身体を震わせていた。
どうやら、泣いているようだ。
「ところで、あなたは彼が死んだというのに、それを聞いた時、悲しそうに見えなかった気がしたんですが、何か彼が殺されることを予測でもされていたんですか?」
と直球の質問を敢えてしたのは、清水刑事だった。
今までの清水刑事にはこんな質問は珍しい。一気にする質問としては、明らかに順序が違っているような気がした。
そもそも、今日は事情を軽く聞くだけのつもりだったはずなのに、清水刑事は何か感じるものがあったのだろうか?
「殺されたというのはビックリしましたけど、彼が死んだということに関しては。それほどビックリする感覚ではないです。これは彼に関係のあることではなく、私が勝手に思っていただけで、それを感じた理由があるとすれば、やっぱり彼の部屋を見た時ですかね。今から思うと、彼が自分の知を予感していたことが、あの部屋を殺風景にしたのではないかと思うんです。それこそ今刑事さんが言われたような『断捨離』という言葉を証明しているかのような気がするんですよ」
と彼女が言った。
「あなたがいっている言葉に、私はウソを感じないんですよ。信憑性があるというか。彼があなたに乗り移って我々に何かを伝えてくれているような感覚さえあるんです」
と辰巳刑事がいうと、いつもであれば、こんな表現をうまく制してくれる清水刑事からの反論がなかった。
逆にそれを聞いて。
「あなたは。それについてどう感じますか?」
と清水刑事は彼女に追い打ちをかけるかのように聞いた。
「そうですね。言われてみればですが、そうも思いますね。彼が死んだことに対して驚きがないのは、たぶん刑事さんも感じている疑問なんでしょうが、私は彼が自殺だったのではないかと思うんですよ。逆に自殺だと言われると納得できるんですよね」
と言った。
「それは自殺をするだけの何か理由というか、雰囲気があったと理解するべきなのか、逆に人から殺されるわけはないという根拠のようなものがあるからなのか、どっちかなんでしょうかね?」
と言われ、
「そのどちらもかも知れないですね。自殺する雰囲気も人から殺されるほどの理由もないこともありますが、誰かに殺されるくらいだったら、彼は自分から命を断つイメージが強いんです。だから、自殺だと言われると納得はしますが、誰かに殺されたというと、少し違和感があるんですよ」
と彼女は答えた。
「彼が自殺をしたというのは考えにくいんですよ。真正面からナイフで抉られているのが見えるからですね」
というと、
「彼はそれ、できますよ」
「えっ?」
「真正面から両手で自分の胸を突き刺すということは彼の器用さからいけばできます。一度シミュレーションで見せてくれたことがあったんですよ。私は、変なことしないでって怒ったんですけどね。その時は彼の性格を理解していなかったので、彼の行動を戒めたつもりだったですがね」
と彼女は悪びれた様子もなく言った。
「彼はその時、どんな感じだったんですか?」
「別にいつもと変わりのない笑顔だったんです。だからその時は本当に腹が立ちました。人の心配を仇で返したような態度を見せれば、誰だって怒りますよね。でも、彼はそれを怒られているという感じで捉えていなかったような気がするんです。彼に対して考え方を改めた瞬間があったとすれば、その時だったような気がするんですよ」
「なるほど」
「でも、彼が自殺ではなかったというのは、本当かも知れない。彼がいくら左右で同じ力を自分に向けることができるとしても、自分の命を奪うまでの強い力を維持できたとは思えませんからね。自殺だとすれば、次第に手の力も抜けていくのに、力を均衡に保つなどできるわけもなく、非現実的だと思いました」
と、彼女は冷静になって考えているようだった。
「それでも、あなたは彼のことだから、人から殺されたというよりも、自殺だったと感じるんですね?」
「ええ、少なくとも自分から死のうと思ったのは間違いないと思います。もし、自分に死ぬ意思がなくて人に殺されそうになったのだとすれば、かなりの抵抗をしたはずですからね。たとえ、予期せぬ人にいきなりやられたのだとしても、彼のことだから、少しは抵抗をしたと思います。抵抗の痕が見受けられないのだとすると、それはよほどの顔見知りだったということでしょうが、彼は顔見知りにでも油断をすることはなかったので、そう簡単に殺されたとは思えないんです」
「じゃあ、相手があなただとしても?」
と清水刑事は彼の傷口のように、真正面から切り込んできた。
「ええ、私だとしてもです。特に相手が女性だとすると、油断することはあの人にはないと思うんです。女性というものに対しては、猜疑心を強く持っていましたからね。それは嫉妬を伴うものではなかったんです。猜疑心だけがそこに存在していることから、嫉妬など挟まる余地のないほど、相手を信じていない性格だったということなんです」
と彼女が言った。
ここにきて、急に自殺の線が出てくるというのは、ビックリであったが、そのあたりも含めて捜査する必要があると、二人の刑事は考えていた。
鳥飼という男は、確かに調べれば調べるほど、誰かに殺されるというほど、誰も動機を持っていないような気がしてきた。人に恨まれるということはなく、ただ、彼に対してのまわりの人の感情としては、
「とにかく寂しい人であり、彼は自分から人に関わることを決してしない人であり、その気持ちがあの部屋に現れている。自分の興味のあることには一生懸命になるくせに、そんな人間に今まで出会ったことがなかったのが、彼ではなかったのか?」
というのが彼女の話だった。
その話を訊いていると、彼は自殺以外に考えられないような気がしてきた。そんな暗示に彼を調べれば調べるほどかかってくるような気がしてくるのだ。
「こうなったら、一刻も早く、松本先生に遭ってみる方がいいのかも知れないな」
とは思っていたが、肝心の松本先生は、ちょうど先日、沖縄で学会があるということで、こちらを留守にしていた。
病院はちょうど一週間ほどを休診日とするつもりだったが、それはさすがにまずいということで、近くの大学病院から、数日間、応援が貰えるということで、現在は、別の先生が診察に当たっているということだった。
松本先生の診療所について調べていると、興味深い話が訊かれた。その話をしてくれたのは松本先生の病院で看護師をしている人で、その人はすでにベテランになっていたのだった。
「松本先生の診療所は、街の区画整理の範囲に入っているそうなんです。立ち退き要求なんかもあり、それでも何とか頑張ろうという意思を持っているんですよ。隣にペットを預かるようになったのは、ひょっとすると先生の買収に対しての、ささやかな抵抗の意味もあったのかも知れないですね、ああ、鳥飼さんのことですか? はい、鳥飼さんとは知り合いでしたよ。たぶん、立ち退き反対の集会によく出ておられたので、その時に知り合ったんだと思います。趣味も合っているようなことを言っていましたので、結構仲が良かったと思います。先生は、最初はさほど鳥飼さんとそんなに仲がいいというわけではなかったんですが、一度一緒に飲んで、そのまま、鳥飼さんのところに泊めてもらったことがあるそうなんです。その時に完全に意気投合し、先生はまるで鳥飼さんの崇拝者のようになっていくようでした。先生が隣にペットの収容所のようなものを作ろうと思ったのは、どうやら鳥飼さんの考え方に感化されたからだと私は思っています。でも、その鳥飼さんも殺されたんですよね? 先生は大丈夫かしら?」
というではないか。
「まさかとは思いますが、後追い自殺などをすると思われているんですか?」
「ええ、嫌な予感がするんです。虫の知らせのようなものがあるとでもいうんでしょうかね。でも、不思議と私は先生が後追い自殺をしていたとしても不思議には感じないんですよ。先生だったら、ありえると思っている自分が怖いとは思うんですけどね」
「鳥飼さんは、自殺というより殺された可能性が高いと思われるんですが?」
というと、
「そうですか」
と言って、それ以上口を噤んでしまった。
松本先生は予定の日になっても、病院に現れることはなかった。看護師の話を訊いていたこともあってか、帰ってこないことで、松本先生に何かがあったという可能性が高くなった。
病院からは看護師の名前で捜索願が出されたが、警察が真剣に探すことをしないと思ったのか、それとも、探すとしても、それは捜索願に基づくものではなく、あくまでも鳥飼氏殺害の容疑者としての捜索になってしまうであろうことは分かっていた。きっと、
「実に皮肉なことだ」
と思っているに違いない。
その予感は一週間後に的中した。
自殺の名所の樹海の近くで、一人の男性が死んでいるのが発見された。
毒を煽っていて、そこには遺書が残されていた。その遺書には、自分が松本という医者で、人を殺してしまったと書かれていた。
その内容は、彼が自殺を試みたのだが、一人では死にきれずに苦しんでいた。それを見るに見かねてとどめを刺してあげたのだが、そのうちにm自分が精神を病んでいくことに気づいたのだった。
自分にも以前から自殺願望があり、ジレンマと戦ってきたが、それも鳥飼を殺したことで緊張の糸がぷっつりと切れ、区画整理の問題もあったことで、自殺をすることにしたという。
さらに、この自殺の意識は、鳥飼を殺してしまったことで、鳥飼から移った伝染病のようなものだと先生は書いている。
事故や事件、自殺などが連鎖するのは、この病気によるものだということは、以前から自分で提唱していたが、最後に自分の身をもって証明できるというのは、皮肉なことなのだろうか?
と言って結ばれていた。
「人って、結局は一人で生まれて一人で死んでいくんだけど、死ぬ時って、無意識のうちに一人で死にたくはないと思うのか、誰かを巻き込もうとするものなのかも知れないですね」
と辰巳がいうと、
「そうだな。悲しいことのように思うけど、これが人間の限界なのかと思うと。悲しさよりも虚しさを感じるようになる。きっと、鳥飼も断捨離をしながら、自分が死ぬことを予感していて、実際に誰かの死に対する菌を貰ったことで、自殺に踏み切ったんだろうな。でも、私は鳥飼よりも、松本先生の方が死にたいという思いは強かったのではないかと思うんだよ。それはきっと、先生には断捨離ができない性格だったからではないかと思うんだ」
と清水刑事は言った。
これで事件は解決した。
鳥飼は自殺を試み、死にきれないところを松本先生が幇助した。松本先生は鳥飼を殺したことに端を発しているが、遅かれ早かれ自殺する運命だったのだろう。
二人が今共通で考えていることは、
「松本先生や鳥飼氏のようなケースは、今に始まったことではなく、これからも永遠に続いていくということであった。そして何が怖いのかというと、このことは一瞬にして忘れ去れて、時間は誰もが想像しているよりも早く、動いているということであった……。
( 完 )
断捨離の果て 森本 晃次 @kakku
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