第29話 ダンジョン踏破耐久配信 3/4


「お?」


(緑色の物体が見えるな)

(なんだかゴージャスな雰囲気があるな)

(もしかしてあれって……)

(間違いない!! 宝箱だ!!)


 ダンジョンを進んでいくと、通路の左側に目を引く宝箱を発見した。その宝箱は深緑色の木製で、金色の装飾が施されており、見るからにゴージャスな雰囲気を放っていた。


 宝箱の発見は、コメント欄を一気に沸かせた。文字通り、コメントが急流のように流れ、スーパーチャットが次々と寄せられる。この瞬間の興奮は、配信をする醍醐味の一つであり、視聴者たちと共有できる喜びは何物にも代えがたい。


 カメラを握る楠木さんも、その興奮を隠しきれない様子で、鼻息が荒くなっている。ゲームの世界で宝箱を発見した時の高揚感は、プレイヤーなら誰もが味わったことがあるだろう。しかし、実際にこのような形で発見するとなれば、その興奮はさらに大きなものとなる。俺たちが体験しているこのドキドキ感は、まさに冒険そのものだ。


「さぁ、宝箱の中身は──なんだろうな!!」


(武器か? 最強の剣を希望!!)

(いやいや、ここは防具だろ!!)

(なんだっていい。なんでも味があるからな)

(あぁ、早く開けてくれ!!)


 コメント欄に急かされるようにして、宝箱を開く。そこに収められていたのは──


「……腕輪?」


 宝箱の内部から現れたのは、金色に輝く腕輪だった。その表面には、真っ赤なルビー、深い蒼のサファイア、そして翠色のエメラルドが、見事に散りばめられている。この黄金の腕輪は、ただの装飾品を超えた存在感を放ち、その美しさは見る者の心を虜にする。


 その輝きは、まるで太陽の光を集めたかのようで、宝石から放たれる光は互いに競い合いながらも、完璧な調和を見せていた。宝石の一つ一つが放つ煌びやかな光は、ダンジョンの薄暗さを一瞬で忘れさせるほど。


 楠木さんも、この腕輪の美しさには言葉を失っていた。配信で声を拾わないよう、常に気を配っていた彼女も、この美しさの前では思わず息をのむしかなかった。コメント欄も、この腕輪の美しさに心を奪われ、いつもの活発な流れが一時的に静かになった。視聴者たちも、この驚異的な美しさに、言葉を失っているようだった。


 この瞬間は、配信を通じて共有された貴重な体験となり、視聴者と俺たちの間に新たな思い出が刻まれた。この黄金の腕輪という宝物がもたらした、一時的ながらも完全な美の体験は、忘れがたいものとなるだろう。


【アイテム名:黄金の腕輪】

【効果:魔法威力超上昇】


 現れたウィンドウを見る限り、とにかく魔法の威力が超絶上昇するものらしい。これでダンジョン攻略が、さらに楽になることだろう。


「さっそく装着してみるか」


 黄金の腕輪を腕に嵌めると、その瞬間から不思議なことが起こった。先ほどまでブカブカとしていた腕輪が、まるで生きているかのように自らのサイズを調節し始める。シュルシュルという音を立てながら縮んでいき、やがて俺の腕にぴったりとフィットするサイズになった。


 腕輪を嵌めたその瞬間、俺の体内に凄まじいパワーが満ちてくるのを感じた。体全体が軽く振動しているような、未知の力に満たされていく感覚。これが腕輪が持つ、魔法威力を超上昇させる効果なのだろう。その力はただの物理的な強さの向上ではなく、魔法を扱う上での潜在能力を引き出し、大幅に増幅させるものだった。


(おぉおおおおおおおおおお)

(すごい似合っているぞ!!)

(イケメンって、何しても似合うな!!)

(スゲェ!! かっこよすぎだろ!!)


 コメント欄は、腕輪が自動でサイズ調整をしたことよりも、その腕輪がいかに俺に似合っているかに焦点を当てている。楠木さんも、カメラを構えたまま、俺の腕にはまった黄金の腕輪を見て大きく頷いていた。その反応に、俺は少し恥ずかしさを感じつつも、どこか心地良い気持ちも抱いていた。


 だが、これまでの暗い過去を考えれば、今のこの瞬間はまるで夢のようだ。以前はいじめの対象となり、日々を暗澹と過ごしていた自分が、今やただ腕輪を装着するだけで、人々をこのように興奮させ、注目を浴びる存在になれたのだから。


「よ、よし!! 先を急ごう!!」


 照れ隠しのように、俺は大きくそう告げた。

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