第28話 ダンジョン踏破耐久配信 2/4
「べァアアアア!!」
魔法陣が光を放つと、その場に現れたのは、5メートルにも及ぶ巨大なクマだった。その毛色は灰色で、まるで戦士のような剛腕を持ち、一人の人間ならば容易く引き裂けるほどの力を秘めている。その爪と牙は鋭利に輝き、まさに極めて危険な生物の証。
楠木さんと私は、この突如として現れた脅威に息をのんだ。配信の画面越しにも、この緊張感は伝わっているだろう。私たちは、この巨大なクマとの対峙にどう立ち向かうか、瞬時に戦略を練らなければならない。この一瞬が、私たちの冒険における試練の始まりを告げるのだった。
このような遭遇は、ダンジョン探索の醍醐味を形作る。未知の危険との戦いは、視聴者にとっても魅力的なコンテンツであり、私たちの絆を試す大きなチャンスでもある。楠木さんと共に、この困難を乗り越えていく準備が、今、始まるのだ。
「さて……どう対処すべきかな?」
(殴れ!! 暴力こそ正義!!)
(いやいや、魔法だろ!! 遠距離から攻めろ!!)
(どっちも使え!! 殺せ!!)
(スゲェバトルを見せてくれ!!)
思考を巡らせる間にも、巨大なクマはこちらの様子を伺っている。その低い唸り声と、涎を垂らす様子が、この生物の野性的な本能を物語っていた。
コメント欄からは、戦術に関する様々なアドバイスが飛び交っている。多くの視聴者が指摘する通り、魔法を使って遠距離から相手を攻撃するのが、安全かつ確実にクマを倒せる最善の策であることは明白だ。クマは遠距離攻撃の手段を持たないため、距離を保ちつつ攻撃すれば、私の有利な立場を維持しやすい。
しかし、そのような戦い方は、配信としての魅力に欠ける。遠距離からの攻撃で徐々に敵を削るというのは、視聴者にとってはやや単調で退屈な内容になりかねない。彼らが本当に求めているのは、緊迫した接戦、予測不能な展開の中での熱い戦いだ。
そう考えた私は、ある決断を下す。視聴者を飽きさせないためにも、もっとドラマチックで、息をのむような展開を提供する必要がある。視聴者が手に汗握るような、忘れられない戦いを演出するためには──私は、より積極的で、リスクを伴うが魅力的な戦い方を選択することにした。
(お、何かするっぽいぞ!?)
(暴力か? 暴力なのか!?)
(安全を配慮して、遠距離魔法だろ)
(でも、それ……おもしろくなくね?)
そして、俺は拳を構えた。
深く息を吐き──駆けた。
「べァアアアアアアアア!!!!」
「はぁああああああああ!!!!」
剛腕を振るうクマの前に立ち、私も拳を振るう決意を固めた。その巨大な身体を目の前にしても、私は恐れを感じず、むしろ戦いがもたらす興奮に心を躍らせていた。クマの一撃は破壊力があり、少しでも油断すれば致命的なダメージを受けかねない。だが、私は紙一重のタイミングでクマの攻撃をかわし、その大きな体の懐に潜り込む。
一瞬の隙をついてクマの腹部に拳を叩き込む。ドゴゴゴゴゴゴッという重低音が響き渡り、拳とクマの肉体がぶつかり合う音が洞窟内に反響する。何度も何度も、力の限り拳を振るい続けた。その一撃一撃には、私の全力が込められている。
この瞬間、配信画面を通じて視聴者たちもこの戦いの一部となっている。コメント欄は熱狂的な応援メッセージで溢れ、それが私にさらなる力を与えていた。クマとの接近戦は、単なる勇気の証明だけでなく、私たちの配信が視聴者に与える影響力の大きさを象徴していた。
「はぁああああああああ!!!!」
「べ、ベァッ……!?」
「はぁああああああああ!!!!」
「べ、ベァッ……!?」
「はぁああああああああ!!!!」
「べ、ベァッ……!?」
何度も何度も、何度も何度も殴る。
毛皮が血に染まり、赤くなる。
そして──
「ベァッ──!?」
爆発四散。クマは唐突に破裂した。
辺りは血まみれとなり、やがてその血も霧散していく。結果として、俺は返り血を浴びることはなかった。
「勝った……!!」
楠木さんの構えるカメラに向かい、ピースをする。コメント欄では、俺を讃える声でいっぱいだった。
カメラを構える楠木さんも、笑顔で迎えてくれた。あぁ……綺麗だ。
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