第25話 不良制裁配信

(ん、なんだなんだ?)

(制裁配信だ!! それも急な!!)

(場所はどこだ? 海か?)

(今度は何を粛清するんだ!?)


 配信をスタートすると同時に、コメント欄は大盛り上がりだ。楠木さんのいう通り、制裁配信というものは実に人気らしいな。開始して数分だというのに、すでに同接が1万人を超えたんだから。


「何だテメェ、配信者か?」

「ちょっとデカくてイケメンなだけで、こんなかわい子ちゃんとデートなんて……マジで許せねェよ!!」

「テメェみたいな男から女を寝とるのが、俺たちは大好きなんだよ!!」


(うわ、マジでゴミじゃん)

(もしかしてこいつらって、『湘南の悪童』じゃない?)

(↑なにそれ?)

(湘南の海によく沸く、迷惑な連中だよ。女性に執拗にナンパをしたり、カツアゲをしている連中だよ)

(俺の友人も彼女を寝取られて、その上カツアゲをされたって聞いたことあるわ。しかも警察を呼んで対応してもらったら、翌日に学校に乗り込んできたらしいし。報復がマジでめんどくさいらしい)

(しかも出身地は山梨らしいぞ)


 コメント欄の言葉が事実ならば、こいつらは飛んだ悪逆非道だな。出身地が山梨なことはどうでもいいが、それにしても粛清する理由は十分だな。


「ちょっとタッパがあるからって、俺たちに歯向かったことを後悔させてやるよ!!」

「そうだ!! 俺たちは強いんだぜ!! 俺は空手が初段だし、山口くんは柔道初段!! 井上くんは書道初段だ!!」

「初動初段の実力!! 見せてやる!!」


 空手と柔道はともかく、書道はケンカに関係ないだろ。などというツッコミはしない。絶対にこれまでにも、何度もツッコまれているだろうから。


 しかし心身を鍛える空手や柔道を習ってきたというのに、鍛えられたのは技と身体だけとは……何とも情けない話だな。ここは俺がお灸を据えて、こいつらを正してやらないとな。


「かかってこいよ、三下ども」


 そして俺は、構えた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「死ねェエエエェエエエエエエ!!」


 最初に仕掛けてきたのは、空手を習った男。

 名前は……覚える必要もないか。どうせすぐに、俺が倒してしまうのだから。


 彼は強烈な正拳突きを浴びせてこようと、拳を突き出してくる。流石に今の俺にそんなパンチは効かないだろうが、念のため避けておこうか。こんなゆっくりなパンチ、避けることなど造作もない。


「な、何ィ!?」

「中井くんの拳が、簡単に避けられた!?」

「あ、ありえねぇ!? 『不可避の拳』とまで歌われた、あの正拳突きだぞ!! 中井くんの通う道場でも、あの館長でさえも避けられない拳だぞ!!」


(不可避の拳って、ダサいな)

(確かにメチャクチャ拳速は速いけれど、あんな程度の拳はムサシには通じねェよな!!)

(全くだ。これまでに幾度も修羅場を潜り抜けてきたムサシには、あんなパンチは通じねェよ)

(あんなパンチ、超ゆっくりに見えたハズよ!!)


 こめんとらんのすいそくどおり、この程度のパンチは俺には通じない。そしてそれはコイツ自身も、感じ取った様子だ。


「きえェエエエい!!」


 今度は俺の鳩尾を狙って、蹴りを繰り出してくる。大きく股を開けて……バカなやつだな。


「えい」


 蹴りを避けて、コイツの足を掴む。

 そのまま膝を逆に折った。


「あぁああああああああああ!!?!?!?」


 膝を逆向きに折られたが故か、コイツは涙を流しながら叫んでいる。大の大人が……情けない。醜態を晒すなよ、周りの人たちがみんなコチラを見ているだろう。


「な、中井くん!?」

「て、テメェ!! よくも中井くんを!!」


(容赦なくて草)

(スゲェ!! 人の関節って、あんな曲がるんだなw)

(この調子で他の不良も殺してくれ!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)


 敵討ちのつもりなのか、2人は同時に襲いかかってきた。柔道家の男は俺を掴み掛かろうと、腕を大きく開いて。書道家の男は格闘技の経験がないのか、癇癪を起こした子どものようにぐるぐるパンチをしながら。


「柔道はともかく、ぐるぐるパンチって……。お前、ケンカの才能ないよ」


 2人の攻撃を難なく避け、先に柔道家の顎に拳を当てる。軽く当てた拳は柔道家の男の脳を揺らし、男をその場に倒れさせた。


 次にぐるぐるパンチの男はの顔面に、俺はそっと手を当てる。そしてそのままアイアンクローの要領で、 思い切り力を加えた。


「こひゅ……」

「ぐぁああああああ!! 離せェエエエ!!」

「わかったよ。おらァ!!」


 望み通り、俺は手を離してやる。

 もちろんタダではなく、男を地面に叩きつけるようにして。


「ぐべッ……」


 そしてぐるぐるパンチの男までも、その場に倒れた。柔道家の男と共に意識はなく、意識が健在なのは空手家の男だけだ。最も、そんな彼も膝を逆に折られ、まともな会話などはできないだろうが。


「ふぅ、粛清完了ですね」


(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)


 俺がピースをすると、楠木さんもそれを返してくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る