第24話 海へ
「まさか……本当にやってくるとはな」
目の前に広がるのは、青い水塊。
天に広がるのは、青い空。
眩しい日差しが俺たちを照らす。
そう、俺たちは海へとやってきた。
ご丁寧に水着に着替えて、砂浜に立つ。
……どうしてこうなった?
「お似合いですね!!」
そう声をかけてくるのは、水着を纏った楠木さんだ。彼女のきている白い水着は、豊満な胸部と絞られたウェストを見せつけてくる。何というか……美しいな。
謎に海にやってこなければ、きっと眼福だとありがたかったことだろう。美少女の水着など、かつての俺であればきっと見ることなど叶わなかっただろうから。
「それで……どうして海にやってきたんですか? まさかとは思いますが、水着を見せつけたかったからですか?」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「だったら、いったい何故ですか?」
「簡単な話ですよ」
楠木さんはスマホを取り出した。
「ムサシさん、あなたの配信で一番同接が多い配信は何か知っていますか?」
「確か、一回目の制裁配信だったかな?」
「えぇ、正解です。そして二番目に同接が多いのは二度目の制裁配信です」
「なるほど、俺の配信を分析してくれているんですね。マネージャーとして働いてくれて、感謝ですよ」
「えへへ……ありがとうございます!!」
それはともかくとして、海にやってきた理由はわからないが。同接の多い制裁配信と海、関連性がわからない。
「ムサシさんにはこれから、制裁配信をしてもらいます!!」
「制裁配信って……誰に対して? まさか一般人に喧嘩を売って、ボコボコにするんですか?」
「そんな野蛮なことしませんよ!! バレたら大炎上ですよ!!」
可能なら炎上は避けたい。
「夏の海には当然ですけれど、色々な人々が揃いますよね?」
「まぁ、そうですね。現に目の前に、数千人規模で人がいますものね」
「色々な人が集まるということは、素行の悪い人も集まるということです。そしてそんな人に辟易として、戦いている人もいるということです!!」
「確かにそうですね。……なるほど、つまりそんな人々を粛清するということですね。いわゆる世直し的な」
「粛清まではしなくていいですけれど、大体その認識で大丈夫です!! 夏の海なんて不良がワンサカいるでしょうから、これは絶対にバズりますよ!!」
「偏見がすごいですね」
だが言いたいことはわかる。
俺も不良が女性に対して、しつこくナンパを行っている動画を見たことがあるからな。それも1つだけではなく、何個も。
そういった動画には大抵の場合、批判のコメントが多く寄せられる。つまり世の中の多くの人は、迷惑な不良のことが大嫌いなのだ。過激なコメントが多いことから、そういった連中の粛清を望んでいるのだ。
「ふへへ、これはバズりますよ!!」
「海の不良を粛清するなんて発想、俺にはなかったです。さすがはマネージャーですね」
「えへへ!! ではさっそく、不良を探しましょう!!」
「はい」
そして俺たちは、不良探しの旅に出た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……いないですね」
「……そうですね」
あれから数時間が経過し、昼の3時。
不良は一向に見つからず、ただただ時間だけがすぎた。刺青を入れた不良のような人は何度か発見できたのだが、そういう人は大抵の場合は彼女持ちだった。
「はぁ……案外迷惑系不良って少ないんですね」
「そうですね。動画の中だけの幻の存在、妖精みたいなものかもしれませんね」
「……見通しが甘かったです」
「そんなことないですよ」
不良が見つからなかったこともそうだが、それ以上にショックだったのが俺に気付く人が皆無なことだ。こう見えてもチャンネル登録者が200万人を突破したのだから、1人くらいは俺に気付いてくれるだろうと驕っていた。だが実際のところ、声をかけてくれる人は0人だった。
PBTuberは俳優や芸人とは違って、どれだけ登録者数が多くても知名度は上がりにくい。そういう話は知っていたが、それでも1人くらいは気付いてくれるだろうと考えてちた。見通しが甘かったのは、俺の方だ。
「……はぁ」
「……はぁ」
互いに違う理由で、ため息を吐く。
「お、なぁ姉ちゃん!!」
「俺らと遊ばねェ?」
「かわいいねェ!!」
そんな時だった。
砂浜に座り込む俺たちの前に、3人の男たちが立ち塞がったのだ。3人とも色黒であり、髪を奇抜に染めている。素行が悪そうな、ガラの悪い男たちだ。
「これは……チャンス到来ですか?」
ナンパされているのに、楠木さんの表情は晴れていた。
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