第23話 感謝とマネージャー
「本当に……ありがとうございます……!!」
その後、俺たちは最初に出会った喫茶店へとやってきた。楠木さんは頭を深く下げて、感謝の意を述べてくる。何だか……こそばゆいな。
「いやいや、俺もアイツのことは一目見た瞬間から嫌いになったから、自分がしたいことをしただけです。そんなに感謝されるようなことなんて、していませんよ」
「でも……それでも言わせてください。ありがとうございました!!」
深々と頭を下げて、感謝を述べられる。
悪い気はしないが、やはりこそばゆい。
「でもこれで楠木さんも、もうイジメられることはないですね。本当によかったです」
「はい!! それに……約束も果たせそうです!!」
「約束?」
「忘れましたか? 私を助けてくださったお礼に、マネージャーをやらせていただきますね!!」
そうだ、そういえばそんな約束をしていたな。すっかり忘れていた。
しかし、マネージャーか。悪くはないな。
これまでの配信は1人で全て行っており、そのせいもあってか色々と不都合なことも多かった。カメラ撮影をする際にどうしてもブレることもあったし、それをコメントで指摘されることも少なからず存在した。
それに最近はスパチャや広告収入のおかげもあって、かなりの額の金を稼いでいる。ひと1人を雇うくらいはなんてことない。
「わかりました。ですけれど、まずは契約書を作成しましょう」
「そんなものいりませんよ!! 無償で働きます!!」
「いやいや、それは俺が嫌です。労働には相当の賃金を払うことは、当たり前のことです!!」
たまにSNSなどで安月給で丁寧な働きを強要する経営者を見るが、高校生の俺からしてもおかしいと思う。人は報酬に対して働き方を決める生き物なので、安い給料では粗雑な働きしかしないことなど当たり前なのだ。仕事中にスマホをイジるなという指示などは、安月給の人相手にはおかしな指示なのだ。
俺はそんな怪しい経営者ではないので、それなりの報酬は彼女に支払おうと思う。彼女は俺のマネージャーとして、やる気満々でありその気概から察するに相当な仕事をしてくれるだろうから。
「ぜひ払わせてください。お願いです」
「うぅ……わかりました。それではいくら支払ってくれるのですか?」
「そうですね……とりあえず、初任給は50万にしましょうか」
「ご、ご、50万!? 大手企業の新卒並みですよ!?」
「やけに詳しいですね」
俺が知る社会人情報は大体SNSなので、新卒の初任給はよく知らない。前に社会人の平均月給は20万前後という記事を見たことあるから、ざっくりその倍以上にしただけだ。
「ほ、本当にいんですか!? そ、そんな大金!?」
「その代わり、良い働きを期待していますよ。もしも俺の期待以上でしたら、その倍の額を支払いますよ」
「え、え、えぇえええええ!?!?!?」
「そんなに驚かなくても」
「お、お、驚きますよ!! だ、だって……!!」
「当然のことですよ。それじゃあ、さっそくこちらにサインをしてください」
こんなこともあろうかと、カバンから事前に準備していた契約書を取り出す。そして彼女はペンを握りしめ、おそるおそる契約書にサインを残した。
「よし、これで契約完了ですね」
「は、は、はい!! え、手が震えます!!」
「あはは、落ち着いてください」
「は、はい!!」
「とりあえず……これで正式にマネージャーになりましたが、何か最初にマネジメントしたいことってありますか? ……って、この質問も変ですね」
「したいことですか……。ちょっと待ってください、今考えます」
そして彼女は額に指を当て、うんうんと考え始めた。そして──
「あ!! 海に行きましょう!!」
と、言った。
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