第22話 制裁配信 2/2

「ナメンじゃねェエエエ!!」


 そう叫び、小長野は駆け出してきた。

 拳をギュッと握りしめて。

 そして小長野は、俺に殴りかかる。


「……弱いな」


 小長野の拳が俺の胸に命中するも、ダメージなどほぼ皆無に等しい。痛くも痒くもなく、ただゴリラのように毛深い手が不愉快なだけだ。


 レンガを砕く拳パンチ力を有していても、総合格闘技を習っていても、所詮はスキルを有さないただの人間だ。俺のようにスキルによって強化された、人智を超えた力は無いのだ。故に勝てる通りなどないのだ。


「ま、マジかよ……。配信は何度か見たことあるけれど、まさか……あそこまで頑強なのかよ……!? 小長野様は『路上のバーサーカー』って呼ばれた男で、100人の不良を相手にしても勝ったんだぞ!?」

「小長野様の拳はレンガを砕くし、万人を一撃で沈める……ハズだろ!? 現に俺もさっき、マジで苦しかったんだぞ!?」


(助走も含めた拳が、通じてないだと!?)

(スゲェ!? 中ずんみ戦での勝利は、マグレじゃなかったんだな!?)

(今調べたけれど。あのゴリラって総合格闘技の試合で全国一位に君臨したことがあるみたいだぞ。もちろん、高校生限定だけどな)

(つまり……人間の中では最強格ってコト!?)

(そんな男の拳を食らってもノーダメージって、マジで人間辞めてるだろ!?)

(さすがですわ!! ムサシ様!!!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)


 小長野の舎弟たちも、そしてコメント欄も大盛況だ。楠木さんはどうやら、驚きのあまり絶句しているように伺える。口をあんぐりと開けて、目を大きく開いている。


 これまでに何百匹もの魔物を討伐してきたのだから、今さらただの人間如きに敗れるハズもない。100人の不良を倒しただとか、『路上のバーサーカー』などという恥ずかしい異名を持っていても、俺からすれば……中角に毛が生えた程度の戦闘力しか感じられない。


「……こんなヤツに怯えていただなんて、楠木さんが可哀想だ。ここで何とかして、救済してあげないとな」

「なんか言ったか!?」

「あぁ、お前は弱いなと言ったんだ」

「黙れ!! 殺す!! 死ねェ!!」

「語彙力までゴリラかよ」


 ゴリラの拳は過激さを増すが、それでも俺にはまるで通じない。そろそろ飽きてきたので、俺も反撃に乗り出すとするか。


「なぁゴリラ、総合格闘技って色々な格闘技の要素を取り入れているんだよな?」

「あぁ、そうだ!! それがどうした!!」

「その中にはボクシングもあるんだよな?」

「俺の右ストレートとジャブを食らえ!!」

「だったら──」


 右手に拳を作る。

 そして──


「本物の右ストレートを見せてやるよ」


 右腕を弓矢のように引き絞り──

 ──放った。


「おらッ!!」

「──グエッッェ!?!?」


 ゴリラは思い切り、吹き飛ばされた。

 そのまま先ほどとは比べ物にならない速度で、壁にメリ込んだ。吐血し、満身創痍のように伺える。


「おい、まだ終わらせないからな」


 俺は、ゆっくりとゴリラに歩み寄った。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「お前の拳は痛くはないが、それでも人を傷つけるには十分だ。その拳を使って、お前は何人の人々を痛めつけてきた?」

「だ、黙れ!!」

「黙らない。お前は罪を償うべきだ」


 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

 

 理不尽に人に暴力を振るう奴、それで愉悦を感じる奴、そういう奴のことは大嫌いだ。楠木さんからコイツの話を聞いた時から、俺はコイツのことが大嫌いだ。


 中角と似ているから、イジメっ子なんて大嫌いだ。コイツも中角と同じく、粛清しなければならない。


「や、やめろ……!!」

「やめない。お前は粛清する」

「がふッ!? グハッ!?!?」

「懺悔しろ。したところで、止めないが」


「す、スゲェ……小長野さんが……一方的にやられているぞ!?」

「小長野さんは頑強な体のおかげで、鉄パイプを食らってもノーダメージだったんだぞ!? それをボコボコにするなんて、バケモノかよ!?!?」


(スゲェエエエエエエエ!!!!)

(やばッ!? 一方的じゃん!?!?)

(これだよ!! これを見たかったんだよ!!)

(人をイジメるようなゴミ、屠れ!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)


 如何に体が頑強であっても、所詮はただの人間。俺には遠く及ばない。


「その程度でよく、学内で君臨できたな。その程度の実力でよく、楠木さんにアプローチ出来たな」

「だ、黙れ……!!」

「お前のようなザコ、存在しない方がいいな」


 小長野の顔面にアイアンクローをして、もちあげた。そして──


「ぶっ飛べ!!」


 小長野の腹部に一撃を喰らわせた。


「ぐおッ──ッッッ!?!?!?」


 小長野はゴム毬のように地面を跳ねながら、壁に激突、そしてそのまま、動かなくなった。


「……魔法を使うまでもなかったな」


 やはりどれだけ鍛えていようとも、所詮はただの人間。口ほどにもないな。


「ま、マジか……」

「こ、小長野様が……敗れた!?」


(スゲェエエエエエ!!)

(ヤベェエエエエエ!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)


「ムサシさん……!!」


 そして俺は、楠木さんにピースを送った。




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