第21話 制裁配信 1/2

(#制裁配信?)

(お、マジでゲリラ配信じゃん!!)

(今回はどんな悪党を倒すんだ?)

(マジで期待大だ!! 応援してるぞ!!)


 彼女にスマホを持たせて、配信をスタートする。今回は予告なしのゲリラ配信、それも久しぶりの性再配信だ。故に同接の数もかなり多い。


「こんにちは、ムサシです。今回は視聴者からの依頼を受けて、このイジメっ子を倒そうと思います!!」


(おぉw マジかw)

(うわ、スゲェ悪そうな顔だな。身長も180センチ以上はありそうだし、ガタイもムキムキだ。絶対に悪いヤツだろ)

(うわ、腕が丸太みたいだ。それに腹筋も脚は一般男性のウエストよりも太いし、ゴリラみたいだな)

(今回は視聴者からの依頼か。これは期待大だな)

(コイツはどんな悪いことをしたんだ?)


 楠木さんからコイツ、小長野の悪行は聞いている。コイツは中角に匹敵するほどの、大悪党なのだ。


「コイツは依頼者に対して、様々な暴力を振るってきました。依頼者に対して婚姻を申し込んできたり、それを断ったら暴力で屈服させようとしたり……とにかく最低なヤツなんです」


(マジか、ゴミかよ)

(自分かって極まりないな)

(中ずんみ並のゴミ野郎かよ)

(ってことは依頼者は女性なのか?)

(いや、男の可能性もあるぞ)

(どっちにせよ、やばいヤツだな)


 腕や脚、それに顔面を毎日のように殴打。

 便器に顔を沈まされる。

 虫入りの水を飲まされる。


 その他もろもろ、数々の暴力を受けたという。筆舌し難い度し難いことさえも、彼女は受けたという。


 中角にイジメられた俺は、彼女の苦しみが痛いほど理解できる。いや……彼女は性の対象としてみられている分、 俺よりも苦しいかもしれない。もしも心が折れたらコイツと結婚しなければいけないので、俺よりも苦しかったかもしれない。


「テメェ……さっきから1人でペラペラと、何を喋ってンだ?」

「小長野様、あれですよ!! 配信です!!」

「あ? なんだそれ?」

「ネットに晒されてるんですよ!! 小長野様が!!」

「つまり……人気者ってことか?」


 何だコイツ、現代人じゃないのかよ。

 今の時代配信の仕様について、それにネットに晒される恐怖を知らないとは……原始人でも常識だと思うんだけどな。こんなゴリラ、初めて見たぞ。


(え、ネット配信を知らないの?)

(今の時代ネット配信を知らない高校生って、実在するんだ。絶滅危惧種じゃん)

(マジか、ゴリラかよ)

(ウホホ、ウホホ?)

(ウホホホホ!! ウホホイ!!)

(ウホイ!! ウホホイ!! ウホホホイ!!)


 視聴者は小長野を煽っている。

 気持ちはよくわかる。


「つまり俺がコイツを倒せば、莉音は俺と婚約するんだな!! 俺の方が強いってことを証明できるからな!!」

「いや、そんなことはない──」

「うぉおおおおお!! 死ねェエエエ!!」


 頭までゴリラなのか、ヨーイドンさえもなく小長野は殴りかかってきた。……マジでゴリラかよ。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「うぉおおおおおお!!!!」

「……いやいや」

「うぉおおおおおおおおお!!!!」

「そこは『ウホォオオオオ』だろ? お笑いをわかっていないな」


 コイツは総合格闘技を習っており、その拳はレンガをも砕くと楠木さんから聞いていた。だがしかし、そんなコイツの拳は俺にはまるで通じない。レンガを砕く程度では、俺の身体は砕けないのだ。


「ま、マジかよ……」

「動画で見たけれど、マジでイカレてるくらい強いな……」


(さすがムサシだなw)

(こんなゴリラの攻撃、効かないのよ!!)

(ウチのムサシの強さ、恐れ入りなさい!!)

(なんか後方母親面湧いてんな)

(でもマジでムサシ強いな。普段から魔物と戦っているから、ここまで強いんだろうな)

(でもアレはCGだろ? CGに勝つことと、人間にかつことは、まるで別物だろ?)

(あれはCGじゃねぇよ。マジモンだ)

(CGかCGじゃないか論争始まったな)


 コメント欄が変な流れになっているが、何はともあれ攻撃が通じていないことは伝わっている様子だ。コイツがどれだけ暴力をしたとしても、俺には【肉体強化】がある為にまるで無傷なのだから。


「す、すごい……!!」


(今のもしかして、依頼者の声?)

(マジで可愛いじゃん!! 女じゃん!!)

(こん!! こんこん!!)

(急に出会い厨湧いたな。キッショ)


 楠木さんが簡単の声を発すると同時に、急にコメント欄が変な感じになった。何というか……俺の配信にそういう奴がいるという事実が、実に悲しすぎる。


「ぐははは!! どうだ!! 痛いだろ!!」

「マジで『ぐははは』って笑う奴っているんだな。ラノベや漫画ならともかく、リアルでは初めて見たぞ」

「軽口を言えるのも、今だけだ!! お前はここで死んで、莉音は俺がもらうんだからな!!」

「ゴチャゴチャうるさいな」


 ゴリラの攻撃を避けて、胸ぐらを掴む。

 そしてそのまま、投げ飛ばした。


「ぬぉおおおおおお!?!?」


 ゴリラは数メートル飛び、壁に激突した。

 だが身体を鍛えている影響からか、ダメージは見受けられない。


「お前の攻撃なんて、まるで通じていない」

「な、何!?」

「総合格闘技で暴力の振るい方を教わったようだが、まるでなっていないな」

「て、テメェ!!」


 裾を捲り、指を鳴らす。


「お前に本物の暴力を教えてやるよ」


 と、告げて。

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