第19話 DM

 送られてきたDMには、俺の近所の喫茶店で話がしたいという内容が記されていた。これまでにも何度かDMは来たが、このような相談や話をしたいという内容のものは初めてだ。大体のDMがチン凸であったり、感想系だからな。


 釣りである可能性も十分考えられるが、やはり気になってしまうのが人間のサガだ。故に俺は近所の喫茶店へとやってきた。


「ここでいい……ハズなんだけどな」


 喫茶店の中はガランと静まり返っていた。

 客はまばらであり、皆静かに思い思いの時間を楽しんでいる。そんな中で──


「あ、あの!!」


 1人の少女が俺に話しかけてきた。

 身長は157センチほど、大きな胸の女性だ。

 年齢はおそらく俺と同じくらい。顔立ちが非常に端正であり、また気品に溢れた美少女がそこにいた。


「む、ムサシさん……ですよね?」

「えぇ、そうですよ」

「も、もしかして……見ました?」

「それはDMを、という意味ですか?」

「は、はい……!!」

「えぇ、確認しましたよ。あの──」

「お、お願いします!!」


 彼女は鈴の鳴るような声で、告げた。


「わ、私を……助けてくれませんか?」


 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ほ、本物のムサシさんだ……!!」

「あの……」

「まつ毛長いな……。背も高いな……!!」

「聞いてます?」

「す、すみません!! 見惚れてました!!」


 まぁ……悪い気はしないが。


「それで助けてくれというのは、どういった意味なんですか? 何よりも、あなたはどちら様なんですか?」

「あ、わ、私は楠木莉音くすのきりおんです!! え、栄英雅高校に通ってます!!」

「へぇ、スゴいエリート高校ですね。それで、どんな救済を求めているんですか?」

「じ、実は……わ、私、イジメられているんですね」


 そして彼女は語った。現状の悲惨さを。

 彼女の話は10分にも及び、それを要約すると。


小長野健二こながのけんじという生徒に求婚されている

・断ってるが、腹いせに嫌がらせを受けている

・最近はエスカレートして、周りにも被害をもたらしている。さらに理事長の孫なので、何をしても先生たちは何も言えない


「む、ムサシさんの制裁配信を見て、この人だったら何とかしてくれるかもしれないと思って、DMを送らせていただきました……!!」

「なるほど……そうなんですか」


 どんなエリート校でも、汚点はあるんだな。

 彼女の暗い瞳から、色々と察せられる。

 中角にイジメられていた時の俺と、同じ目をしている。


 金儲けのために始めた配信であるが、こうやって救済を求められたら……断るわけにはいかないな。俺の視聴者が助けを求めてくれているんだから、無視することはできないな。


「お、お金とかは用意できないですけど、動画の編集などはできるので……何かと役に立てるかと思います!! 助けてもらったら、マネージャー兼編集者として活躍しますので……どうかお願いします!!」


 彼女は頭を机にぶつけるほど、勢いよく頭を下ろした。おいおい……痛いだろうに。


 しかし、編集者か。

 俺はこれまで配信を生業としてきたが、確かに動画配信というものも非常に魅力的だと思う。それに編集ができるということは、彼女の手によって配信の質も高まる可能性が十分に考えられる。今後さらに登録者を獲得するにあたって、この提案は非常に魅力的だ。


「頭を挙げてください」

「そうですよね、無理ですよね……」

「その救済、喜んでお受けしましょう」

「こんな芋臭い女のことを助けてくれるなんて、ありえないですよね。ごめんなさい、黙ってこれまで通り視聴者として──え?」

「あなたのことを、助けましょう」


 彼女の手を握る。

 

「え、で、でも……」

「制裁配信を見たのならわかると思いますが、俺はイジメっ子が大嫌いです。ソレに俺もイジメられていたので……イジメられることのツラさは、よくわかるんですよ」


 嘘は言っていない。どれも本心だ。

 編集者が欲しいことも本心だが、ソレと同じくらい彼女に同情をしてしまったのだ。彼女をイジメる者のことが、許せないのだ。


 故に彼女を助けることにした。

 イジメだけは、許せないから。


「あ、ありがとうございます……」


 彼女は感謝の言葉を口に出し、涙を流した。

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