第17話 ダンジョン配信 3/3

「ミノォオオオオオオ!!!!」


(ちょw マジでミノタウルスじゃんwww)

(俺、本物のミノタウルス見るの初めてだわwww)

(↑いやいや、ミノタウルス以外の魔物も初めてだろwww)

(笑っている場合か?)

(ムサシ、死ぬんじゃね? ムキムキだし)

(どうするんだよ、こんな怪物)


 コメント欄で心配の声が上がっているが、全くもってその通りだ。あんなに隆起した筋肉の一撃を喰らってしまえば、【肉体強化】で強くなった俺でもひとたまりもないだろう。


 さらに言えば、俺のカットラスでの攻撃も通じる気がしない。鋼のような筋肉の前では、薄皮を裂くことは可能でも……大ダメージを与えることは難しいだろう。


「大丈夫、俺なら勝てる!!」


(おぉおおおおお!!!!)

(その言葉、待ってたぞ!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)

(がんばれムサシ!! 勝て勝てムサシ!!)


 コメント欄が沸き立つ。

 その期待……何としてでも、応えなくては。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ミノォオオオオオオオオ!!!!」


 ミノタウルスは棍棒を振るい、俺を潰そうとしてくる。一撃一撃が強力であり、棍棒が地面に命中すると地面が大きく陥没している。さらに棍棒が地面に当たるたびに衝撃で、地面が大きく揺れる。


 あんな暴力の化身のような攻撃、命中すればミンチになることは確実だ。幸いにも攻撃は比較的鈍重であるため、避けることは容易いが。だが──


「やぁああああ!!」

「ミノォオオオオオオオオ!!!!」

「だぁあああああああ!!!!」

「ミノォオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 避けると同時に何度カトラスを振るっても、ミノタウルスには大したダメージは与えられない。薄皮を軽く裂くだけであり、その下に潜んでいる筋肉の山にはダメージは薄い。


(まるで肉の宮じゃん!!!!)

(どうすんだ! 攻撃通じてないじゃん!!)

(ミノタウルスの攻撃、一撃必殺だろ!!)

(あんな攻撃、食らえば即死だろ!!)

(攻撃は通じないし、攻撃を喰らうわけにはいかないし……マジでヤバいだろ!!)


 コメント欄でも、俺を心配する声が多く上がっている。マズい、このまま心配をかけてしまえば……視聴者のうち何割かは離れてしまう。彼らが求めているのは、圧倒的無双なのだから。


 ピンチはエンタメにおいて、スパイスになるが……この配信ではそれは求められていない。即刻軌道修正をして、何とかしなければ。


(筋肉凄くても、内臓は普通なんじゃね?)

(電気とか筋肉凄くても、効きそうだな)


 そんな時だった。

 2つのコメントが、目に止まる。

 

「……感謝するぞ」


 そして俺はミノタウルスから、大きく距離を取る。そして──


「《中級の雷剣サンダー・ソード》!!」


 雷の剣を放つ。

 狙うは、カットラスで裂いた胸元だ。


「ミノォオオオオオオオオ!?!?」


 雷の剣が命中したミノタウルスは、情けない叫びを上げる。やはりコメントにもあった通り、筋肉の鎧にも雷は通じるようだ。


(スゲェエエエエエエエエエ!!!!)

(肉の宮にダメージが入ったぞ!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)

(チャンネル登録しました。ベルもしました)


 コメント欄が沸き立つ。

 視聴者はやはり、泥試合よりも無双を望んでいるのだ。俺も視聴者側だった時は、ゲーム実況などで沼っていると飽きてしまったからよくわかる。


 俺の選択は正しかった。

 この調子で、雷で相手しよう。


「ミノォオオオオオオオオ!!!!」

「《中級の雷槍サンダー・ランス》!!」

「ミノォオオオオオオオオ!?!?!?」

「《中級の雷刃サンダー・カッター》!!」

「ミノォオオオオオオオオオオ!?!?!?」


 鋭い雷の槍、半月状の雷の刃、それぞれを放ってミノタウルスを痛めつける。見た目こそ損傷はあまり見受けられないが、その悲痛な叫び声から察するに相当なダメージが入っている様子だ。


「ミノォ……!!」


(息荒いな。興奮してんのか?)

(美丈夫に痛めつけられてるんだから、そりゃ興奮するわよ。アタシに代わってほしいわ)

(↑いや……それはないわ)

(弱ってるじゃん。勝てそうだな!!)

(益荒男を倒せ!! 勝て!! ムサシ!!)


 膝を着き、息を荒くするミノタウルス。

 その様子は満身創痍といった様子であり、もう少しで倒せることを如実に表していた。


「さて……次で終わらせるか」

「ミノォオオオオオオオオ!!」

 

 魔法の準備をしようとすると、ミノタウルスは怒り狂ったように棍棒を乱暴に振り回してくる。俺が次で仕留めるつもりなのが、わかったのだろうか。最後の足掻きか、あるいは俺を仕留めるために、こうやって暴れているのだろう。


 怒りの籠った攻撃は先ほどよりも攻撃力が増しているが、あまりにも乱雑な攻撃のために俺に命中することはない。こうして振り回す棍棒を避けることは、先ほどよりもずっと容易い。


「そろそろ終わらせよう」


 攻撃を避けながら、魔法を展開する。

 そして──


「《上級の雷撃ライトニング・ボルト 》!!」


 10万キロワットにも及ぶ、雷撃を放つ。

 雷撃は一直線に飛んでいき──


「ミノォオオオオオ!?!?!?」


 ミノタウルスの胸を穿った。

 ミノタウルスの身体は硬直し、そのまま倒れた。そして光の粒子と化して、宝箱が出現する。つまり──


(うぉおおおおおおおおおお)

(すげぇえええええええええ!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)


 俺の勝利だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る