第16話 ダンジョン配信 2/3

 数時間後、俺は40層まで降り立った。

 この数時間、様々な魔物と遭遇したが何とか勝つことができた。俺が強くなったことももちろんそうだが、何よりもダンジョンを進めば進むほどスパちゃが飛んでくるのだ。それが何よりのやる気に繋がったのだ。


 さらに言えば、ダンジョンを進めば進むほど、同接の数も増してくる。登録者の数も右肩上りで増えていき、今では120万人もの登録者を獲得できるようになった。


「ピギィイイイイイイ!!」


 そんなことを考えながら歩んでいると、一匹の魔物が出現した。2メートルほどもある、巨大なブタの魔物だ。唾液を垂らして、興奮気味に突進してくる。


(おぉw ブタじゃんw)

(ちょw 俺の悪口やめろしwwwwww)

(デブ乙)

(いや、でも……やばくね?)

(あのブタ1トンは優に超えているだろうし、当たればひとたまりもないぞ!!)


 ふざける視聴者と真剣な視聴者。

 そんな視聴者の指摘通り、あのブタに当たってしまえば、いくら強くなった俺でもダメージは避けられないだろう。しかもブタの速度は中々に速く、軽トラックほどの速度はある。


「うぉおおおおお!?!?!?」


 何とか気合いでブタの突進を避ける。

 軽トラックほどの速度だが、今の鍛えられた俺であれば……気合いで乗り越えられる。危なかったが。


(おぉ、避けたぞ!!)

(アクロバティックな動きだったな!!)

(パルクール選手顔負けだったぞ!!)

(かっこよすぎだろ!!)


「ビィッ!?!?」


 ブタの突進を避けたことで、ブタはそのままの勢いで壁に激突した。ゴチンッという鈍い音が通路に響き渡り、ブタの頭部からはポタポタと血が滴っている。


 そしてブタはゆっくりと、こちらに振り向いた。その目は明らかに怒りが灯っており、先ほどよりも鼻息が荒い。これは……ブチギレているな。


「逆ギレかよ……」


(デブを怒らせた罰は重い)

(ちょw デブ代表がなんか言ってるぞwww)

(でも……マジでやばいんじゃない?)

(さっきもかなり速かったのに、これだと……F1くらいの速さになるんじゃない!!?!?)

(F1ブタ……シュールだな)


 チャット欄の軽口に苦笑をしつつも、ブタの動きに目が離せない。コメントにもある通り、今のブタは確実に先ほどよりも速くなっている。怒りの効果で、リミッターが解除されている状態だろうから。


 さすがに1トンの速度の物体が、F1並の速度で突っ込んでくれば……大ダメージは避けられない。故に今度の攻撃には警戒しなければならず、目が離せない。


「ふぅ……」


 カットラスを構えて、待ち受ける。

 次の突進を何とか躱し、カウンターで切り刻んでやる。それができなければ、俺の敗北だろう。


「ブヒッ──!!」


 刹那、ブタが動いた。

 あまりにも速く、目のも止まらぬ速さで。

 俺の強化された視力であっても、その動きを捉えるのは困難だった。故に──


「やぁ──」


 いっそのこと目を閉じ、五感に頼る。

 適当に避け、適当にカットラスを振るう。

 痛みは──なかった。


「ブビュッッッッッ!?!?」

「……あ」


 背後から、ブタの鳴き声が聞こえた。

 振り向くと、そこには血にふしたブタの姿があった。首筋を断ち切られ、ドクドクと血を流しているブタの姿があった。


(スゲェエエエエエエ!?!?!?)

(目を閉じて、気配で切ったのかよ!?!?)

(達人じゃん!! 忍者かよ!!)

(↑どちらかと言えば、サムライでは?)

(しかも神回避だったぞ!! 紙一重だ!!)

(マジでスレスレで避けて、気配斬りなんて……超人だよ!!)


 何が起きたのか自分でも把握しきれていないが、どうやらコメント欄の反応を見る限りでは……俺は自分のやりたいことを成し遂げたようだ。紙一重でブタの突進を避け、そして斬ることで勝利を収められたのだから。


「あはは……疲れた」


 飛び交うコメントとスパチャを見て、俺は嬉しさのあまりため息を吐いた。俺……確実に強くなっているな、と実感も出来た。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 それからさらにダンジョンを進こと、数時間。俺はようやく目的の50層へと辿り着いた。目の前にはいつものように、見慣れた鉄扉が佇んでいる。


(おぉ、ボス部屋か!!)

(頼むぜムサシ!!)

(バチクソカッコいい魅せプを期待しているぜ!!)

(頑張って!! ムサシくん!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)


「ありがとう、みんな」


 コメント欄は大いに盛り上がっている。

 これは期待に応えるしかないな。


────────────────────

【名 前】:緑山武蔵みどりやまむさし

【スキル】:火属性魔法 Lv6

      雷属性魔法 Lv5

      氷属性魔法 Lv5

      肉体強化  Lv5

────────────────────


 ステータスを開き、自身の強さを確認する。

 着実に強くなっている。今の俺ならば、この先のボスにだって勝てるだろう。そんな確信が湧いてくる。


「よし!! 挑むぞ!!」


 そして俺は、鉄扉を開いた。


「──ミノォオオオオオ!!」


 そこにいたのは、牛頭の益荒男だった。

 身長は3メートルほど、筋骨隆々の肉体。

 丸太ほどの腕に握られるは、重厚な鉄柱。

 その瞳は真紅で、鼻息は荒い。


「ミノタウルス、かな」


 その魔物の正体は、誰でも理解できた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る