第11話 制裁配信 1/2

 【肉体強化】とは、筋力だけを強化するスキルではない。神経伝達や動体視力など、肉体に関するあらゆる能力を向上させるスキルだ。かつては体育の成績が1だった俺でも、今ではオリンピック選手顔負けの力を得たのだ。


「チクショォ!! どうして、攻撃が当たらねェ!!」

「そんな鈍臭い攻撃、俺に通じるハズがないだろう? もっと真剣に頑張れよ」

「黙れ黙れ黙れェェエエエ!!」


(ちょw 全然攻撃通じてくなくて草)

(やっぱ粋がっているだけの不良って、ゴミなんだなw)

(それにしてもムサシの方は、スゴい動きだよな。まるでプロボクサーみたいな軽快なステップだし、必要最低限の動きだけで避けてるぞ!!)

(やれぇ!! 殺せぇ!!)


 コメント欄は大盛り上がりだ。

 中角のチャンネルはどうやらアンチが多かった様子であり、そのアンチが皆俺のチャンネルを見ている。それもあり、前回のダンジョン配信以上に、コメント欄の流れが早い。


 それにしても……俺の身体能力が向上した影響もあってか、中角の動きがどれも鈍臭く思える。振るってくる拳はまるで止まって見え、金的を狙う足は狙いがバレバレだ。故に避けることなど容易い。


 俺はこんなヤツに怯え、平伏していたのか。

 確かにかつての俺は身体能力が低かったが、この程度のヤツが相手なんだったら……勇気を振り絞って抵抗すればよかった。勝つことは難しくとも、少しくらいは怪我を負わせれたハズだ。勇気を振り絞らなかったことを、今では強く後悔する。


「チクショオ!! チクショオ!!」

「攻撃が雑になってきたぞ」

「黙れ黙れ黙れ!! 死ねェエエエエエ!!」

「語彙も乏しくなってきているぞ」


(ちょw 煽りすぎで草)

(いいぞw もっとやれw)

(中ずんみって、体格が大きいからこれまで圧倒できていただけで、同等以上の体格相手だと雑魚になるんだよな。これまでに何度も動画を見てきたけれど、技術も乏しいし。正直、本物の前だとこうなることは必然だよな)


 どうやら中角は、『中ずんみ』という名で活動をしていたらしい。そしてコメント欄の識者が言う通り、中角の動きは相当拙い。パンチの打ち方は方を大きく開いており、キックに関しても股を大きく開き過ぎている。素人丸出しの、情けないフォームだ。


 俺は格闘技経験なんてないが、格闘漫画が好きなので暴力の仕方は心得ている。さらにダンジョンで実践経験も積んでいおり、【肉体強化】の恩恵で身体能力も飛躍的に向上しているので……中角なんかに敗れるハズもないのだ。


(そろそろ魔法を使ってよw)

(中ずんみに粛清を!!)

(イキったゴミをワカらせてやれ!!)

(殺せェ!! 燃やせェ!!)


 コメント欄に過激なコメントが溢れてきた。

 魔法……か。魔物以外に使うのは気が引けるが、しかし相手は忌々しい中角だから使用しても問題はないか。コイツもかつてはライターで二の腕を炙ってきたり、ハサミでふくらはぎを切ってきたりしたから……俺が相応のことをしても文句は言えないだろう。


 ただあまりにも派手に魔法を使ってしまえば、色々と問題が発生する。火属性を使えば火災感知器やスプリンクラーなどが発砲して、大パニックになるだろう。ソレ以外の魔法であっても、あまりにも派手な魔法はダメだ。


「……となると、これくらいしかないか」

「何を言ってやがる、死ねェ!!」

「お前を倒す算段だ」


 俺は数歩下がり、中角から距離を取る。

 そして──魔法を発動した。


「《下級の氷吹アイス・ブリーズ》」


 指先に展開した青い魔法陣から放たれるは、凍える冷気だ。マイナス20度にもなる冷気はトイレの湿った床を凍らせ、ついでに中角の靴までも凍らせる。


「な、なんだこれ!? 動けない!?」

「靴の中まで凍らせたからな、靴を脱ぐこともできないだろう。滑稽なことだな」

「て、テメェ!? な、何をした!?!?」

「その答えは前回の配信のアーカイブにある」


(ちょw 自分の配信の宣伝かよw)

(これはおもしろいwww)

(チャンネル登録したわwww)

(おこなの?)

(この配信終わったら、前回の配信見にいきますね)


 よし、これで配信への誘導もできたな。

 家に帰ったらアーカイブの概要欄に、前回の配信のURLを貼っておくとしよう。それで一気に登録者が増えてくれると、俺としてはかなりありがたい。


 それにしても……視聴者がグングンと増えているな。最初は2万人ほどの視聴者だったのが、今では10万人もの人がこの配信を見ている。なんて嬉しいことだろう。


 そしてコメント欄を見るに、俺の予想以上に中角へのアンチは多い印象だ。コメント欄には中角のSNSへの誘導URLや、中角の住所や電話番号などが晒されている。イジメ配信なんて道徳に欠けた配信を行なっている、中角の自業しとくだな。同情はできない。


「中角、俺はお前を許せない」

「は? テメェに許されたくもねェよ!!」

「そして視聴者たちも、お前が傷つく姿を望んでいる様子だ。これがどういう意味か、理解できるか?」

「黙れ!! 早く氷を溶かせ!!」

「俺は今から──鬼になる」


 そして俺は、拳を振るった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る