第12話 制裁配信 2/2

「おらァッ!!!!」

「グ、ガハッ!?!?」

「おらァッ!!!!」

「ギ、グハッ!?!?」

「おらァッ!!!!」

「ゲ、ゲハッ!?!?」


(タコ殴りで草)

(こういうのでいいんだよ)

(悪逆の限りを尽くした中角は、万死に値する!! 殺せェ!!)

(殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!)


 殴る、殴る、殴る。

 これまでの怒りを込めて、殺す覚悟で殴り続ける。もう2度とコイツが立ち上がれないように、ひたすらに殴り続ける。中角という男だけは、絶対に許せないから。


 俺の視聴者、そして中角のアンチは賛同してくれる。彼らは皆中角のことが大嫌いだから、その反応も当然と言えるだろう。俺と同じように、彼の死を望んでいるのだから。


「おらァッ!!!!」

「グ、ガハッ!?!?」

「おらァッ!!!!」

「ギ、グハッ!?!?」

「おらァッ!!!!」

「ゲ、ゲハッ!?!?」


 拳は顔面にメリ込み、頬骨を砕く。

 拳は腹にメリ込み、胃袋を破る。

 拳は四肢をへし折り、鮮血が舞う。


 この戦いが終われば……俺は捕まるだろうか。いくら憎い中角とはいえ、人をここまで痛めつけているのだから。だが……決して後悔はないが。


「や、やめてくれ……!!」

「俺がそう懇願した時、お前はやめたか?」

「お、俺は……お前をイジメたことなんて、い、一度もない……」

「お前にとってはそうでも、俺は覚えているんだよ。お前にされた非道の数々を、今でも忘れられないんだよ」

「な、何の話だ……?」


 俺がこの肉体になった時、おそらく世界は大きく改変されたのだろう。元々俺はこんな身体であったという風に、皆の認識を大きく改変したのだろう。その結果、中角からイジメられていた過去が、綺麗に消えたのだろう。


 だが中角や他の人が覚えていなくとも、俺だけはあの辛酸を舐める日々のことを覚えている。屈辱に塗れ、毎日苦しかった日々を忘れることはない。この世界ではイジメられなかったとしても、俺だけは許せないのだ。


(中角のヤツ、こんな超イケメンまでイジメてたのかよ!!)

(許せないわ!! 死刑よ!!)

(国宝級のイケメンを痛めつけるなんて、万死に値するわ!! くびり殺したい!!)

(殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!)


 気がつけば、視聴者数は既に70万人を超えていた。中角はその過激な活動のせいで登録者は極めて多いが、その分アンチを抱えている。つまり中角のアンチがみんな、俺の元に集まっているのだろうな。


 視聴者が増えているということは必然的に、チャンネル登録者が増えているということだ。因縁の相手を殴ることで、登録者が増えるというのは……清々しい気分だ。この戦いの後に逮捕される未来が待ち受けていたとしても、十分許容できる。


(中角!! 負けるな!!)

(そうだ!! いつもの黄金の右ストレートを、見せてくれ!!)

(やれェ!! 中角!!)


 そして僅かながら、中角のファンも俺の配信に集まっている。中角を応援している様子だが、それだったら彼の配信から応援すればいいのに。先ほどの生徒をイジメていた時の配信がまだ切れていないので、彼のスマホは未だに配信を続けているのだから。


 しかし……中角のことを応援するなんて、人としてどうかと思うがな。弱いものイジメをする者の配信を楽しみにするだなんて、道徳の成績が1なのだろうか。


「俺の二の腕にタバコを押し付けたこと、今でも忘れていないぞ」

「そ、そんなことしてねェ!!」

「クラスメイトの前でオナニーを強要したこと、絶対に忘れないぞ」

「な、何の話だ!?」

「お前のことを許さないっていう、それだけの話だ」

「そ、そんなこと、俺はしてねェよ!!」


(うわ……マジで最低じゃん)

(イジメ系の問題のあるチャンネルだってことは知っていたけれど、まさかここまでクズだったなんて……マジで最低じゃん……)

(マジで……死んでほしいんだけど……)

(殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!)


 視聴者は中角の死を望んでいる。

 そして俺も、気持ちは一緒だ。

 だったら──


「──殺すか」


 中角を生かしていれば、傷が治った後に誰かをイジメることだろう。彼は性根が腐っており、決して反省をしない男なのだから。彼が生きているだけで、誰かが被害に遭うのだから。


 俺はこのままでは、確実に捕まってしまう。

 だったらせめて、中角を殺そう。


 どうせ捕まってしまう未来は変わらないのだから、だったらせめて被害者を減らして捕まろう。中角を殺して、世界をよくしてから捕まろう。俺が償う罪が少し重くなるだけで、この世界が少しでもよくなるのであれば……甘んじて受け入れよう。


「中角、俺はお前のことが嫌いだ」

「な、何を言ってる……?」

「だから──お前を殺してやる」

「は、こ、殺す……?」


 そして俺は、魔法を唱えた。

 黄色い魔法陣が、右腕に宿る。


「《中級の雷剣サンダー・ソード》」


 右腕に握るは、雷鳴の剣。

 バチバチとスパークしており、大気を振動させる。


「な、何だよそれ……!?!?」

「お前を殺す武器だ」

「こ、殺すって……冗談だよな?」

「冗談かどうかは、コメントを見たらどうだ?」


 そして左手で、スマホを持った。

 中角の顔の正面に、スマホを提示する。


(殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!)

(中角にイジメられた者です。早くこの悪逆非道な畜生を、殺してください)

(死ねェ!! 中角!!)

(お前のこと、最初から好きなやつなんていねェんだよ!!)


 コメント欄では、中角の死を望む声が大多数だった。それだけ中角は暴れ、そして被害をもたらしてきたのだ。


「お、お前……ま、マジで……?」

「喜べ、世界は少し綺麗になるぞ」

「あ、あぁあああああああああ!?!?!?」

「うるさいな……因果応報だろうに」


 そして俺は──

 ──剣を構えた。


「い、嫌だァアアアアア!!!!!!」

「──うるさい」


 剣を振り下ろした。

 

「あッ──」


 中角の身体は、一刀両断。

 真っ二つになった肉は、ベチャッと地面に落ちた。真っ赤な血は、地面を汚した。


(うぉおおおおおおおお!!!!)

(88888888888888)

(いえぇえええええええ!!!!)

(ムサシ最強!! ムサシ最強!!)


(え、これ……マジで死んだの……?)

(え、ヤバくね……?)

(殺人配信じゃん……)

(え、え……?)


 様々な反応がコメント欄に流れているのを見ながら、俺の意識はなぜか途絶えた。

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