第6話 初めてのボス戦

「キシャァ……!!」


 そこにいたのは、巨大なクモだった。

 全長約20メートル。脚だけでも15メートルはあるだろ。漆黒の甲殻は煌めいており、頑強さをアピールしている。


 口からは紫色の液体が垂れており、地面に付くとシュワっと音を立てている。おそらく酸性のその液体に触れてしまえば、どうなるかは想像に難くない。


(は? デカすぎんだろ!!)

(あんなクモ、見たことねぇよ!!)

(タランチュラよりも、デカいじゃん!!)

(あんなもん、どうやって倒すんだよ!!)


 コメント欄も沸き立っている。

 あんな巨大なクモなど、この世に存在しない。故に……俺がどう戦うのか、気になるのだ。


「みなさん、安心してください。あのクモは俺が倒します!!」


(おぉw 威勢がいいなw)

(そんなに太ってて、勝てるのか?)

(頑張れよ!!)

(勝ったら2万スパチャします)


 気合いを入れる。2万円の為……ではない。

 あのクモに勝てれば、おそらく報酬を獲得できるのだろう。記載のあった、【肉体強化】が手に入って……俺はさらに強くなれる。そしてもしかすると、帰れるかもしれない。


 配信がバズったところで、帰れなければ何の意味もない。故に俺はクモを屠り、必ずや帰還してやる。


「よし……行くぞ!!」


(頑張れよ!!)

(主人公みたいだなw)



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「うわッ!?」

「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「ひィッ!?」

「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「うわぁッ!?」


(必死に逃げてて草)

(滑稽だな。笑えてくるわ)

(ちょwwwww 死にそうじゃんwwwww)

(せいぜい頑張れよー)


 巨大な脚での踏みつけ、その鋭く針金のような脚に突き刺さればひとたまりもないだろう。さらに脚での踏み付けを避けられても、口から毒液を飛ばしてくるのでそれを避けるのも精一杯だ。


 そんな必死に逃げ回る俺の姿を見て、コメント欄では嘲笑のコメントが比較的多く伺える。こんなに必死なのに……少し腹が立つな。


「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「《下級の雷球スパーク・ボール》!!」

「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「《下級の氷球アイス・ボール》!!」

「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」

「《下級の火球ファイア・ボール》!!」

 

 必死に魔法で抵抗するも、鋼のような甲殻に俺の魔法は通じない。ガギンガギンっと音がなり、跳ね返されてしまう。


「コメント欄のみなさん!! 何か策はないですか!?」


(うーん、攻撃が通じないしなぁ……)

(苦戦してて草w)

(う◯ち)

(素直に目を狙えば?)


 コメント欄を読み、策を得る。

 そうか、目玉か。その手があったか。

 如何に魔物といえども、目は流石に弱点だろう。つまり目玉を潰せば、俺にも勝機はあるだろう。


「よし……全力で倒そう……!!」


 ふぅっと息を吐く。

 幸いなことにクモはその大きさから、あまり動き回っていない。つまり狙いは定めやすく、目玉に攻撃は命中しやすい。


 集中、集中、集中、集中。

 目を瞑り、魔力を練り上げる。

 そして──


「《中級の炎撃波フレイム・キャノン 》!!」


 俺が使える魔法の中で、最強の魔法を放った。全ての魔力を注ぎ込み、放たれた熱線はクモの眼球に向かって飛んでいく。


「ギシャァアアアアアアアアア!!!!」


 そして熱線は、クモの眼球に命中した。

 ズシャッという音と共に、頭部も貫通した。

 そして──クモは倒れた。


「ギ、ギシャァ……」


 やがてクモは光の粒子へと置換されていった。つまり──


「俺の……勝利ですね……!!」


(ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!!)

(ムサシ最強!!)


 コメント欄の絶賛が、心地よい。

 先ほどまでは嘲笑に塗れていたコメント欄が、今では手のひらを返している。その様がなんだかとても、気分よかった。

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