第7話 ボスドロップ
クモを討伐後、2つの物が出現した。
1つ目は赤を主体とした煌びやかな箱、おそらくは……宝箱と呼ばれる物品だ。そしてもう1つは──入室時の鉄扉と同じ扉だ。
「ついに帰れる……のか?」
この扉を開けば、果たして帰ることができるのか。あるいは別のダンジョンに挑まされるのか、それは定かではないが……今は先にやることがある。
部屋の中心に出現した宝箱に近づく。
見た限り、至って普通の宝箱だ。
何に変哲もない、普通の宝箱だ。
「これ……中身はなんなんだろうな……?」
(ちょw 早く開けろしw)
(めっちゃ中身気になる!!)
(う◯こ)
(ボスドロップだから、武器かな?)
(中身が気になりすぎて、夜しか眠れませんw)
コメント欄に催促されるように、俺は宝箱に手をかけた。そして開くと、そこには──
「……カトラス、か?」
全長80センチほどの、湾曲した刃を持つ刀。
刀身は銀色であり、柄は金色。装飾は皆無。
いわゆる海賊などが使っていそうな剣、カトラスが収められていた。
「……結構重いな」
おそるおそる手に取ってみると、ズッシリとした重みが手に伝わってくる。俺の筋力が低いせいかもしれないが、これを振り回すのは……骨が折れそうだ。
(へぇ、強そうじゃん)
(これもCG?)
(ってか、最初からCGなの?)
(わからん。リアルすぎるからな)
(俺は全部本物と信じてるよ)
未だに多くの人にCGだと思われているが、少数の人々はリアルだと信じてくれている様子だ。よかった、この調子で視聴者に信じてもらおう。
【クエストをクリアしました】
【報酬:肉体強化】
目の前に半透明なウィンドウが出現した。
それと同時に、全身にみなぎるパワーが溢れてくる。先ほどまでは重く感じたカトラスだって、今では羽毛のように軽い。
「おぉ……スゴいな」
(何がスゴいの?)
(さぁ? よくわかんねぇな)
(主が嬉しそうでなによりだ)
そうか、皆にはこのウィンドウは見えないのか。それを抜きにしても、俺の身体能力が上昇したことなど、側から見てわかるものでもないか。
「何はともあれ……これでひと段落だな」
カトラスを腰に差し、鉄扉の元へと向かう。
息を整え、ドアノブに手を掛ける。
「おっとそうだ、これで本日の配信は終わります。続きは……あるかは、わかりません」
(マジか!! もう終わりか!!)
(絶対に続きをやってくれ!!)
(マジで!! 楽しみにしているぞ!!)
(登録しました!!)
コメント欄が勢いよく流れ、スパチャが飛び交う。おぉ……スゴい、嬉しい。こんなにバズれるなんて、とても嬉しいな。
本当はこのまま配信を続けたいが、この鉄扉の先が俺の部屋だった場合……家が視聴者数千人にバレることとなる。流石にそれは嫌なので、配信はここでおしまいだ。
「では、お疲れ様でした!!」
(お疲れ様でした!!)
(お疲れ様でした!!)
(お疲れ様でした!!)
(お疲れ様でした!!)
(お疲れ様でした!!)
(お疲れ様でした!!)
大量のコメントが流れていく様を見届け、配信を切った。ふぅ……こうして終わってみると、なんだか妙な達成感と寂寥感があるな。
「何はともあれ、扉を開けるか」
またしてもダンジョンだったら、配信を続けようか。先ほど別れた手前、なんだか気まずいが。
とにかく、俺は鉄扉に手を掛ける。
そして──
「帰れますように!!」
──鉄扉を開いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
扉の向こうには、見慣れた光景が広がっていた。床に散らかった衣服、台所にはまだ洗えていない食器、落とされたままのじいちゃんの写真。
「帰って来れた……のか」
嬉しさのあまり、膝から崩れ落ちる。
よかった、ようやく……帰れたんだな。
苦節数時間、もう日が登っている。
帰宅できたという実感を得られたと同時に、ドッと疲労が押し寄せてくる。【肉体強化】で身体能力が上昇したのだが、それでも精神的な疲弊は避けられない。あれほどの大冒険をこなしたのだから、こんなに疲れても不思議ではないか。
「何だったんだろうな、あのダンジョンは」
仏壇から入れた謎の部屋も、そこから辿り着いたダンジョンも、何もかもが不思議だ。夢だったのか、とも思ったが腰に刺されたカトラスが現実だと語っている。
謎の経験をこなせたはいいが、もう二度とあのダンジョンには挑めないだろうか。そんなことを考えたが、どうやらソレは誤りのようだ。部屋に帰ってきた時の鉄扉が、消えずに未だに顕現している。
「つまり……この鉄扉を潜れば、いつでもダンジョンに挑めるのか……?」
だったら、またダンジョン攻略の配信ができる。大金を稼ぎ、生活を送れる。
バズったことで、俺の生活は激変するだろう。じいちゃんが亡くなってから不安ばかりが募る日々だったが、久しぶりに安堵できた。
「理解できない要素は数多くあるが、とりあえず……寝るか」
床に落ちたじいちゃんの写真を仏壇に添え、俺は布団へと向かった。もう……今日は学校をサボろう。
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