第4話 初配信 1/2

「どうも〜……む、ムサシちゃんねるで〜す……」


(……)

(……)

(……)


 つい先ほど何となしにスマホに触れた時に、このダンジョン内では電波が通じることに気が付いた。ここで助けを求めようと考えたが、それをしたところで助けは来れないだろう。電波は通じるが、GPSはまるで反応がないのだから……現在地を伝えることもできない。


 そこで俺は、PBTubeにて配信を行うことにした。ここで配信を行えば、俺が生きていたという軌跡を残すことができる。このダンジョンを踏破した後に、どのような未来がまっているかはわからないが……誰にも知られずに死ぬことは嫌だ。誰か一人でも、俺の生き様を覚えてほしいのだ。


 さらにネット小説の世界では、ダンジョン配信というジャンルが流行っている。このダンジョンから脱出できた後のことを考えると、今の状況は逆にチャンスなのだ。現状俺にしかできないことなのだから、この機会を逃す他はないのだ。


「って言っても、視聴者はゼロか。PBTuberは飽和しているから、いきなり配信をしても……そりゃ誰も見ないよな」


 幸いなことに、かつて一度だけ動画投稿をしたことがあった。ジャンルは解説動画であり、視聴者は数十人程度だったが。今はそのチャンネルは削除したが、当時のノウハウは覚えている。配信も動画投稿も、順序や手順はそう変わらない。


 そこで新規チャンネルを作成した。

 チャンネル名は『ムサシちゃんねる』。まぁ……捻りはない。もう少し捻ったほうが、視聴者は増えるだろうか。


「って言っても、良いアイデアは思い浮かばないし……このままでいいか」


 ため息を吐き、ダンジョンを歩む。

 相変わらず、視聴者は──


(え、これどこ)


 チャット欄に、1つのコメントがついた。

 同時に視聴者の数が、1人増えた。

 動画配信で、初めての視聴者がやってきた。


「あ、こんにちは!! ムサシちゃんねるです!! ここはえっと……ダンジョンです!!」


(は? ダンジョン? 疲れてるの?)


 どうやらダンジョンという単語に対して、懐疑的な視聴者らしい。まぁ……当然といえば当然だな。俺も逆の立場であれば、似た反応を示していただろう。


「えっと、別にふざけているわけではなくて──」


 と、そんな時だった。

 目の前の地面に、魔法陣がう浴び上がる。

 そして出現したのは──


「コボォオオオオオオオ!!!」


 イヌの遠吠えと人間の笑い声を掛け合わせたような、形容しがたい不気味な声が洞窟内に響く。薄暗い先に見えたのは、これまた異質な魔物の姿だった。


 全長は約150センチほど。シルエットは人間のソレであるが、その肉体は異様なほど痩せさばらえている。四肢はまるで枯れ枝のように細く、身体は薄くて肋骨が皮膚に浮き出ている。そしてその身は服を纏っておらず、全裸だ。

 

 シルエットは人間のソレであるが、それは胴体だけの話だ。顔面は人間からは大きくカケ離れており、イヌに酷似していた。細長い口からはヨダレをダラダラと垂れ流し、血走った瞳は薄暗い中で爛々と輝いている。まるで飢えた野犬、そんな印象の強い顔面をしていた。

 

 その魔物は全裸であったが、特に問題はない。イヌに酷似した顔面はもちろん、人間に似た身体にもモサッと毛が生えているからだ。一度も洗ったことのなさそうな脂っこい茶色い毛が、全身にビッシリと生えている為に全裸でも特に視線が困ることはない。陰部もキッチリと隠されている。ケモナー大歓喜だ。


「こ、コボルト……かな? あ、ですかね?」


(は? これゲーム?)


「い、いや、ゲームじゃなくて……えっと、リアルです」


(確かに、リアルすぎるよな)

(初見です。なんか、ヤバいですね)


 コボルトが出現した途端に、視聴者の数が一気に5人に増えた。さらにコメントを行う人も、もう1人増えてくれた。


(これCG?)

(でも、リアルすぎない?)

(ゲームじゃね?)

(マジ? なんてヤツ?)


 さらに次々とコメントが増えてくる。

 これは……良い傾向だな。


「みなさん、落ち着いてください!! これはCGではなく、リアルな魔物です!!」


(ロールプレイ徹底してるな)

(へぇ、面白いじゃん)

(チャンネル登録しました)


 お、チャンネル登録きた!!

 ロールプレイと言われて若干悲しいが、仕方ないか。魔物なんて言われても、信じれないもんな。


「まぁいいや……とりあえず、戦おう!!」


 コボルトは爪を立て、こちらを警戒している。あの爪に引っ掻かれたら、大ダメージは確実だろう。想像もしたくない。


「よし……気合い入れよう……!!」


 拳を握りしめる。

 大丈夫、ここに至るまでに数ひきのゴブリンを倒したんだ.そのおかげもあって、スキルレベルもいくつか上昇した。俺なら勝てる。


「この戦いに勝ったら、チャンネル登録お願いします!!」


(え、戦うの!?)

(おぉ、頑張れよw)

(応援してます!!)


 PBTuberっぽい発言をして、俺は駆けた。





 

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